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15巻

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 第一章―――― 小姑


 陽が落ちてすっかり暗くなったガロア魔法学院の正門前に、伝説の古神竜――ドラゴンの転生者であるドランと、その恋人である黒薔薇くろばらの精ディアドラの帰りを甲斐甲斐かいがいしく待っている二人の女性の姿があった。
 半人半蛇はんじんはんじゃの美少女セリナと、美しい赤いドレスに身を包んだバンパイアクイーンのドラミナ。彼女達もドランの恋人である。
 先日、ドランはこの二人に日頃の感謝を込めて贈り物をしたのだが、ディアドラには魔法学院の講師という立場があり、その例から漏れてしまった。
 そんなディアドラの為に、ドランは彼女と二人きりでガロアから遠く離れた場所へと出かけていたところだ。
 二人で出かけたのだから、帰ってくる時も二人のはずである。
 しかしどういうわけか、ドラン達のとなりには、雪色の髪と褐色かっしょくの肌を持った見慣れない少女がいるではないか。

「はじめまして、セリナ、ドラミナ。私はリネット。マスター・ドランの従属下にある、リビングゴーレムです」
「え? ええ、ええ~~」
「あら、これは流石さすがに予想外ですね。ディアドラさんと二人きりの逢瀬おうせのお土産みやげが、こんなに可愛らしい少女とは」

 リネットと名乗った少女の自己紹介を聞き、事情を知らぬセリナとドラミナは、大きな衝撃を受けた。
 しかし同時に、ドランが如何いかに非常識な存在であるかを日頃から否応いやおうなく理解させられていた二人は〝まあドランさんだし、出かけた先でまた何かあって、それを力ずくで解決してきた結果だろう〟と、すぐさま精神を立て直す。

「ええっと、リネットちゃんですね。私はセリナといいます。ドランさんの使い魔で、この通りのラミアです」
「私はドラミナ。セリナさんと同じくドランの使い魔をしています。種族はバンパイアです」
「はい、道中お話をうかがいました。お二人とも、魔法学院在学の間だけ使い魔としての契約を結んでいらっしゃって、マスター・ドランの恋人でいらっしゃる事も存じております」
「いやあ、そんなあ、ドランさんの恋人だなんて、その通りですけれど……」

 リネットの率直な物言いを受け、セリナは大蛇の下半身をくねらせて照れはじめる。
 セリナはとても分かりやすい人だとリネットの第一印象に刻まれたのは、果たして良かったのか悪かったのか。
 ドラミナは、くねくねと揺れているセリナを微笑ほほえましそうに見ながら声をかけた。

「さあ、セリナさん、うれしいのは私も同じですが、そろそろ門限です。門番の方々のお仕事の邪魔じゃまをしては申し訳ありませんし、一度ここから離れましょう」
「はわ、は、はい。すみません、恋人と言われてつい……。あんまり嬉しかったものですから」

 セリナはそう言って、今度は羞恥しゅうちもだえる。それを見たリネットは〝分かりやすい〟という印象をますます深めたのだった。


 連れ立って魔法学院の敷地に入った一行は、ドランが自作し、何度も増改築した浴場に併設されているテラスへと足を運んだ。
 冬も間近となり、陽が落ちるのも早くなっていたが、浴場のテラス席には光精石こうせいせきを使ったランプがいくつも設置されていて、暗闇を遠くへと追いやっている。
 浴場の入り口では、この施設の管理をドランから委託いたくされているテルマエゴーレム達が綺麗きれいに整列しており、手を振って歓迎の意を示していた。

「彼らはマスター・ドランのゴーレム達ですか?」

 素材は大きく違うとはいえ、テルマエゴーレム達とリネットは一応同じゴーレムという分類だ。彼女がテルマエゴーレム達を気にかけるのも、当然と言えよう。

「ああ。この浴場の管理を任せているゴーレム達だよ。どうも浴場の仕事に誇りをいだいているらしくてな。時々、私に反発する事もあるほどだ」

 ドランはうなずきながら苦笑する。

「それは、ゴーレムが自身の中で優先順位を定めているという事ですか? 浴場の管理の為に造り出されたとはいえ、創造主の意思に反するなど……通常、ゴーレムにはあり得ない話です」
「ある程度の自由意思を持たせてあるからな。彼らがこれまでに蓄積ちくせきした経験を学習して、個体ごとの個性も出てきているくらいだよ」
「そうですか、やはりマスター・ドランは非凡ひぼんなお方であるようです。彼らはリネットにとっては先輩ゴーレムです。彼らにずかしいところを見られないように、精一杯、お仕えします」
「お仕えします、か。私はかしずかれるのは苦手なのだが、考慮してはくれないかな?」
「そこは主人としての甲斐性を見せていただきたく思います」

