転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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5巻

5-4

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「クンがあさってたのは、トーマのリュックかもしれない」
「えぇ!?」

 俺の呟きに、皆が手を止めて集まってくる。
 トーマも未だ気絶しているクンを、抱っこしたままやって来た。

「僕のリュック? 間違いないの?」
「ここ見て。バッグの入り口に、白い毛がついている」

 入り口のふちについた白い毛をつまむと、ライラは俺の指先の毛をジッと見つめた。

「エリザベスの毛じゃないの?」
「いや、これは違うよ。エリザベスの毛は、もう少し柔らかくて長いからね」

 俺がそう言うと、レイが「おぉぉ!」と感嘆した声を漏らしてパチパチと拍手する。

「さすがモフモフ探偵。毛並みに関しちゃ、フィルの右に出るもんはいないな」
「……ちょっとレイ、変なあだ名つけないでよ」

 俺がつまんだ毛を払って、げんなりとする。
 レイは我ながらナイスネーミングと思ったのか、腕組みして満足そうに笑った。

「モフ研だって、モフ探だって、そう変わらないだろう?」
「変わるよ! モフ研は団体っ! モフ探は個人っ!」

 モフモフ・鉱石研究クラブは、きちんと学校に認められているものだ。あだ名と一緒にしないで欲しい。

「ぼ、僕だってエリザベスの毛じゃないって、すぐにわかったよ! 主人だもん」

 トーマは俺に向かって、ねた表情で口をとがらす。
 いや……トーマ。何でそんな対抗心むき出しで、こっち見るの。俺は別に張り合うつもりはないよ。

「で、トーマ。リュックに異変はないか?」

 カイルに促され、トーマは「そうだった」とリュックの中をのぞき込む。

「特に……なくなった物はないかな。変わったのは、中にも毛がついてるってことくらい」

 言われてのぞき込むと、確かに中にもクンのものとおぼしき毛が付着している。
 食べ物は何もない。あるものと言えば、筆記用具とかメモ帳とかそういったたぐいのもの。

「リュックの中が暖かい。……ということは、僕たちがいなくなってから、ここに長い間入っていたのかな?」

 俺はあごに手をやって、首を傾げる。
 はて? 中で何をやってたんだ? 寝てたのかな? ますます謎が深まる。

「暖をとっていたとか?」

 首を傾げて言うトーマの推測は、俺の納得できるものではなかった。

「それなら、ライラのリュックのほうが良かったはずだよ」

 ライラは寒さに弱いので、いざという時の防寒用にマフラーやらセーターやらをリュックに詰め込んでいた。暖かく過ごしたいのなら、そっちのリュックのほうがいいだろう。
 俺たちが顔を突き合わせてうなっていると、トーマの手の中のクンが小さく鳴いた。

「気がついたかな?」

 トーマはハンカチで体をさすって、温めてあげる。
 クンは鼻をスンスンと動かして、ようやく目を開けた。

「あ! 目を覚ました! 大丈夫?」

 トーマがにっこり微笑むと、クンは丸い目をパチクリとさせた。そして次の瞬間には、感電したみたいにけいれんして、再びクッタリと横たわる。

「え、えぇぇ! また気絶したっ! ど、どっか悪いのかな?」

 動揺したトーマは、慌ててもう一度わたわたとハンカチでさすった。

「外傷はなかったぞ」

 初めに確認したカイルは、間違いないと眉を寄せる。

【フィル】

 ヒスイがかたわらに来て、俺の肩をつつく。
 俺は振り返って、視線で「何?」と言葉の先を促した。

【フィルたちがお食事している時、この子、ずっとトーマさんを見ていましたわよ】

 新たな情報を耳にして、俺は目を見開いた。
 足元にやって来たコクヨウも何かを思い出したのか、「あぁ」と声を漏らす。

【そう言えば、木の陰から見ていたものがいたな。殺気ではなかったから、放っておいたが……】

 それがこの子? トーマを見ていたってことは、トーマに興味があるってことかな?
 俺がクンを見下ろすと、ちょうど再び目を覚ましたところだった。
 だが、すぐ「キュウキュウ」と悲しげに鳴き始める。

