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34-会話は盛りあげツールです。

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 あ、ヤバい。俺、またこんなにしてる。
 じんじんと疼きだした乳首に、どうしよう、と途方に暮れた。

「ゆきなり、勃ってる。シャツ越しに見えるのってエロいな」
 大悟からそんな指摘をされて、咄嗟に胸元を手で覆う。でも、片手じゃ隠しきれるわけもない。
 掴まれたままのもう一方の手をどうにかできないかと焦っていると、
「え、ゆきなり、そっちも勃ってるのか?」
 と、少し驚いたような声がした。

 俺はこっちのほうを言ったんだけどと、とうに勃っていたペニスの先端をシャツの上から大悟につつかれる。思いもよらない場所への刺激に「んんっ」と喉奥が小さく鳴った。

 しまった。そうか。『勃つ』といったら、男なら普通はペニスのほうだ。乳首を意識するあまり、そっちまで頭が回らなかった。


 さらに手を引かれ、ついには大悟の胸に寄りかかってしまう。その拍子に押さえていた自分の手が乳首を擦って、音もなく息を呑んだ。

「ゆきなり、見せて」
 耳元に顔を伏せられ、囁かれた。首筋にかかる息が、いつもより少しだけ荒い。
 そうか、大悟も興奮してるんだ。なら、俺が興奮してたっておかしくない。大悟の視線を浴びるって想像しただけで乳首が勃ってしまっても……いや、それはおかしいか。

「シャツ、脱いで」
 気持ち上擦ったこえでそう二人のあいだに手を差し込まれ、ボタンを探られた。
「あっ、やっ。まって、タンマ、タンマっ」
 薄い布の上からまさぐる大悟の指が皮膚を擦るたびに、そこから電気が散ってぴりりと痛む。それが乳首にまで波及して、さらにずきりと尖っていくのを感じた。

「じ、自分で脱ぐからっ」
 タンマが無効らしい大悟の指を、慌てて自由なほうの手で取り押さえた。
 こんなに密着したまま大悟に脱がされるだなんて、興奮しすぎのこの身体がどうなってしまうか想像もつかない。下手に触れられて、みっともなくイッたりしたら目も当てられない。


 俺の言葉にやっととまった大悟の手が、胸元からそっと離れていく。そのことにホッとしながら大悟の上から身を起こし、大悟の腿の上に残ってた脚もおろしてベッド脇に立った。

 大丈夫だ。自分で服を脱ぐくらい、なんてことない。部活の遠征とか修学旅行とか、これまでだって大悟の前で裸になったことくらいあっただろ。まあ、俺自身はあまり覚えてないんだけどな。みんなの裸を視界に入れないよう、意識しまくって半分パニックになってたから。

 さあ脱ぐぞ、と、シャツのボタンに手をかけてみて気がついた。大悟と距離を取った方が落ち着いて脱げると思ってベッドから降りたけど、もしかしたらこれは、失敗だったかもしれない。この位置だと、ベッドに座る大悟の顔がちょうど俺の胸の高さにくるんだ。

 こんな真正面から見られながら脱ぐのか。
 いやいや。脱ぐくらいなんだ。意識しすぎるから狼狽えるんだ。こんなの、サッとしてしまえばスッと終わる。


 怖じけづく自分を奮い立たせて、三番目のボタンに指をかけた。ほら、服を脱ぐなんてなんてことない。
「ゆきなりって、肌の色が白いよな」
 いきなり大悟に話しかけられて、ボタンを摘まんでいた指がびくりと滑った。ボタンを外せたからいいけど、ビビりすぎだろ、俺。落ち着けよ、もう。

「ああ、アキレス腱切ってからはスポーツもしてないし、日に焼ける機会もないからな」
 平静なふりをして答えながら、四番目のボタンを外す。うん、ほら。やっぱり落ち着けば大丈夫だ。楽勝、楽勝。

「ゆきなりは、部活でロードワークに出てもたいして焼けなかったぞ」
「そうだったっけ?」
「日焼けしてもほんのり赤くなる程度だ」

 ああ、そうだった。赤くなったところが少し痛くなって、それが治まるとちょっと焼けたような気がするくらいにしか色が変わらなかったんだ。真夏はいつもそんな感じで、秋には薄く焼けた肌色も元に戻ってた。高一の夏前には負傷して部活もできなかったから、中学時代の話だな。懐かしい。

「ゆきなりがユニフォームを脱ぐと、白い肌と薄赤く日焼けした肌のコントラストがエロくって、いつも目のやり場に困ってた」
 続いた大悟のセリフに、最後のボタンを外しかけていた手がとまる。
 エ、エロくてって、あれ? 中学のときの話だよな? 大悟って、いつから俺が好きだったんだ?


