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プロポーズの後のお話 <大谷視点>
13.不意打ちです。
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さきほど話題の中心になっていた当の吉竹さんは……今日はお休みだ。
何でも小説賞に応募する予定の書き掛けの小説があって、今日と翌日の休みを利用して一気に仕上げてしまおうと考えているらしい。正社員は有休が多いから、吉竹さんは時折このように利用しているとのこと。仕事の見通しが聞く総務課にいる内に何とか入賞したいと考えているんだって。小説もバリバリ書いて中務さんと言う立派な彼氏もいて、更に仕事にも野心を持っている―――そんな彼女は本当にエネルギッシュな人だなぁ、と本当に感心してしまう。
私だったら仕事・趣味・恋愛―――のどれか一つにしか向き合えないと思う。だから今は恋愛でいっぱいいっぱい。……うータンは趣味と言うより生活の一部なので、これは数えない事にしている。と言うか癒しが無いと私の場合ペシャンコになって生活すらままならないから、水道や電気と同じ、私にとってはライフラインみたいなものだ。
うータンの事は横に置いておいて。一つにしか向き合えない不器用な所は両親に似たのかな?と思う。二人とも仕事で手一杯でそのほかの事が結構疎かになるタイプだ。愛情は貰っているしその辺りは疑ってはいないけれど―――子供の世話はおばーちゃんに任せてほったらかし、だもんね。もう大人だからそれほど気にならないけど、三人家族なのに三人ともバラバラって……よく離婚問題に発展しないなって思った事がある。二人とも仕事人間だからちょうど良いんだろうな。どっちかが暇だったり、寂しがりだったら続かなかったのかも。
パパはママの事大好きだしね。でもママは―――う~ん、パパに絆されなければ一生独身で研究だけしてただろうって言ってたから、ただ流されやすいだけなのかな?ひょっとして。その部分に関しては私は少しママの性質を引き継いでいるかもしれない。……うん、もうちょっと違う所似たかったな。
「大谷、ちょっといいか?」
総務課に突然丈さんが現れた。営業課長が直接足を運ぶなんて事無かったから少しドキッとした。
「どうしたんですか?」
「鞍馬さんいるか?話があるんだが」
「あ、はい。いらっしゃいますよ、ご案内します」
「悪い」
総務課長の席はちょっと奥まっていて別室ではないのだけれどパーティションで区切られている。丈さんは皆と同じ見通しの良い所にいた。課によって雰囲気が違うのはこういう配置も関係しているかもしれない。常に課長の視線に晒されている営業課は結構ピリピリしている、それに対して総務課は何だかゆったりした空気が流れている。
『亀田課長』を奥のスペースまで案内して、鞍馬課長にお伺いを立ててから「どうぞ」と頭を下げた。顔を上げると丈さんがフッと微笑んで少し顔を寄せて来たので、ドキリと胸が跳ねる。
「今日の昼、誰かと約束しているか?」
「?いいえ。今日吉竹さんお休みなので……」
「……じゃあ、外で食べないか?」
「……え……」
外で……と言う事は―――二人で?!
丈さんが―――なんと、ランチに私を誘ってくれるの??
こんな事、初めてだぁあ!
「は、はいっ!食べますっ!ぜひ外で食べさせてくださいッ……!」
動転し過ぎて妙な言い回しになってしまった……!
慌てる私にクスリと丈さんは微笑んで「後で連絡する」と小さな声で囁いてから―――背をピンと伸ばすと何事も無かったようにパーティションの中に入って行ったのだった。
吃驚した……!職場で笑う丈さんって貴重!
今まで見た事無いよ。あっそうか、テリトリーの営業課じゃないからかな?なるほど~これはちょっとクルわ。こんな風に微笑まれたら、ズキュンって撃ち抜かれちゃうよ、心臓。他課で人気あるって言う理由、今切実に理解できてしまったわぁ……。
スーツでビシッと決めている仕事用の丈さんが笑うと……カッコイイ……惚れ直しちゃうよ~~!もう、もう!何であんな不意打ちをぉお……!!!
