継母の心得

トール

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3巻

3-2

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 まさか妖精たちが、フロちゃんのところに行っているとは思いもせず、私は間近に迫るイーニアス殿下の誕生パーティーの準備をしていた。

「奥様、三日後の第二皇子殿下の祝福の儀と、夜のパーティーに着用されるドレスの確認をお願いいたします」
「奥様、ノア様のお衣装の確認を……」
「奥様、『おもちゃの宝箱』の帝都支店の……」
「奥様、宝飾品は……」
「奥様――」

 使用人から次々に声をかけられ、それに指示を出しながらノアの衣装や、公爵様からいただいたドレス、宝飾品などを確認していく。

「ノアの教会での衣装はこちら。タイは、ボウネクタイではなく、リボンタイにしましょう。可愛らしい感じよりは、気品を出した方がいいわ。夜のパーティーは、レースネクタイにポイントでカメオをつけましょう」
「なるほど。こういった感じでしょうか?」
「そう! 華やかになるわね!」
「奥様、ありがとうございます!」
「当日はノアが公爵家の後継者とわかるように、しっかり着飾ってあげてちょうだい」
「はい!」
「次は……お店ね。収支報告? それはもう処理しているはずだけれど? お店の方じゃなくて、商会の方? そうだったわ! 商会を設立したのよね。ありがとう。目を通しておくわ」
「奥様、お次は――」


「お疲れさまでございます」
「はぁ……。祝福の儀まであと三日しかないのに、バタバタしているわね」

 ミランダにお茶をれてもらいながら、商会の収支報告書に目を通す。
 特に問題ないようだわ。さすがウォルトが推薦した人材は優秀ね。
 現在、私が設立した『ベル商会』を取り仕切るのは、公爵家の執事長ウォルトが推薦した四十代の女性だ。元々は、公爵家のタウンハウスで会計士として働いていたらしい。
 女性の会計士なんてこの世界では珍しいのよね。
 寿ことぶき退社したようだが、子供たちも自立して手があいたので、仕事を探していたそうだ。
 ブランクが長いのに商会を取り仕切れるなんて、本当に優秀な女性だわ。

「いずれ皇太子殿下になられる方の祝福の儀でございます。そこに旦那様がノア様を同行させるということは、ディバイン公爵家の次期後継者として、第二皇子殿下の側近にすることをお考えだということですので……皆気合が入っているのかと思います」
「そうよね……」

 旦那様がイーニアス殿下の後ろ盾になることはまだ発表していないが、ノアが参加することによって、周りはそう見るのだわ。それが変にオリヴィア側妃を刺激しないといいのだけど……

「旦那様は、今どうなさってますの?」
「旦那様はいつものように執務室でお仕事をなさっておいでです。お会いになられますか?」
「あ、いいの。お仕事の邪魔をすることはできませんし、その……、少し気になっただけですわ」

 いやね。旦那様のことを考えただけで、ドキドキしてしまうわ。

「お茶にお誘いしてはいかがですか? 休憩も仕事の効率を上げるためには必要だと愚考いたします」
「っ! そ、そうね。お誘いしてみようかしら……」

 ミランダにすすめられ、思い切って誘ってみることにしたのだ。


「イザベル、君からお茶の誘いがあるとは思わなかった。嬉しいよ」

 ヒエェェ!! 旦那様のスイートスマイルは私の心臓を爆発させる兵器だわ!

「い、いえ……。お仕事のお邪魔になっていませんか?」
「いや、いいタイミングで休憩ができて良かった」
「そ、そうですの」

 私、絶対挙動不審よね!? 視線が彷徨さまよって迷子になりそう!!