「大丈夫? 悲しいことでもあったの?」

 俺が聞くと、クンはその質問が聞こえているのかいないのか、何かを呟き始める。

【私きっと、黒い野獣に食べられて死んだんだわ。じゃなきゃ、こんな状況になるはずがないもの】

 黒い野獣って、コクヨウのことかな?
 コクヨウにもそれが聞こえたのか、不機嫌そうな目でクンをにらんだ。

【何が野獣だ。我とて食すものに好みはあるわ】

 いやでも、クンがそう思うのも仕方ないんじゃないかな。
 あっという間にカップリあまみされたら、俺だって死んだと思うよ。
 俺はちょんちょんと、クンをつついた。

「あのぉ……えっと、もしもし? 君、生きてるよ」
【え? ……あ! 本当! 感覚がちゃんとあるわ!】

 クンはハッとすると、もしゃもしゃと自分の顔をで回した。
 その愛らしい仕草に、見ていた俺たちは思わずほっこりとする。
 うわぁ、可愛いなぁ。
 クンは生きているとわかってあんしているわけだから、こんなことを思うのは不謹慎かもしれないが。

「それで、君はトーマを見ていたらしいけど……どうして見ていたのかな?」

 俺が首を傾げると、クンはもしゃもしゃしていた前足を止めて、チラリとトーマを見上げた。
 それから、トーマの腕の中で「きゃーっ!!」と嬉しげな声を上げながらジタバタする。

「え、ちょ、ど、どうしたの?」

 突然、クンが腕の中で捕れたての魚みたいに暴れるので、トーマは慌てる。

「フィル。何なんだ? このクン」

 呆然とクンの奇行を見つめるレイに問われ、俺は返答に困った。
 俺に聞かれてもわからない。言葉はわかるけれど、行動の理由が謎なのだ。

「トーマのことを遠くから見てたって言うし、今も何だか嬉しそうだから。とりあえず、トーマが好きってことはわかるんだけど……」

 俺がそう推測を述べると、クンはピタリと動きを止め、またもしゃもしゃと顔をでて照れる。

【やだそんな。好き……だなんて、恥ずかしい】

 クンの様子を見ていたアリスは、トーマに向かって言った。

「そんなに好きなら、トーマの召喚獣になってくれるんじゃないかしら?」

 トーマは「あ、そっか」と頷いて、クンの顔をのぞき込む。

「ねぇ、君。僕の召喚獣になってもいいって思う?」

 クンはもじもじとしつつも、コクリと頷いた。

【そうなれたらいいなぁって思います】
「召喚獣になってもいいって」

 俺が念のため通訳すると、トーマは顔をほころばせる。

「え、本当に? なってもいいの? 嬉しいなぁ」
「えぇ~いいなぁ。動物のほうから来るってことあるの?」

 ライラは自分が苦労したからか、理不尽だとばかりにねる。
 一方レイは、いぶかしげに眉を寄せた。

「何でトーマなんだ? 他にも人はいるのに。この……動物たらしのフィルとか」

 こらこら、人を指ささない。
 俺がレイの指を押しのけていると、クンはくすくすと笑った。

【その方のオーラも魅力的ですけど、トーマさんは素晴らしいですわ。とても物知りですし、動物を観察する時に見せる野獣のごとき鋭い眼差しはドキドキします】

 野獣……。トーマのジッと観察するくせを、すごいたとえ方するな……。

「フィル、この子は何て言ってるの?」
「え、あ、えーと。物知りなところとか、観察の鋭いところが好きなんだって」

 トーマの問いに俺が当たりさわりのない言葉を選んで答えると、レイは感心して言った。

「へぇ、トーマの良さをよくわかってるなぁ」
「うん、僕もぜひ召喚獣になってもらいたいなぁ」

 トーマは嬉しそうに微笑んだが、しかしすぐに不安そうな顔つきになる。

「でも、一つ条件があって……。僕の召喚獣のエリザベスと仲良くしてもらいたいんだ」

 クンはそれを聞くと、トーマの手からするりと地面に下りた。
 一瞬逃げたのかと思ったが、そうではなく、トーマの前に立って意を決したようにコックリと頷く。

【わかっております。どんと来いですわっ!】

 真剣なクンの様子を見て、鈍感なトーマもさすがにわかったようだ。緊張したおもちで、口を開いた。

「エリザベス」

 空間のゆがみから、白いうさぎが現れた。
 地面に下り立ったエリザベスの瞳が、クンを捉える。
 これまで、エリザベスによるトーマの召喚獣審査は、観察から始まっていた。
 本当にトーマの召喚獣になりたいと思っているのか。エリザベスの基準はまずそこらしい。
 だが……クンをいちべつしたエリザベスの対応は今までとは違った。
 いきなり地面を蹴って、頭突き攻撃をしたのである。