 案外物怖ものおじせず言う子だなあ、とドランはリネットに対する感想を心中でこぼす。
 今日は学友であるネルネシアやクリスティーナは浴場を使っていないようで、ドラン達がテラスを独占出来た。
 テラスは近くにある男子寮の中からは見えない位置にある為、リネットとディアドラを交えた密談を、他者に見聞きされる心配はまずない。
 もっとも、どれほど隠密おんみつけた者であっても、ドラミナやドランの知覚網をくぐるのはまず不可能だから、無用な心配だったが。
 テラスに置かれているテーブルや椅子いすは、テルマエゴーレム達の手入れが行き届いており、新品同然の輝きを放っている。
 全員が着席すると、テルマエゴーレム達が絶妙ぜつみょうな間でれたての季節のフルーツティーを配膳はいぜんしていく。
 ドランはテルマエゴーレム達を製造する際に、お茶の淹れ方など覚えさせていなかったが、そこは手加減の仕方を根本的に間違えるドラン謹製きんせいのテルマエゴーレム達である。あるじの知らぬところでありとあらゆる雑事を学習しており、個体ごとの性能差や個性に加え、こういった技能までも習得するに至っていた。

「さて、ではセリナとドラミナには、私とディアドラが出かけた先でどういった事態に遭遇そうぐうしたか、詳しく説明しよう」

 ドランはそう前置きしてから、こうなった経緯けいいを話しはじめた。
 ディアドラと二人でアークレスト王国東部の都市サンザニアにおもむいた事。
 そこで学院のエドワルド教授と助手のエリザに再会し、彼に誘われてサンザニア近郊で発掘された天人の遺跡の見物に行った事。
 そして、遺跡を悪用していた魔法使い――ブリュードを倒し、リネットを預かるに至った事。
 リネットは、宮廷でも屈指くっしのゴーレムクリエイターであったイシェルの遺作で、本来は彼の娘、リエルをよみがえらせる目的で造られた〝生きたゴーレム〟である。
 しかし、リエルのたましいは既に転生を果たしており、別の人格が宿り、リネットになったのだ。
 イシェルの最高傑作と言えるリネットを預かった事で、ドランは十中八九、他の魔法使い達から注目されるだろう。
 その上、ドランとディアドラが二人で行動していた事実も知られ、曲がりなりにも教師と生徒という関係上、問題視されるかもしれない可能性も、彼は包み隠さず口にした。
 一連の話を聞き終えたセリナは、しみじみと感想をつぶやく。

「今後はもう、ドランさんの行くところには、必ず何かが起きると考えておくべきでしょうね。いえ、前から〝そういうもの〟だって、覚悟はしていましたけれど……。それにしても、また天人てんじんさんですか。前はお空の上に浮かんでいる都市で、今度は地下の研究所。あの人達は場所を選びませんね」
「天人の活動は地上も空も問わずに行われていたからな。彼らがほろんでも、その技術や産物は、全てがちたわけではない。どこかしらで目にする機会はめぐって来るわけだ」
「それにしたって、私達の遭遇率はずいぶんと高い気がしますよ。教授さんみたいな研究者には、うらやましがられるかもですね」

 セリナが例に挙げたスラニアの天空都市と今回の地下研究施設以外にも、かつて戦った魔導結社の総帥そうすいバストレルも天人関係に該当するし、ドランが三竜帝三龍皇さんりゅうていさんりゅうおうと会談した月の水晶宮も、元は天人の施設だ。
 ドラン達が一般の人々と比べて、まだ機能を停止していない天人の遺産と極めて高い頻度ひんどで遭遇しているのは間違いない。
 言外に〝これからもまた天人関係と遭遇しそうだ〟となげくセリナの言葉を耳にして、ドラミナが同意を示す。

「天と地の次は海かもしれませんね。それか、空のもっと高いところ、そう、たとえば月や、星の海も可能性がないとは言い切れませんよ」
「海は、龍吉りゅうきつさんが綺麗に掃除してくれているといいですけれど……」

