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2巻

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 それに、今後他の上級ダンジョンに潜るためにはレベル上げが必須だし、第十階層まで下りて中ボスを倒せば、行き来が自由にできる魔法陣が出現して、今後の採取が楽になると聞いて長く潜ることを決意した。
 うう……店を空けることがとっても心苦しいんだけどね!
 本当はエアハルトさんとアレクさんも「一緒に行きたい」って言ってたんだけど、エアハルトさんは同じ時期に騎士団のお仕事で特別ダンジョンの討伐とうばつ隊に組み込まれ、二週間はいないそうだ。
 そしてアレクさんも私の後ろ盾の件でガウティーノ家のお手伝いをすることになっているらしく、忙しいと言っていた。

「ラズ、いいか? く・れ・ぐ・れ・も! リンに無茶をさせるなよ?」
〈うん!〉

 エアハルトさんは、ラズにそんな言葉を残して騎士団のお仕事へと向かった。
 無茶をさせるなって……信用ないなあ。今まで無茶したことなんかないのに。
 それはともかく、今は話し合いに集中しないと。

「リンは採取をするとして、攻撃手段は前と同じか?」
「はい」

 私の攻撃手段は【風魔法】のウィンドカッター、そして中級ダンジョン初踏破とうはの宝箱から出た大鎌だ。
 その大鎌は、私の身長の倍近くの大きさで、鎌の部分も持ち手も真っ黒だ。
 見た目はかなり不気味。死神が持っていてもおかしくないかも。
 だけど見た目に反してとても軽いし、よく見ると持ち手の上下にはなにか文字のようなものがられていて、鎌の根元部分にも装飾があっておしゃれ。
 そういえば、中級ダンジョンで初めて大鎌を【アナライズ】したとき、いろいろあったな……
 大鎌を【アナライズ】で見た情報がこれなんだけど……


【ヴォーパル・サイズ】特殊アンコモン
  高名な薬師が草刈りに使っていたという大鎌
  特殊アンコモンではあるが、成長すると言われている
  成長すると伝説レジェンドにまでなる少し変わった仕様
  薬師が装備した場合に限り、ボーナスあり
  薬師が装備した場合:攻撃力+200 防御力+200


「おおぅ……」

 私のつぶやきに、一緒に潜った騎士たちが不思議そうな顔をしていたっけ。
「見せてくれ」と言われたから大鎌を見せると、その説明を見た騎士たちは肩や唇がぷるぷると震えていた。

「く、草刈り……」
「だから、大鎌は薬師専用って……ぶふっ」
「「「「「「「わははははっ!」」」」」」」
「気になるのはそこなんですか⁉」

 突っ込むところはそこなの⁉ 攻撃も防御も異常な数値だと思うんだけど……
 誰よ、大鎌で草刈りをした薬師は!
 確かに間違っていないけど、そこは普通サイズの鎌で草刈りをすればいいだけの話じゃない!
 ……なんて内心でそんな突っ込みをしつつ、当時がっくりと肩を落としたことまでも思いだしてしまった。
 とにかく、今は次の上級ダンジョンのことを考えないと。

「あ、そうだ。久しぶりなので、大鎌の動きを確認したいです」

 普段使うことがないから、動きに自信がなかったりする。

「久しぶりなら確認したほうがいいだろう」
「そうでござるな。そのときにもう一度連携の確認をしたらどうでござる?」

 ということで、ギルドの地下にある訓練場に行って、諸々を含めた戦闘訓練をすることに。
 さっそく始めたんだけど……
【風魔法】を使った時点で、呆れたような溜息をつかれた。なんでさー?