内心派手に悶えながらも、私はギリギリ一線を守るように平常心を装った。
しかしあまりに浮足立ってしまって―――その時の私は、周りに気を配る余裕なんてまるでなかったのだ。
何でも小説賞に応募する予定の書き掛けの小説があって、今日と翌日の休みを利用して一気に仕上げてしまおうと考えているらしい。正社員は有休が多いから、吉竹さんは時折このように利用しているとのこと。仕事の見通しが聞く総務課にいる内に何とか入賞したいと考えているんだって。小説もバリバリ書いて中務さんと言う立派な彼氏もいて、更に仕事にも野心を持っている―――そんな彼女は本当にエネルギッシュな人だなぁ、と本当に感心してしまう。
私だったら仕事・趣味・恋愛―――のどれか一つにしか向き合えないと思う。だから今は恋愛でいっぱいいっぱい。……うータンは趣味と言うより生活の一部なので、これは数えない事にしている。と言うか癒しが無いと私の場合ペシャンコになって生活すらままならないから、水道や電気と同じ、私にとってはライフラインみたいなものだ。
うータンの事は横に置いておいて。一つにしか向き合えない不器用な所は両親に似たのかな?と思う。二人とも仕事で手一杯でそのほかの事が結構疎かになるタイプだ。愛情は貰っているしその辺りは疑ってはいないけれど―――子供の世話はおばーちゃんに任せてほったらかし、だもんね。もう大人だからそれほど気にならないけど、三人家族なのに三人ともバラバラって……よく離婚問題に発展しないなって思った事がある。二人とも仕事人間だからちょうど良いんだろうな。どっちかが暇だったり、寂しがりだったら続かなかったのかも。
パパはママの事大好きだしね。でもママは―――う~ん、パパに絆されなければ一生独身で研究だけしてただろうって言ってたから、ただ流されやすいだけなのかな?ひょっとして。その部分に関しては私は少しママの性質を引き継いでいるかもしれない。……うん、もうちょっと違う所似たかったな。
「大谷、ちょっといいか?」
総務課に突然丈さんが現れた。営業課長が直接足を運ぶなんて事無かったから少しドキッとした。
「どうしたんですか?」
「鞍馬さんいるか?話があるんだが」
「あ、はい。いらっしゃいますよ、ご案内します」
「悪い」
総務課長の席はちょっと奥まっていて別室ではないのだけれどパーティションで区切られている。丈さんは皆と同じ見通しの良い所にいた。課によって雰囲気が違うのはこういう配置も関係しているかもしれない。常に課長の視線に晒されている営業課は結構ピリピリしている、それに対して総務課は何だかゆったりした空気が流れている。
『亀田課長』を奥のスペースまで案内して、鞍馬課長にお伺いを立ててから「どうぞ」と頭を下げた。顔を上げると丈さんがフッと微笑んで少し顔を寄せて来たので、ドキリと胸が跳ねる。
「今日の昼、誰かと約束しているか?」
「?いいえ。今日吉竹さんお休みなので……」
「……じゃあ、外で食べないか?」
「……え……」
外で……と言う事は―――二人で?!
丈さんが―――なんと、ランチに私を誘ってくれるの??
こんな事、初めてだぁあ!
「は、はいっ!食べますっ!ぜひ外で食べさせてくださいッ……!」
動転し過ぎて妙な言い回しになってしまった……!
慌てる私にクスリと丈さんは微笑んで「後で連絡する」と小さな声で囁いてから―――背をピンと伸ばすと何事も無かったようにパーティションの中に入って行ったのだった。
吃驚した……!職場で笑う丈さんって貴重!
今まで見た事無いよ。あっそうか、テリトリーの営業課じゃないからかな?なるほど~これはちょっとクルわ。こんな風に微笑まれたら、ズキュンって撃ち抜かれちゃうよ、心臓。他課で人気あるって言う理由、今切実に理解できてしまったわぁ……。
スーツでビシッと決めている仕事用の丈さんが笑うと……カッコイイ……惚れ直しちゃうよ~~!もう、もう!何であんな不意打ちをぉお……!!!
内心派手に悶えながらも、私はギリギリ一線を守るように平常心を装った。
しかしあまりに浮足立ってしまって―――その時の私は、周りに気を配る余裕なんてまるでなかったのだ。
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