 セリナは溜息ためいきと共に、海の守護者の一人である水龍皇すいりゅうおうの名を口にした。
 彼女としては、天人と関わると必ず発生する物騒ぶっそうな事など、一切望んではおらず、ドランやドラミナ、ディアドラと一緒に穏やかに暮らせればそれでいいと思っている。

「月も心配する必要はないよ。あそこには兎人うさぎびとと知恵あるかに達が住んでいて、天人の遺跡の管理をしているし、数は少ないが、非常時に備えて高位の竜種も移住している」

 平然とこたえるドランを見て、リネットは自分の主がやはり尋常じんじょうならざる奇縁きえんの持ち主であると再認識した。

「お話を伺う限り、リネットがマスター・ドランのゴーレムになったのは、それほど不思議な事ではないような気がします。何しろ、それ以上にあり得ない出来事を、七ヵ月ほどの短期間で経験しておられます。皆様方ならば、リネットが加わる程度は、日常茶飯事にちじょうさはんじ……大地母神マイラールや大邪神アル・ラ・カラヴィスの降臨と比べれば、些事さじであるとリネットには感じられます」

 改めて指摘され、ドランは〝今年の春の時点ではそこまででもなかったのだがな〟と、苦笑を零す。
 実際彼は、春先にセリナと出会うまで、辺境に住む農民の範疇はんちゅうに収まる生活を送っていたのだ。

「まあ、否定は出来ないな。伴侶はんりょ探しに故郷を出たラミアと出会う話は他にもあるだろうが、エンテの森でも有数の花の精であるディアドラと、この星におけるバンパイア始祖六家の正統な後継者であるドラミナとの出会いとなると、他に例はあるまい」

 今後もリネットを預かり続ける以上、ドランは彼女に自分達の素性すじょうをはっきり伝えていた。
 この惑星において、最古にして最強のバンパイアの血統であるロイヤルバンパイアが使い魔になるなど前代未聞ぜんだいみもんの出来事なのだが、ドランの魂が伝説の古神竜ドラゴンであると教えられたリネットからすれば、大した問題ではない。
 最強のバンパイアですら、古神竜の使い魔としてはとてもではないが力不足というのが、厳然げんぜんたる事実なのだ。

「恐れながら、マスター・ドラン。リネットは、主人が古神竜ドラゴンの転生者である事の方が、はるかに衝撃的な事実であると、正直に感想をお伝えします。この世界で信仰を集める神々とじかに交流可能で、かつその存在の根源的な抹消まっしょうすら容易なマスター・ドランは、存在そのものが世界と生命全ての命運を左右します」

 リネットは冷静な顔つきのまま熱弁をふるい続ける。

「こう見えてリネットはとても驚いています。リネットも、グランドマスター・イシェルも、まさか古神竜ドラゴンの転生者と関わり合いになるなどと、万に一つも――いえ、億に一つの可能性も夢想した事はありません。ですがそう考えると、マスター・ドランの力を借りたディアドラが、レイラインと同化したブリュードを圧倒したのも納得出来ます。星一つの力を取り込んだ程度では、とてもではありませんが、古神竜にはかないません」
「驚いていると言う割には、これまでと変わらぬ無表情に見えるけれどな」

 ドランは表情の変化にとぼしいリネットの顔を見ながら首を捻った。

「表情があまり変わらないのは、リネットの特徴の一つと記憶してくださればさいわいです」

 どことなくだが、ドランはリネットが自慢げな雰囲気ふんいきを発しているのを感じられた。
 顔にこそ出ないが、雰囲気や仕草の方には心情が表れやすいらしい。

「ふむ、分かった。これから長い付き合いになるのだから、きちんとおぼえておこう」
「ありがとうございます」

 そう言って、優雅ゆうがに一礼して見せるリネットの姿は、生前リエルが受けた教育によるものか、はたまたイシェルが記憶させたものか、実にさまになっていた。

「とはいえ、私達の事情を素直すなおに受け取ってもらえたのは、ありがたい話だったよ。私達が魔法学院に在籍ざいせきするのは来年の卒業式までで、その後は私の故郷であるベルン村に帰って暮らす予定だ。リネットにはそれに付き合ってもらう形になるが、嫌ではないだろうか?」
「ご心配には及びません。リネットは既にマスター・ドランの所有するゴーレムとして登録していただけるように、エドワルド教授に手配していただいておりますし、この身が朽ちるまでマスター・ドランのお役に立つ事が現在のリネットの最優先事項です」
「そうか、そこまで言ってもらえるのはありがたくもあるが、出来ればリネットには自分のやりたい事を他にも見つけてほしいな。そう大仰おおぎょうに考えずとも、趣味しゅみ嗜好しこうたぐいでもいい」