「おい、リン……魔法の威力が上がっているじゃねえか。お前さんは冒険者としてもやっていけそうだな。普通、薬師でレベルや魔法の威力がそこまで高いやつはいないからな?」

 ヘルマンさんに言われたけど、そんなの知らないもん。
 レベルを上げろって言ったのはエアハルトさんとアレクさんだと伝えたら、呆れたような表情を浮かべていた。
【風魔法】は攻撃も回復も補助も含めて、ほぼ全部使えるからね、私。
 まあ、私は薬師なので魔法ではなく、ポーションで怪我けがや状態異常を治しますよ~。
 その後、大鎌の動きを練習していたら、いつの間にかスキル【大鎌】を習得していた。
 こんなタイミングで習得なんて、普通はあり得ない! ってヘルマンさんたちが言っていたから、絶対にアントス様の仕業しわざだろう。
 私の大鎌の訓練が終わったあとは、私を交えた六人とラズの連携訓練をした。
 カズマさんも私たちも『たけおおかみ』のパーティーに一時的に入れてもらう形になるから、連携訓練は大事。
 初級や中級ダンジョンならともかく、上級ダンジョンは練習なしでいきなり連携ができるほど、甘い場所じゃないから。
 それほどに強い魔物が出るのだ。
 連携訓練をみっちりこなしたところで、明日凄腕すごうで鍛冶かじ職人ゴルドさんのお店で会おうと約束をし、解散した。


 翌日のお昼に、ゴルドさんのところに行く。

「ゴルドさん、大鎌の剣帯けんたいの製作と、点検をお願いします。あと、手入れの仕方も教えてください」
「おう、いいぞ。貸してみろ」

 ゴルドさんに渡すと大鎌を見て唖然あぜんとしたあと、がははははっ! と笑った。
 まあ、草刈りって書いてあるもんね、説明に。
 ゴルドさんは草刈りのくだりでひとしきり笑ったあと、【鑑定】の結果を教えてくれた。

「しかし、すげぇ性能だなあ。手入れは必要ないようだ」
「へ?」
「普通の【アナライズ】じゃそういったのは出ないが、俺たち鍛冶かじ屋が使う【鑑定】には、はっきりと出てる」

付与エンチャント】で自動修復がついているから、手入れは必要ないそうだ。
 うん、それは助かる。そういうのは苦手だし。
 それに、この大鎌には使えば使うほど強くなる、ヒヒイロカネという金属が使われているらしい。
 だから、魔物を倒して武器自体のレベルを上げてやるといいと、ゴルドさんに言われた。
 大鎌の説明にあった〝成長する〟って、そういうことか!
 ちなみに上級冒険者にはヒヒイロカネを使った武器や防具を持っている人が多いんだって。
 あとは以前買った二本の短剣とウィンドダガーの整備をお願いし、簡単な手入れの仕方を教わった。
 私の剣帯は今日中にできるのだけど、ヘルマンさんたちの武器や防具の整備は一日かかるそうなので、今日は一旦解散。
 明日は私の店が休みなので、みんなで必要なものを買いに朝市へ行くことに。
 ゴルドさんのお店の前で待ち合わせしようと約束して、私は商人ギルドへと行く。
 これからダンジョンに潜ることを伝えて、薬草や瓶の材料である砂の発注をするためだ。
 担当者であるエルフの女性――キャメリーさんにかなりの量を発注し、二週間はダンジョンに潜っていることと、帰って来たら顔を出すのでそれまでに用意してほしいと伝えた。
 量が量だけに、二週間の期間があることを聞いてキャメリーさんはホッとしていたっけ。
 屋台で晩ご飯を食べ、家へと戻る。
 手持ちの薬草でハイポーションとハイMPポーション、万能薬を作り、上級ダンジョンに備えた。
 回復は私の役目だから、念のためハイパー系と神酒ソーマも持って行くつもりでいる。
 いざとなったらダンジョンで作ればいいしと、私のチートな調薬スキルがバレないように、カモフラージュ用に普通の薬師が使う道具も用意し、さっさと眠りについた。


 翌朝、ゴルドさんのお店へ行くと、すでにヘルマンさんたちがいて焦る。
 遅れてしまったと謝ったら、「あたしたちが早く来すぎたからいいのよ」とローザさんにも他の人にも言われた。
 うう……みなさん優しい人たちばかりだなあ。そういう人たちと知り合えて嬉しいな。
 まずは、各々おのおの預けていた装備品を受け取って確認した。
 特に問題なかったので、みんなで朝市へ向かいます!
 乾燥野菜と乾燥キノコ、干し肉とパンを中心に、食材は手分けして持った。
 といっても、生野菜とお肉や調味料などは私が持っていくんだけどね。
 料理を担当する代わりに、野営やえいは免除してもらうので頑張らないと。
 二週間分の食材だから腐ったり、足りなくなったりしないか心配だけど、そこは特別なリュックなので安心してる。
 それに上級ダンジョンではオークとロック鳥の上位種が出るから、食材が足りなくなったとしても狩ることができるしね。
 野菜も採れるし場合によっては現地調達もできそう。
 そんなこんなで買い物を終え、お昼近くになったのでみんなでご飯。
 その後、準備がすべて終わったので、ダンジョンに潜るのは三日後にすることに。出発時間や待ち合わせ場所を決め、解散した。
 とっても楽しみ!