「なーーーーっ!」

 突然の行動に、俺たちはきょうがくの声を上げた。
 時々トーマも吹き飛ばされている強力な頭突きに、あわやクンも……と息を呑む。
 だが、クンは大きく飛び上がってそれを避けた。
 俺たちの口から「おーっ!」という歓声と、拍手が起こる。
 少し離れた位置で見ていたテンガたちは、飛び跳ねて興奮していた。

「エリザベスっ! 駄目だよ喧嘩しちゃ!」

 トーマは慌てて叫ぶが、エリザベスはクンを見据えたまま言う。

【トーマ、引っ込んでなさい。これは私たちの戦いよ】
【トーマさん、待っていてください! 召喚獣の座、何としてでも勝ち取りますっ!】

 二匹はそう言うが早いか、蹴りとジャンプの攻防戦を始める。
 とても中に割って入れるような状況ではなかった。


 召喚獣たちはどちらを応援しているのか、「危ない」「そこだ」とやんややんやと声を上げている。俺のかたわらにいるコクヨウも、興奮気味に尻尾を揺らしていた。

【あの蹴りはなかなか……あぁ、あの動きはダメだな……】

 まるでスポーツ観戦をしているおじさんのように、ブツブツと呟いている。その顔は、可能であれば自分も参戦したそうに見えた。
 レイは二匹の攻防を目で追いながら、感嘆の息を吐く。

「はぁ~、すっげぇなぁ」

 ライラもぎゅっとこぶしを作り、目が離せない様子だ。

「エリザベスもキレのある動きをしてるけど、クンの身軽さも負けてないわね」
「クンは小さい体のわりに、ジャンプ力があるんだよ」

 ハラハラと見守るトーマの解説を聞いて、皆は「なるほど」と頷いた。

「でも、何でいきなり戦闘に入ったのかしら? 止めなくて大丈夫?」

 アリスが心配そうに言う隣で、カイルがうなる。

「止めたくとも、あれでは無理だろう。お互い、戦うことが必然と思っているようだ」

 それを聞いて、俺はピンときた。

「もしかしてこれは、試練なのかな?」
「試練?」

 キョトンと首を傾げるトーマに、俺は頷く。

「トーマの召喚獣になるための試練。第一段階は、トーマの召喚獣になりたいって気持ちがどれくらい強いかってこと。第二段階はエリザベスと戦って認められること」

 俺は一、二と、一本ずつ指を立てながら説明する。

「ただ、今回は第一段階を飛ばして戦闘に入ったところが、疑問ではあるんだけど……」

 俺は腕組みして、二匹に視線を向ける。
 だが、その疑問は、案外すぐに解消された。
 ひとしきりの攻防を終え、荒い息を繰り返していたエリザベスとクンが言い合いを始めたのだ。

【やるじゃない。アンタとはいつかやり合うと思っていたけど、ここまでやるとはね】
貴女あなたもただものじゃないとは思っていましたが、さすがです】

 あれ? 初対面かと思っていたけど……。

「エリザベスー、その子は知り合い?」

 俺が声をかけると、エリザベスはクンを見つめたまま教えてくれた。

【違うわよ。私たちが湖に来た時やお昼の時、このクンがずっとトーマのことを見てたの。だから知っていただけ。アンタ……もしかして私が控えていた時も、後をつけていたの?】

 タンっ! と足を鳴らすエリザベスに、クンは胸を張る。

【当然ですっ! トーマさんの召喚獣になるため、ずーーーっと後をつけてましたわ! そしてトーマさんを観察していました!】

 自信満々に、ストーカー発言。
 だからか。トーマを観察していたのがお昼ご飯の時だけにしては、トーマのくせとか性格とか物知りなところとか、よく知ってると思ったんだよね。半日も張っていたなら納得だ。