「この前、ゆきなりがさ」
「え、あぁ、ぅん」
 大悟の先の発言に混乱したまま、やりかけだった作業をなんとかこなす。そのせいで大悟への返事も上の空だ。

「あちこちピンクになってて綺麗だったから」
「あぁ、ピン……ク、って、ぇええっ?」
 何っ? なんの話っ!?
 ピンクと聞いて、咄嗟にボタンを外し終えたばかりのシャツの上から両手でぺニスを押さえた。

「もしかして乳首もかな、って」
「……っっ!!」
 続いた大悟の言葉に、たまらず開きかけてた胸元も掻き合わせてあとずさる。でもすぐ、窓に背があたり、半歩も逃げられなかった。


「な、なに言ってんの? 大悟サン?」
「ん? 思ったことをそのまま言ってるだけだけど」
 混乱を通り越して半ば恐慌状態に陥った俺に、大悟がのほほんと答える。

「そ、そんなことまで、言うなよ」
 そんなこと言われたら、恥ずかしすぎて見せるに見せられなくなるじゃないか。
 熱をあげるばかりの頬に居たたまれなくなった俺が、大悟から視線を逸らそうとしたときだった。

「いや、言うよ。幸成のこと、もっと知りたいのと同じくらい、幸成にも俺のこと知ってもらいたいから。思ったことも、感じたことも、幸成には全部言う」
 まただ。真っ直ぐな声と真っ直ぐな視線。強い意志の込められた瞳には、どう抗っても敵わないと知れた。

 大悟の言いたいことはわかる。俺たちは、互いのことがわかっているようでいて、わかってないことも多かった。自分で自分がわかってなかったり、意識しすぎて目を逸らしてたせいもあるけど、もっとちゃんと言葉を交わしていれば、両想いになるのにこんな遠回りをしなくても済んだかもしれない。

「でも、だからって、そんなことまで」
 頭では納得できても、大悟の口から卑猥な言葉を聞かされる羞恥には耐えきれずに抵抗してみると、
「リハビリ、つきあってくれるんだろ?」
 と、言質を振り翳された。
 た、確かに、思ったことを言葉にすることがいまの大悟には必要だって、それは認めるけど。みとめるけどぉ。


「ゆきなり、脱いでくれないのか?」
 大悟の手が伸びてきて、シャツの胸元を掻き合わせてる手の甲を、以前よくされた頬を撫でるあの仕草で撫でられる。
「俺は見たいよ。ゆきなりのすべてを。ゆきなりは?」
 手の甲から肘までをするりと指先で辿られて、緊張と期待と羞恥とでいっぱいいっぱいの身体がふるりと揺れた。

「俺に見られるの、いやか? 本当に?」
 そんな聞き方はズルいと思う。俺は、大悟に見られると想像しただけで乳首を勃たせて、恥ずかしさに耐えながらも自分でボタンを外したんだぞ。本当はどうかなんて、そんなの……。

「い、いやじゃ、ない。大悟に、見られたい」
 素直な気持ちを口にした途端、全身の血液が沸騰したみたいに熱くなった。ただでさえのぼせそうだったのに、もういつ倒れても不思議じゃない。『俺たちには言葉が必要だ』とわかってても、俺にはハードルが高すぎだ。

 ついには大悟の顔も見れなくなって、俯いたまま恥ずかしさに耐えていると、肘の先に残っていた大悟の指先がふっと離れていった。
 それきり大悟は喋らないし動かない。たぶん、俺が脱ぐのを待ってるんだ。


 どうする? 脱ぐか?
 いや、脱ぐか、じゃない。脱げよ、もう。男だろ!

 自分を叱咤してみたものの、熱くなりすぎて強張る手の感覚はどこか鈍い。握り締めていた指をなんとか解き、ぎこちない動きでシャツの前を左右に開くと、汗に蒸れた肌の上を空気が動くのを感じた。
 途中で挫けたがる気持ちにキツく目を閉じて、脱ぐことにだけ集中する。肩をはだけ、手首を抜いて、シャツをそのまま脱ぎ落した。ああ、もう何も隠せていない。

 自分で確認する勇気もないけど、きっと俺の乳首は大悟の予想通りの色に染まってる。ペニスだって、まだまともに触ってもいないのに先端には小さく濡れた感触があった。期待に満ちたこんな身体を大悟に見られてるのかと思うと、無性に暴れだしたくなる。

「ゆきなり、」
 大悟の低く掠れた声に、そっと目を開け顔をあげる。軽く見あげてくる角度で、ベッドに座る大悟と視線が絡み合った。

 いっぱいいっぱいだった身体に、少しの不安が混ざって、思わず縋るように見つめてしまった。
 その視線の先で、
「我が侭聞いてくれて……ありがとう」
 いままで見たこともないほどやわらかな顔をして、大悟が深く微笑んだ。
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