 店の営業をしつつ日々過ごしていると、あっという間にダンジョン出発の朝になった。
 今日から上級ダンジョンに潜るよ~。
 今回行く西の上級ダンジョンは、個人ランクBやパーティーランクAとなった冒険者が最初に行くダンジョンだ。
 私も一回連れていってもらっているけど、深い階層には行ったことがないので、とても楽しみだったりする。
 移動は『たけおおかみ』が所有している馬車で行うことに。
 馬車といっても馬は魔物で、ブラックホースっていう種族なんだって。とても穏やかで、人に慣れているんだとか。
 ただし、穏やかだといっても魔物なので危険なことには変わりがないから、むやみやたらに背後から近づかないようにと言われた。
 いきなり背後から近づくと敵とみなされ、蹴飛ばされるらしい。おおぅ……怖い。
 御者ぎょしゃは『たけおおかみ』のサブリーダー、フレッドさん。
 気遣いのできるとても優しい人で、寡黙かもく。すっごく大きな盾を持っている。
 タンクという、魔物を引きつけたりする役目を担当していると、以前言葉少なに教えてくれた。
 上級ダンジョンまでは、ブラックホースの脚力で一時間。
 フレッドさんが馬車の中で見せてくれたギルドからの依頼票には、魔物の討伐とうばつと薬草、キノコの採取があった。
 採取を手伝ってほしいと言われたので、うなずいたよ。
 お世話になるんだし、それくらい、おやすい御用です。
 そんな話をしているうちに、西の上級ダンジョンの入口に着く。
 馬車やブラックホースは休憩所に預けて、ダンジョンの入口近くにある建物の中へと入る。
 ここで潜る予定日数と人数を申請しないと、ダンジョンの中には入れない。
 それはどこのダンジョンでも同じで、規定レベル以下の冒険者が勝手に入らないよう、監視の意味合いもあるんだって。
 ギルドカードを出し、レベルの確認をしてもらう。
 この手続きなしでダンジョン内に入ると、ペナルティーを課せられるそうだ。
 ヘルマンさんたちと一時的なパーティー登録をすませ、いよいよダンジョンの中へ。

「わあ……前もそうでしたけど、やっぱり森林なんですね」
「ここは五階までは代わり映えしないんだ。それ以降の階層は川だったり海だったり山だったりと、いろいろある。階層は五十まであるらしいが、過去に二度ほど踏破とうはの記録があるだけで、本当に攻略してるのか疑わしいらしい」
「川に海……前回は素通りしてしまったから、今回はお魚が食べたいです!」
「はははっ! 魚が食べたいとなると、最低でも六階までは行かないとな。討伐とうばつ対象も六階にいるから、ちょうどいい」
「なるほど~、楽しみです!」