 幼い子供をさとすみたいに声をかけるドランに、リネットは何を言っているのかよく分からないと細い首をかしげたが、ゴーレムとして主人からの願いや意に沿うように行動するのが、当然と思っているのだろう。

「マスター・ドランのご意向に沿えるよう、リネットの全機能と性能の限りを尽くして善処ぜんしょいたします」
「私に無条件に従おうとするところは、レニーアを思わせるな。それ以外はまったく似ても似つかないのに」
「マスター・ドランの因子いんしを用いて、かの大邪神が生み出した神造魔獣しんぞうまじゅうの転生者である、レニーアお嬢様ですか」

 リネットの口から出た〝お嬢様〟呼びに、今度はこの場にいる全員が首を傾げた。まさか彼女がレニーアの事をそう呼ぶとは、誰も想像していなかったのである。
 リネットは自分の発言が周囲に妙な反応を引き起こしていると察して目をしばたたかせた。
 感情表現に乏しいゴーレムではあるが、周囲の空気や雰囲気を読む能力はきちんと備わっている。

「マスター・ドランはレニーアお嬢様を、ご自身の娘であると認識されているとお伺いしておりますが、不適切な呼称でしたでしょうか? 人間の肉体との血縁関係はないとしても、霊魂れいこんで考えれば親子関係と称するに充分な条件を満たしていると、リネットも判断いたしました。もちろん、事情を把握はあくされている方以外の前では、お嬢様とお呼びする事はございません」

 確かに、ドラン自身が既に我が愛娘まなむすめと認めているレニーアに対し、リネットが主人の娘として敬意を払い、お嬢様と呼んだとしても不自然ではない。
 おかしい点があるとすれば、レニーアがお嬢様と呼ばれるにはあまりにも〝アレ〟なところであった。
 皆の頭に引っ掛かった違和感は〝あのレニーアが?〟――まさにこれである。
 無論、レニーアはれっきとした男爵だんしゃく家の令嬢であり、家に戻ればお嬢様、レニーア様と呼ばれている。
 だが、やはりレニーアの性格や振る舞いは、世間一般におけるお嬢様という言葉から受ける印象とは、あまりにも合致しない。
 彼女には破壊魔とか、殺戮者さつりくしゃとか、嗜虐しぎゃく女帝とか――そういった恐ろしい呼び名の方こそが似合う。

「そうだな、確かにレニーアがそう呼ばれるのは不思議ではなかったな。さて、今日はもう遅いから後日になるが、リネットにはレニーアにも会ってもらわなければならん。それに、クリスティーナさんやネル、ファティマ、フェニアさんといった、私の学友達にも紹介する必要がある。あとはオリヴィエ学院長にも。ふふ、また学院長にあきれられてしまうかもしれないな」

 時刻が時刻だけに、リネットとレニーアの顔合わせは翌日以降にするのが妥当だとうである。
 しかし、実際にレニーアがリネットと対面したならば、いったいどんな反応を見せるのか。セリナはそんな不安をはらうように小さく首を振る。
 ドランが居る以上は、レニーアが激情のままに力をふるう事態にはなるまいが……

「ん~、でもレニーアさんはドランさんの娘さんだって認める発言をすれば、ものすごく簡単に機嫌が良くなりますから、今みたいにリネットちゃんがレニーアさんを〝お嬢様〟って呼べば、きっと大丈夫だと思いますよ」
「セリナの言う通りだな。あの子は他者から自分が私の娘だと認められたがっている。承認欲求というものだろうか。その線で攻めれば、小姑こじゅうとじみた言葉を口うるさく言いはしないだろう」

 レニーアが小姑という見方はセリナやドラミナ、ディアドラにとっても共通認識である。
 しかし、彼女らは既にレニーアから〝お父様に心酔しんすいし、愛をささげる殊勝しゅしょうな者達〟と認められているおかげもあって、やいのやいのと重箱の隅を突くような小言は言われていない。
 代わりにレニーアが求めるのは、ドランに対する絶対的な心酔と、え間ない自分磨きで、これはこれで厳しいものではある。