【やっぱり……】

 エリザベスは予想した通りだと、クンをきつくにらむ。

「朝からクンに後をつけられてたとは、全然気づかなかったなぁ」

 俺の呟きが聞こえたレイは、驚いて目を見開く。

「え、朝からトーマを追って? 何でだよ。召喚獣になりたきゃ、すぐ出てくれば良かったのに……」

 意味がわからんと眉を寄せるレイに対して、クンは足を鳴らした。

【印象的で運命的な出会いにしたかったんです! そのためのタイミングを計ってたんですよ! なのに……なのに黒い野獣に捕獲されて出会うなんて、夢にも思わなかったですわ!】

 言っている途中で、クンは顔を前足で覆ってさめざめと泣くような仕草をする。
 いや、コクヨウにくわえられての登場は、ある意味衝撃的な出会いだったけどね。
 リュックに入ってたことにも驚いたし…………あ、その謎はまだ聞いてなかったな。
 俺は手を挙げて、クンに向かって質問した。

「あのぉ~。君は何で、トーマのリュックの中に入ってたのかな?」
【アンタ!! トーマのリュックにまで入ったのっ!?】

 エリザベスはクン目掛けて、鋭い飛び蹴りをする。
 しかし、クンは特撮もののヒーローみたいに、回転しながら華麗な跳躍でそれを避けた。
 それから顔をもしゃもしゃとでて、恥ずかしそうに身をよじらせる。

【それは……トーマさんの匂いをかげないかとリュックの中に顔を突っ込んだら、そこでお昼寝してみたくなり……つい……】

 思ってもみない理由が飛び出し、俺とカイルは呆気にとられる。
 それって、つまり……。

【あのクン、泥棒やなくて変態やぁーー!】

 後ろにいたナッシュが、クンを指さして大きな声で叫んだ。
 ナッシュ! それ言っちゃダメだってっ!! 心の中でも言うの躊躇ためらってたのに!
 確かに人間だったら、やってることがストーカーで変態ちっくですがっ!
 クンは心外とばかりに、ナッシュに向かってキッパリ言い放つ。

【それも愛ゆえ!】

 その力強さにされ、ナッシュが不安げに俺を見上げた。

【なぁ、ぼん。理解できんのは俺だけやろか】
「ナッシュだけじゃないよ……」

 何でトーマのことを好きな動物は、思い込みの激しいタイプが多いんだろうか。

「ねぇ、フィル。クンは、何でリュックに入っていたって言ってるの?」

 トーマがピュアな瞳で質問してきたので、俺とカイルは言葉に詰まる。

「えっとぉ……トーマの匂いが心地よくて、お昼寝したくなっちゃったみたい」
「あ~お昼寝か。そうかぁ、狭いところって、なんか落ち着くもんね」

 トーマがにこにこと頷く中、レイがいぶかしげに俺を見る。

「……匂いが?」

 追及するな、レイ。

【それだけトーマさんに魅力があるってこと! 動物に対する優しさ! 知識! 素敵なんです!】

 うっとりとして語るクンに、エリザベスも「うんうん」と頷く。

【アンタと同意見なのはちょっとしゃくだけど、そこは認めなくもないわね】
【フィル様だって動物に優しいし、物知りっすよ!】

 テンガは待機場所としていた円の中から飛び出して、俺の足にすがりつく。ホタルやコハクも、同様にやって来て頷いた。
 すると、クンとエリザベスは二匹並んで、俺を見て「う~ん」とうなる。

【そうかもしれないけど……でもね~】
【ですよねぇ~】

 何か言いたそうな二匹に、テンガはムッとする。

【なんすか? フィル様に何が足りないっすか?】

 二匹は声をそろえて言った。

【つぶらな瞳】

 つぶらな……瞳?