「そういえば、君に贈ったドレスと宝飾品は気に入ってもらえたか?」
「ひゃい!」
「ひゃい……?」

 いけない! 旦那様が不審がっているわ。

「嬉しいのですけど、わたくしの誕生日にもドレスをいただいたのに、また贈っていただいて、なんだか贅沢な気がしますわ……」

 散財させてしまっているわよね。

「パーティーがあるのだ。妻にドレスを贈るのは当たり前だろう」

 さすが公爵家だわ……。私の実家とは違って、当たり前と言えるくらいお金があるのね。

「それに、美しい君を着飾らせたいと思うのは、男として当然だろう」
「ヒエェェ!!」

 た、助けて……っ。今ので心臓が爆発したみたい。私、絶対死んだわ。

「……イザベル、ところで……その……、ゴホンッ。そろそろ、寝室を」
『たっだいまー!!』
『カエッター!』
『オカエリー!!』
「ギャアァァァァ!!」

 突然後ろから聞こえてきた声に、驚きすぎて叫んでしまった。
 ミランダとウォルトが、襲撃か!? と身構えてすごく怖い顔で周囲を見回したのが目に入り、すぐさま自分の口を塞ぐ。ですけど、急に声が聞こえたら驚きますわよ!

『ギャアッて、イザベル、君、女性としてありえない叫び声だよ。普通、キャー! じゃないの?』
『ギャー!』
『モンスター!!』

 妖精に、女性としてのダメ出しをされてしまったわ。

「突然現れないでくださいまし! 驚きすぎて爆発した心臓が口から出ましたわよ!」
『エェ!? 君、心臓が爆発して口から出たの!? よく生きているね!?』
『コワイ!』
『ゾンビ!!』
比喩ひゆですわよ!?」

 旦那様がなにかを言おうとしていたようだったが、妖精のせいで有耶無耶うやむやになってしまった。
 そのあとも妖精たちが騒いでいたのと、爆発した心臓を修復するのに必死で、旦那様が肩を落としていたことに気付かなかったのだ。


     ◆ ◆ ◆


 同時刻、皇城のある一室には、二人の男性の姿があった。
 外はまだ明るいというのに、カーテンは閉めきられ、蝋燭ろうそくの明かりが二人の影を揺らす。

「――祝福の儀で、イーニアス殿下は、必ず炎の神の加護を授かるでしょう」
「うむ。そうなってもらわねば困る」

 不気味に揺れる影はいつしか混ざり合い、大きな一つの影を作る。

「ご安心ください、陛下。これは皇子の『運命』です。変えることなど、誰にもできないのですから」
「そうか。そうなれば、朕の――」

 全てを闇に染めて、影はゆらゆら笑う。
 はやく……、はやく……、あの子を不幸におとしいれろ、と――


     ◆ ◆ ◆


 イーニアス殿下の誕生パーティーの当日。早朝からバタバタとせわしない公爵家のタウンハウスでは、奥様エステ隊を結成したメイドたちが、お風呂でピカピカに磨かれた私を、さらにこれでもかと磨いてくれていた。
 とても気持ちいいのだけど、イーニアス殿下のお誕生日なのに、どうして私がここまで磨かれているのかしら?

「とうとう、帝国一美しいご家族として皆様の前に登場なさるのですね!」
「皆様の反応が見られないのが残念です!」
「絶っ対、奥様が一番お美しいですよ!」

 キラキラとした目で語るメイドたちにぎょっとする。
 帝国一美しい家族!? 確かに旦那様とノアの美貌は国宝級よ。でも私は……え、今気付いたのだけれど、私が隣に並んでも大丈夫かしら!?