 ヘルマンさんと話しながら、ダンジョンの奥へと進んでいった。
 歩き始めることしばらく。デボラさんが私に尋ねてきた。

「そろそろ、薬草とキノコの採取をしたいんやけど、どうや?」
「ちょっと待ってくださいね」

 デボラさんに聞かれて、【薬草探索】のスキルを発動する。
 その状態でもう一度採取依頼票を見せてもらい、ひとつひとつ採取対象のものを教えていく。
 採取するときにはナイフや短剣で切ったほうが状態がよくなるということも教えた。
 依頼の薬草とキノコを採りながら、私も自分が必要とする薬草やキノコを採取していく。
 ヘルマンさんやカズマさんによると、採取依頼の薬草やキノコはそのほとんどが第一階層で採れるそうなので、根こそぎとまではいかないけど、たくさん採取するのは第二階層以降にしようと思う。
 他に採取依頼を受けた人たちの分がなくなっちゃうからね。
 そして他にも食べられる野草や果物があったので、それも採取する。
 今回あった果物は、巨峰きょほうに似たブドウとアボカド。
 ダンジョン内とは思えない食材が集まってきそうで嬉しい。
 場合によっては、ダンジョンで採れたもので料理をしよう。
 ご飯や休憩をしながら一日かけて第一階層を歩き回り、必要な薬草やキノコを採取したり、戦闘したりした。
 第二階層へと下りる階段近くにセーフティーエリアがあるので、今日はそこで一泊です。
 セーフティーエリアに向かう途中、ヘルマンさんたちが立ち止まった。
 あとちょっとなのに、どうしたのかと思ったら蜘蛛くもの魔物がいた。

「ん? なんだ、あれは?」
「フォレストタラテクト同士が戦っているようでござるな……」

 ヘルマンさんの言葉に、カズマさんも首を傾げている。
 あの大きい蜘蛛くもは、フォレストタラテクトっていうらしい。
 仲間同士で戦うなんてことがあるの? そう質問しようとしたら、いきなりみんなが身構えた。
 ラズも臨戦態勢りんせんたいせいになっている。

「みんな、デスタラテクトだ! 警戒しろ! 全員下がれ! リンは一番うしろにいろよ!」
「はっ、はいっ!」

 ヘルマンさんが指示を出し、私を一番うしろに下がらせた。
 そして魔法を使うデボラさんと遊撃ゆうげきにあたるローザリンデさんが、私の左右に陣取った。
 フレッドさんが盾を持って一番前に行き、そのうしろにヘルマンさんとカズマさんが並ぶという陣形だ。

「あの、デスタラテクトってなんですか?」

 状況が掴めていない私の質問に対して、デボラさんとローザリンデさんが答えてくれる。

「このダンジョンの中層に出る、黒くて小さい凶悪な蜘蛛なんや」
「どうしてこの階層にいるのかしら」
「え……」

 中層に出るはずの蜘蛛が第一階層にいるって……大問題なんじゃないのーー⁉
 私たちの視線の先では、茶色と黄色の五十センチはある蜘蛛――フォレストタラテクトがたくさんと、真っ黒で十センチしかない小さな蜘蛛――デスタラテクトが一匹、対峙たいじしていた。
 外の森なら縄張なわばり争いとかなんだろうなってわかるんだけど、種族も違うし、ダンジョン内だから縄張なわばり争いじゃないと思う。
 デスタラテクトはどうしてここにいるんだろう?
 それに、脚が一本ない。他にもお腹のあたりを怪我けがしているし、取れかかっている脚もあった。
 多勢たぜい無勢ぶぜいなはずなのに、どんどんフォレストタラテクトを倒していくデスタラテクト。
 その周辺には、ドロップアイテムの蜘蛛糸スパイダーシルク魔石ませき毒腺どくせんがたくさん転がっていた。
 デスタラテクトはこのダンジョンの中層にいる凶悪な蜘蛛だというのに、私には怖いとは思えない。
 日本にいたときに見た蜘蛛に似ているからかもしれない。
 ハエトリグモというたくさんある目の中でも大きなふたつの目が特徴的な、とても小さな緑色の蜘蛛。あと、脚が長いアシダカグモ。
 それらの蜘蛛は、私が施設にいたとき、栽培していた野菜や花についた害虫を取ってくれていた。
 だから怖くないのかも。
 むしろ、私にとっては大きな蜘蛛フォレストタラテクトのほうが怖いし、鳥肌が立つほど気持ち悪い。
 怪我けがを負いながらも戦い、とうとう敵を全滅させたデスタラテクトは、ホッとしたのかその場にうずくまるように座る。
 だけど、ヘルマンさんとカズマさんが剣を構えたことに気づいたようで、ふらふらしながらもその小さな体を起こした。
 なんだか可哀想になってしまって、二人を制止する。