【小さくてクリッとした感じがいいんですよ】

 クンがもしゃもしゃと顔をでながら言うと、エリザベスも大きく頷く。そして俺を指さした。

【わかるっ! こういう大きな瞳じゃなくて、小さいのが可愛いのよねっ!】
【あと鼻!】
【あ~! 鼻もこぢんまりとしてて、いいわよね!】
【でしょう? 貴女あなたならわかってくれると思ってました!!】

 まるで女子高生みたいに、二匹はキャッキャとはしゃぐ。先ほどの戦闘などなかったみたいに。
 テンガは悔しそうに顔をゆがめ、地面にへたり込んだ。

【くっ! 確かにフィル様は、小さな目と鼻じゃないっす!】

 う……うん。何かごめんね。



 3


 こうして二匹が意気投合したことで、クンはトーマの召喚獣として認められることになった。
 激しい戦いをしていたわりには大きな怪我もなく、すぐさま召喚獣契約を行うことになったのだが……契約が終わるまでには、意外と時間がかかった。
 召喚獣契約をするためには名前をつけなければならないのだが、事前に候補はあっても、いざ名づけるとなると迷ってしまうものらしい。
 トーマが十分ほど悩んだ末、クンにはメアリーという名前がつけられた。

「で、あとはフィルだけか。集合時刻までまだまだ時間はあるし、俺たちの班は楽勝だな。全員召喚獣を得られる班なんて、あんまりいないと思うぜ」

 レイは背伸びしながら、ニコニコと笑って俺を振り返る。

「あ~……どうかなぁ。契約できたらいいんだけど」

 自信なく言う俺に、ライラはにっこりと笑う。

「フィル君なら大丈夫よ」
「それで、フィルが召喚獣にしたいのって、どんな動物? 私、とても興味あるわ」

 アリスが俺の顔をのぞき込みながら質問してきたので、それに微笑で答える。

「召喚獣にしたら、移動に使いたい動物なんだ。学校に来るまでに、移動が大変だったでしょ? 何か移動するのに便利な動物いないかなって思って……」
「移動するのに便利? 馬とかじゃなくて?」

 キョトンとするアリスに俺は頷いて、人差し指を空へと向けた。

「陸じゃなくて……空」

 空という単語を聞いて、トーマはピンときたようだ。
 だが、すぐ信じられないという顔つきになり、俺に詰め寄る。

「まさかフィル……ウォルガーを召喚獣にしたいとか言わないよねぇ?」

 おそるおそる尋ねたトーマに、俺はにこっと笑ってみせた。

「む、無理だよぉぉぉ」

 トーマの声が辺りに響き渡り、ライラは俺とトーマの顔を交互に見る。

「え、何? 何? ウォルガーって何なの?」
「ウォルガー? 何かどっかで聞いたことあるな」

 レイがうなって眉を寄せ、アリスは小さく息を呑んだ。

「もしかして……じゅうとも呼ばれているウォルガー?」

 それを聞いて、レイも思い出したらしい。手をポンと打って、大きく頷いた。

「あ! そうか、じゅうのウォルガー……って、えぇぇっ!? あの生き物、今ステア王国にいるのか?」

 きょうがくしたレイのローブを、ライラはグイッと引っ張る。

「だからウォルガーって何っ?」
「ぐぇっ!」

 カエルみたいな声を上げたレイは、引っ張られたローブを取り返し、ライラをにらんでえりもとを直す。

「お前、家の行商人から聞いたことねーの? 海を飛んで渡る動物のこと」
「渡り鳥みたいに、海を飛んでいる動物がいるって聞いたことあるけど……。あれって見間違いとかじゃないの?」

 疑わしげな顔をするライラに、トーマは首を振った。

「存在はしてるよ。風属性の能力を使って、空を飛ぶんだ。目撃されている大きさがまちまちだから、ウォルガーは体の大きさを変えられるらしいって話だけど」
「わぁぁ、何それ。もしかして乗れたりするのかしら。すごくいいじゃない! 欲しい!」

 実在すると知って、ライラは一転して笑顔になった。
 俺も頷いて、それに同意する。

「だよね! 欲しいよね! 噂によると目が大きくて、灰色の毛がもふもふして、尻尾がふさふさらしくてね。尻尾はバランスをとるために少し平たいんだって。想像するだけで可愛いよね!」
「ますます欲し~いっ!!」

 ハイタッチする俺とライラにレイが割って入り、俺の肩に手を置いた。

「いやいやいや、そりゃ欲しいけども! トーマの言うように、ウォルガーは無理だろ」
「……駄目かなぁ?」

 俺は悲しみをこめて、レイを見上げる。

「う……いや、そんな顔で見られても、無理なもんは無理だって」
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