種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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ヒナ編

伝令兵の異変

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――ヒナが水人華の群生が存在する泉から抜け出した数時間後、夜が明ける前に何とか森を脱出して捜索隊が設営したキャンプにまで到着する。既にヒナ以外の全員が集合しており、彼女の姿を見て大勢の人間が駆けつける。


「ただいま~」
「……お帰り」
「ひ、ヒナさん!!大丈夫でしたか!!」
「心配したぞ……!!」
「おお、無事だったでござるか」


真っ先に第四部隊と久しぶりの登場を果たしたカゲマルが迎えに訪れると、すぐにヒナは彼らに群がれながらも見慣れない者達が歩み寄ってくるのを確認する。服装から察するにテンペスト騎士団の団員ではなく、王国の伝令兵だと思われる。

彼らはヒナの元に訪れると、慌てふためきながら駆け寄り、周囲の人間に聞こえない声量で話しかけてくる。


「……ジャンヌ様が貴女をお呼びです。すぐにご用意を」
「ジャンヌ……団長が?」
「はい……北部を捜索している第一部隊が壊滅的な損傷を受けたらしく、すぐにも各部隊から救援を送り込む事が決まりました」
「北部山岳か……」


王国からの伝令兵の報告によると、北部山岳に向かった精鋭部隊は既に半数以上が脱落しており、その過酷な環境とグリフォンやスノウ・ベアー(シロクマに酷似した魔物)などの凶暴性の高い魔物達に襲われ、次々と犠牲者が生まれた。

聖剣の所持者である「レーヴァティン」を持つジャンヌですらも、想像以上の北部山岳の過酷な状況に疲労し、白狼種の捜索は困難に陥っていた。そのため、各部隊は人数を割いてでも彼女の部隊に救援を送り込む事が決まり、この南部地方の捜索隊からは唯一「北部山岳」に詳しいヒナが援軍に赴く様にジャンヌが指示を出したという。

元々、北部山岳の捜索隊にはヒナも参加するように言われていたのだが、彼女(正確にはレノ)が過ごした場所は北部山岳の中でも奥部であり、第一にあの場所にはアイリィの力で転移されたからこそ辿り着いたのであり、ヒナ自身は北部山岳まに繋がる道を知らない。

それにアイリィから事前に遺跡がある場所は南部地方の可能性が高いと言われていたため、ヒナ自身が志願してこの南部の捜索部隊に送り込まれたのだが、どうやら想像以上に北部山岳の精鋭部隊の状況は芳しくないらしい。


「どうかヒナ様には今夜中に転移結晶で救援に向かってほしいとの事ですが……」
「あの場所は私一人が助けに行ったところでどうにもならないよ。そんなに酷い状況なら捜索は諦めて、一旦戻ってくるように伝えなよ」
「し、しかし!!この放浪島の北部山岳には、まだ生息している白狼種がいる可能性もある以上、諦めるわけには……!!」


北部山岳の調査を試みたのはウル以外の白狼種を見つけ出すためでもあり、先祖がフェンリルと同種である可能性が高い以上、何としても捕獲する事でフェンリル攻略法の糸口を見つけ出さなければならない。

この放浪島に眠る「白狼伝説」そして闘人都市から離れた草原に封印されているという「フェンリル」この二つの種に共通点がある以上、封印が解放される前に情報を集めなければいけないのは分かるが、


「……白狼か」


ヒナが知っている限り、北部山岳に存在した「白狼種」は彼女が倒した巨狼と、その息子であるウルだけであり、よくよく考えればフレイと契約したウルを連れてくるべきだったのかと考えるが、すぐに思い直す。

(実験動物として扱われるかも)


王国側も今回のフェンリルが復活するという報告を聞き、必死に何らかの情報や強力な武器を得ようと躍起になっている。もしも仮にウルを王国側に引き渡した場合、無事に返してくれるとは到底思えない。

また、北部山岳にあの巨狼とウル以外に白狼種がいないとは限らず、ヒナが知らないだけでまだ白狼種の生き残りが存在する可能性もある。


(どうするかな……)