「レニーアお嬢様との接し方には細心の注意を払います。それにしても、リネットはとてつもない主人を持ったものです。従者として相応ふさわしい働きが出来るように、常に自身の向上を心掛けなければなりません! これこそ、仕え甲斐のある主人を見つけた従者の気持ちに他ならないでしょう」

 確かに、これほど規格外の存在に囲まれた従者など、他には居るまい。
 リネット自身もおそらく世界で唯一のリビングゴーレムであるし、天人由来の永久機関を心臓部に持つなど、極めて希少かつ強力な存在ではあるが、いくらなんでも、レニーアやドラミナ達と比べては相手が悪すぎる。

「リネット、それほど気を張る必要はないさ。ベルン村に戻ってからはともかく、今はまだ大した仕事もない。私達との生活に慣れるのを第一に考えてくれればいいよ」
「マスター・ドランは寛大かんだいなお方です。しかしそれに甘えては、リネットは堕落だらくしてしまいます」
「君は本当に生真面目きまじめな性格をしているね。私もまだまだリネットとの付き合いを始めたばかりだ。これからお互いを理解していこう。さ、大体のところは話し終えただろうから、今日はもうそれぞれの部屋に戻って、明日に備えて休もう」

 魔法学院の敷地内は光精石などの明かりがあるから真っ暗闇というわけではないが、気温も下がってきている。
 ディアドラは低温に耐性を有しているものの、一般的な花の精の性質として寒さには敏感びんかんであるから、部屋に戻るのには賛成のようだった。

「私は男子寮まで足を運ぶわけにはいかないし、ここでお別れするわ。リネット、貴方あなたはドランのところについて行きなさい。明日、また一緒にオリヴィエのところに顔を出して、事情を話さないといけないから、その時に会いましょう。それじゃ、おやすみ、ドラン、セリナ、ドラミナ、それにリネット」

 ディアドラは立ち上がり、軽く手を振ってから教師用の部屋へと戻っていく。
 リネットも立ち上がって彼女を見送り、小さく頭を下げる。

「はい、ディアドラ、今日は色々と、本当にありがとうございました。あの、また、明日」
「ええ、また明日ね」

 ディアドラが足を止めてリネットを振り返り、柔らかく笑う。
 何故なぜか自分に対してなついてくるリネットの事を、少なからず可愛く思っているに違いないと分かる笑みだった。


 ディアドラが席を立ったのを機に、ドラン達も後片付けをテルマエゴーレム達に任せて男子寮へと戻った。
 元は大きな物置部屋だったドランの部屋は、リネット一人分の寝台を新たに用意しても充分な広さがある為、急な住人の追加にも対応出来た。
 ドラン達の部屋に入ってすぐ左手に簡易の錬金陣やなべかまどの他に硝子ガラスびんなどを収めた棚が置かれていて、左奥にはドランとセリナが共用している寝台と、本棚や勉強机がある。そして、衣装箪笥いしょうだんすを挟んだ右奥にドラミナの棺桶かんおけがでんと置かれているといった状況だ。
 部屋の中央に置いてあるテーブルに、運び込んだお土産を載せてから、ドランは足元の影に右腕を突っ込む。
 彼はそこからサンザニアであらかじめ購入しておいたリネット用の寝台と衣装箪笥を取り出して、まだ空いている場所に設置した。

「リネットにはこれを使ってもらおう。君の肉体を維持いじしていくのに、何か特別な装置は必要なのかね?」
「いえ、リネットの心臓が動いている間は、肉体を構成する無機物有機物のどちらも自動で補修出来ますので、不具合が生じない限りは問題ありません。また、不具合が生じた際には、事前にお渡しした取扱説明書をご参照いただければ、対応が出来るはずです。ただ、マスター・ドランでしたら、リネットの肉体を不具合が起きる前にまで時間を巻き戻したり、不具合が生じなかった事に出来たりするのではと思いますが……」
「まあ、出来なくはないね」
「やはり、マスター・ドランは規格外のお方です。神々が力を失わずにこの地上に降臨したのも同然――いえ、伝承通りならば、それ以上のお方なのですから、当然なのでしょう。マスター・ドランに相応しいゴーレムであるのはなかなか難しそうです」

 目を回してしまいそうなリネットに、先輩であるセリナがはげましの言葉をかける。

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