「奥様の美貌は、旦那様にも見劣りしませんから大丈夫です」

 専属侍女のミランダにそう言われた。少しはマシにしてもらえた? と安心した直後、もしかして口に出していた!? と、慌てて手で口を塞いだら、「お顔に出ておりました」と言われてしまった。あげく、メイドたちから「奥様、まだ動かないでくださいませ」と注意されてしまったわ。

「旦那様は本当にセンスがよろしいのですね! アフターヌーンドレスも、イブニングドレスも、奥様の美貌をより引き立てるものですわ!」

 エステが終了したあと、衣装担当者が祝福の儀で着るドレスを絶賛する。
 今日着るものは、全て旦那様から贈られたものだ。
 アフターヌーンドレスは、ホワイトゴールドがベースのマーメイドライン。マーメイドとはいっても、そこまで身体にぴったり沿うものではなく、身体のラインがあまり出ない緩めのものだ。裾が流れに沿うように分かれていき、下から覗く金木犀きんもくせいいろの生地が美しい。しかも、ところどころに金木犀きんもくせいの花を模した装飾が施されている。とても上品で、可憐だ。
 それに合わせる宝飾品は、金木犀きんもくせいの花をかたどった、ホワイトゴールドの繊細なチョーカータイプのネックレスとブレスレット、イヤリング、そしてヘアアクセサリー。
 これが滅茶苦茶可愛いのよ! 金木犀きんもくせいの花は小さくて、細かいでしょう。これを意匠いしょうにするには、ものすごく繊細で正確な技術が必要なの。それを、完璧にやっているのよ。ディバイン公爵領のジュエリーデザイナーが作ったのですって。

「ゴールドは奥様の瞳のお色ですし、金木犀きんもくせい意匠いしょうが奥様の気品をより引き出しておりますね!」
御髪おぐしは後ろでおまとめします」
「ここは編み込んで、冠のようにしましょう……。そうそう。後ろはお団子ではなく、下ろして……素敵です!」
「ではこちらのアクセサリーを御髪おぐしにおつけしますね」
「アイラインは金木犀きんもくせいのお色に合わせましょう」

 ヘアメイク担当のメイドたちがどんどん仕上げていく。
 さすがプロ。お化粧で、私のつり上がった目も優しい感じに仕上がっているわ。

「奥様、準備ができました」
「ありがとう。とても素敵だわ」

 鏡の中の自分は、金木犀きんもくせいの花のように可憐になっている。

「はぁ~。素敵」
「お美しいわ~」

 メイドたちの感嘆と賛美の声が恥ずかしいので、そそくさと部屋を出た。
 ノアと旦那様の支度は終わったかしら? きっとノアは可愛いでしょうね。楽しみだわ!


 ミランダを引き連れ、リビングへ向かう。
 まだ時間があるから、いるとしたらリビングのはずよ。……旦那様は、私を見てなんとおっしゃるかしら……

「奥様?」
「ハッ! いやですわっ、少しぼうっとしていたみたい」
「左様でございますか」

 私ったら、旦那様が最近甘々だからって、図に乗っているのだわ! ダメダメ。いくら好きになってくださっても、求めすぎたら呆れられてしまうのよ! って、なにを言ってるの私!! 旦那様が私をす、好きだなんて!! 好きなんて一言も言われてないでしょう!? いえ、でもあれはもう好きってことよね……いやいや、そうやって期待させられて、ダメでしたってことが前世で何度もあったじゃない! 忘れるな、ポンコツ頭!!

「奥様、お止まりくださいっ。そのままではぶつかってしまいます!」

 ミランダの声にハッとして足を止めると、目の前にリビングの扉があった。
 もう少しでぶつかるところだったわ……

「ミランダ、ありがとう」
「やはり、早朝からバタバタしておりましたのでお疲れなのですね。まだお時間がございますし、お茶をご用意いたします」

 ミランダは有能ね。

「お願いできるかしら」

 そう伝えたあと、リビングの扉を開けてもらう。
 ドキドキしながら部屋に入ると、長い足を組んでソファに座る旦那様と、その対面にちょこんと座るノアがいた。

「まぁ、二人ともお支度を終えていらしたのね」

 ノアが羽織っているジャケットは緑色で、おそらく金木犀きんもくせいの葉っぱをイメージしているのだろう。指示したリボンタイは金木犀きんもくせいの色で、中のシャツはホワイトゴールドだ。シャツのえりはセーラー服のように大きめで、ノアの可愛さを引き立てていた。子供ならではのハーフパンツも可愛らしいわ。しかもお澄ましして座っているのがますます可愛いのよ!
 対面に座る旦那様も、ノアと同じ色合いで、膝下までの長めのジャケットには、ゴールドで金木犀きんもくせい刺繍ししゅうが細かく施されている。私のように可愛らしいデザインではなく、金木犀きんもくせいの葉っぱも入った、なんだか格好いい柄だ。
 色合いは同じなのに、可愛らしいノアとは全く雰囲気が異なるわ。