「ヘルマンさん、カズマさん、待ってください。怪我けがしてますよ、あの蜘蛛」
「だからこそ、この場で倒さなければならない。それほど危険な魔物なのだ。それに、中層にいるはずのデスタラテクトが出たとなると、どこから来たのか調査もしなければならない」
「だけど、可哀想です。それに、凶悪な魔物という割に襲ってきませんし……なんか様子がおかしい気がします。もしかしたら迷い込んだだけかもしれないし。確かテイムできましたよね、デスタラテクトって」
「それはできるが……」

 ヘルマンさんが言いよどむので、スマホでアントス様情報を見た。
 やっぱりデスタラテクトはテイムできるそうだ。もしかしたら……

「最初から後ろ脚がありませんでしたよね。だからそれを理由に捨てられたのかもしれないじゃないですか」
「リン……」
「手当てします」

 ヘルマンさんとカズマさんに止められる前に、ハイポーションを出してから、デスタラテクトに近づく。

「なにもしないわ。手当てさせて?」
〈シューッ!〉

 威嚇いかくしてくるけど、飛びかかる元気もないようで、その場から動かない。
 それをいいことにラズに護られながら近づき、持っていたハイポーションのふたを開けてデスタラテクトの全身にかけた。
 すると、みるみるうちに傷口がふさがり、血が止まる。取れかかっていた脚も、なんとか繋がってホッとした。薬師として見過ごせない怪我けがだったからね。
 後ろ脚は元に戻らなかった。
 それでも傷だらけだった体がすぐに治ったからなのか、デスタラテクトは驚いたように私を見上げてきた。とても大きな目が真ん中にふたつと、その左右に小さな目がふたつずつ一直線に並んでいる。
 その中の大きなふたつの目から、困惑した感情が伝わってくる。


「後ろ脚は別の特別なポーションじゃないと治せないみたい。ごめんね」
〈……〉
「君はどうしてここにいるの? 誰かに連れてこられたの? それとも、迷い込んじゃった? って言っても、わからないかあ……。ラズみたいに話せるといいのにな」

 そんなことをぼやいていると、ラズが蜘蛛の言葉を伝えてきた。
 ラズは魔物と話す能力があるようで、たまにエアハルトさんの家にいるハウススライムや、穏やかな馬の魔物と話をしている。
 会話の内容をいつも楽しそうに教えてくれるのだ。
 そんなラズ曰く、このデスタラテクトは、以前は森にいたフォレストタラテクトだったけど、テイマーに無理矢理テイムされたそうだ。
 仕方なくたくさん戦って進化したけど、体が小さくなったし怪我けがをして戦えなくなったからと契約を解除され、この階層に捨てられたらしい。そのテイマーは罰が当たったのか、二日ほど前に一緒にいた冒険者にこの階層で殺され、死んでしまったという。
 デスタラテクトの話を聞いたヘルマンさんたちは、一瞬額に青筋を立てたものの痛ましそうな顔をし、黙り込んでしまった。
 そのテイマーのことは可哀想だと思うけれど、魔物にも心あるものがいるのだ、ラズのように。
 人間の都合で利用するのはダメだと思う。

「そっか。ねえ、君はどうしたい? ここにいると、また同じ目に遭うかもしれないよ?」
〈シュー。シュシュ〉
〈リンと一緒に行きたいって言ってる。怪我けがを治してくれたから、戦ってそのお礼がしたいって〉
「戦ってって……。大丈夫なの? 無理しなくてもいいんだよ?」
〈シューッ!〉
〈大丈夫だって〉

 ラズが通訳してくれたけど、本当にいいのかな。
 蜘蛛を見ると期待するような、拒絶されるのが怖いような、そんな目をしている。
 ……くそう、可愛いじゃないか。
 そっと手を出せば、嬉しいとばかりにぴょん! と飛びのってきた。
 おお、思ったよりも軽いし、近くで見ると本当に可愛い顔をしていて、なんだか愛着がいてくる。

「うん、いいよ。私は薬師だけど、いいのかな」
〈シュシュッ♪〉
〈薬師なら、護りがいがあるって〉
「ふふ。そう、ありがとう。私はリンって言うの。これからよろしくね」
〈シュー♪ シュシュシュ!〉
〈こちらこそ。名前が欲しいって〉

 おおう、名前って……
 まさか、前の人は名前をつけなかったのだろうか。


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