ジャンヌが危機に陥っているのならば救援に向かいたい気持ちもあるが、ヒナは既にアイリィが告げた水人華が育成されているという湖(というより泉)を見つけた以上、準備を整えてもう一度訪れるつもりだったが、判断に迷う。


「アルト様は既にご自身の護衛部隊を送っております。どうかヒナ様も、お急ぎを……」
「う~ん……」
「まあ、落ち着くでござるよ。ヒナ殿も今帰って来たばかりでお疲れでござる。まずは少し休息を取らせてから……」
「そんな事を言ってる場合ではないのです!!さあ、早く移動を!!」


妙にヒナに救援を向かうように突っかかる伝令兵に疑問を抱き、カゲマルはさり気なく彼の後ろに回り込み、


「ほりゃっ!!」
「ぐはっ!?」
「な、何を!?」


兵士の首筋にカゲマルが手刀を叩き込むと、その場に派手に倒れ込み、他の兵士たちが驚愕の表情を浮かべるが、当の気絶させた本人は冷静に倒した兵士の様子を調べ、


「……お主等、王国の兵士ではござらぬな」
「なっ……何を言っている!?」
「我々は王国の……!!」
「嘘をつくなでござる!!」


カゲマルは懐からクナイを取り出し、残りの兵士たちに向けて強襲する。流石に隠密部隊の隊長を勤めることはあり、10秒も経たないうちに気絶した兵士が地面に倒れこむ。


「死んでいる……」
「いや、勝手に人を殺人鬼しないで欲しいでござるよ!?」
「き、急にど、どうしたんですかカゲマルさん!!」
「な、何でこんな事を……」


捜索隊の団員達も彼女の突然の行動に戸惑い、倒れ込んだ兵士たちを心配したように覗き込むが、カゲマルは彼等の1人を抱え、


「……これを見るでござる」


兵士の首筋をさらけ出し、全員に見せつけると伝令兵と思わしき男の首に「黒蛇」の形をした痣が刻み込まれており、以前に剣乱武闘の際にアルトに埋め込まれていた怨痕と酷似している。


「恐らく、資料にあったロスト・ナンバーズの怨痕の類でござろうな。どうやら団員に化けて、上手くこの放浪島に潜り込んだようでござる」
「よく気付いたね」
「凄いですカゲマルさん!!」
「……鋭い」
「初めて役に立った」
「最後のは酷いでござる!?」


ヒナ達が素直に感心する中、カゲマルは照れくさそうに頭を搔きながら、最後の言葉に衝撃を受けたようにツッコミを入れる。


「伝令兵が訪れたと聞いた時から怪しんでいたでござるよ……何せ、今回の任務には拙者たち隠密部隊も駆り出されているでござるから、もしも何か他の部隊に報告をするのならば我が部隊の人間を派遣するのが妥当でござる」
「「なるほど~」」


言われてみれば確かにその通りであり、隠密活動のプロフェッショナルな彼女達の部隊を差し置いて、わざわざ王国の兵士を伝令として扱うなど考えにくい。

すぐにも団員たちは伝令兵を偽る兵士たちを拘束し、全員の首筋を調べると確かに「黒蛇」の怨痕が刻み込まれており、リーリスの分身体が確実に身体に封じ込まれている。

しかし、前回の剣乱武闘の際はアルトが倒れた時は黒蛇は彼の元を離れ、レノに乗り移ろうとしてきたが、どういう事か現在目の前で拘束されている兵士たちの分身体は飛び出す気配は無い。


「こ、こいつら……急に豹変して襲い掛かってこないでしょうね……?」
「も、もしかしたら死人に変化したりとか……」
「それは心配ないでござる……拙者の知る限り、怨痕によって体調を崩す者は居ても、肉体を変化させるような効能は無いでござる。とはいえ、聖属性の力を宿す者でなければ浄化は出来ないでござるな……」
「あ、それならコトミさんが居ますよ!」
「……出番?」


名前を呼ばれてコトミは自分を指さし、期待に込められた視線が周囲から注がれ、彼女は眠たげに瞼を擦りながらも頷く。
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