「おかぁさま! とぉっても、きれぇね!」

 今の今までお澄ましして座っていたノアが、私に気付いた途端、嬉しそうにソファから降りてやってくる。

「ありがとう。ノアもとーっても格好いいわ!」
「わたち、かっこぃ?」
「格好いいわ。さすがわたくしの騎士様ね」
「おかぁさま、おはなみたいに、きれぇよ!」

 まぁ! 私の小さな騎士様は、とってもお口が上手いみたい。

「イザベル……」

 盛装したノアとたわむれていると、いつの間にかそばに来ていた旦那様が、私の名前を愛おしそうに呼ぶものだから、やっぱり私のこと好きなんじゃなくて!? と図々しく考えてしまう。

「君こそが、可憐に咲く金木犀きんもくせいの花そのものだ」

 旦那様は私の手を取り、指の先に口づけを落とすと、とろけるような笑みを見せた。

「美しい金木犀きんもくせいの妖精、どうか私にエスコートさせてくれないか」

 なんなの!? 旦那様ってこんなことをおっしゃる方だった!?
 私の顔は今、真っ赤に染まっていることだろう。

『本物の妖精、さんじょーう!』
『ホンモノハ、コッチー!』
『ヨーセー、アラワル!!』

 どこからともなく現れた妖精たちを見た瞬間、旦那様の眉間に深いしわが刻まれた。

『わーっ、イザベルってば本当に、ボクらのように綺麗じゃないか!』
『キレー!』
『ピカピカ!!』

 ぴかぴか?

「……やはり、妖精ではないな。女神のように美しい」

 変えた!? 旦那様が妖精から女神に言葉を変えたわ!!

『なんでだよ! 妖精でいいじゃないか!』
『ヨーセート、イエー!』
『ヨーセーダロ!!』

 妖精たちのおかげで台なしね……

「おかぁさま、わたち、えしゅこおと、しゅる!」
「まぁ! ノアがエスコートしてくれますの?」
「しゅる!」

 折角なので、両手に花でエスコートしてもらいましょう。

「旦那様、ノア、エスコートをお願いできますかしら?」
「もちろんだ」
「はい!」

 フフッ。まるで悪女にでもなった気分だわ。あら、そういえば私、悪女でしたわね。


『二人の男にエスコートさせるなんて、やるねぇ』
『ジョオーサマ!』
『ケイコクノビキ!!』

 妖精たちがからかってくるけれど、なんだかいい気分だわ。


     ◇ ◇ ◇


 高級感のある黒塗りの新型馬車が教会の広場へ入っていく。ディバイン公爵家の紋章が付けられたそれに、人々の目は当然集まるわけで……

「旦那様、新型馬車はやはり注目されますわね」
「現時点で新型に乗っているのは我々くらいだろうからな」

 にやりと、まるで悪戯いたずらっ子のように微笑んだ公爵様は、その長い足を組み替えて言う。
 時刻は午前十時前。ほとんどの貴族はすでに教会に到着しているようで、教会の広場は多くの馬車で混雑している。そんな中、公爵家の馬車を操る御者ぎょしゃは堂々と教会の正面に馬車を停める。フットマンによりうやうやしく扉が開かれると、公爵様は落ち着いた様子で立ち上がり、馬車を降りる。

「ディバイン公爵閣下よ!」
「なんて素敵なの」

 女性たちの黄色い声と溜め息が馬車の中まで届き、アイドル並みの人気だと感心してしまう。

「ノア、降りましょう」
「はい、おかぁさま」

 立ち上がり、ノアの手を引く。先に私が降りてノアを抱き上げた方がいいかしらと思った時、外に出ていた旦那様がノアに手を伸ばし、抱き上げたのだ。

「きゃーっ」
「公子を抱き上げているわ!!」
「お揃いのお衣装ですのね! なんて素敵な親子なのっ」

 案の定周りの令嬢、ご婦人が大騒ぎし、それによりさらに人が集まってくる。窓から見ると、門の向こうでは庶民も大勢野次馬しているではないか。
 あれが新型の馬車かと集まる人々、ディバイン公爵を一目見ようという人々に囲まれており、馬車から降りるのを躊躇ためらうほどだ。

「イザベル、手を」

 ノアを下ろした旦那様が、私に手を差し出してくる。ドキドキしつつも手を取って、ドレスの裾を踏まないように上げ、ゆっくり馬車の階段を下りると、集まっていた人々がどよめいた。

「なんて素敵なの……」

 後々ミランダが語ったことによると、金木犀きんもくせいを模した衣装を身にまとう、高貴な一家の姿に皆が見惚みとれたのだとか。
 時が止まったかのように呆けていた貴族たちだったが、ディバイン公爵一家に道を作らねばならないと思ったのか、モーセの海割りのように人混みが割れ、その中を公爵様とノアが堂々と歩いていくではないか。私はといえば、公爵様にエスコートされているので、止まるわけにもいかず、一緒に教会へ入っていく。

「キャアアアァァァァァ!!」
「素敵ィィィィ!!」
「テオバルド様ァァァ!!」
「公子様ァァ! こっちを向いてェェ!」
「なんって美しい!! イザベル様ァァァ!!」

 さながら、ハリウッドスターがレッドカーペットを歩いているかのごとく、興奮した人々が叫ぶ。
 そのあと、新型馬車の注文が殺到し、ちまたでは金木犀きんもくせいを模したアクセサリーや洋服が流行し出すのだが、私たちがそれを知るのはまだ先のことであった。


     ◇ ◇ ◇


「――これより、イーニアス・エゼルバルド・グランニッシュ第二皇子の、祝福の儀をりおこないます」

 世界中の教会で最も長い歴史を持つといわれる、グランニッシュ帝国のトルノ大聖堂。その、普段は閉ざされた最奥の部屋の祭壇前で、イーニアス殿下は、大司教の言葉をうやうやしく聞いている。純白の祭服をお召しになっており、一生懸命練習したのであろう手順に沿って、神々の像の前にひざまずく。
 聡明さがにじみ出ているわ。皇后様もさぞ誇らしいでしょうね。
 最奥の部屋とはいえ、内部はドイツのケルン大聖堂に似て広い。神々の像の後ろにある窓からは光が差し、神々しさと荘厳さをかもし出していた。

「イーニアス・エゼルバルド・グランニッシュへ祝福を――」

 大司教がそう言った直後、神々の像から光があふれ、スポットライトのようにイーニアス殿下を照らし出す。そして虹色の光がキラキラと殿下の周りに降り注いだ。

『あれが神々の祝福さ。それに、見ていて……』
『モウスグ!』
『ドーン!!』

 妖精たちが私たちの後ろから、なにが起きているのか教えてくれる。
 どうやら光は私と旦那様にしか見えていないようで、周りにいる貴族たちは皆、落ち着いた様子だった。
 というか、もうすぐドーンってなに?
 と思った瞬間、イーニアス殿下の前にゴォォォ!! と火柱が上がったのだ!!
 火柱は徐々に人型をとっていき――やがて、炎でできた髪に、炎でできた服をまとった、全身が赤い仁王像のような男性が現れたではないか!

「っ!? だ、旦那様……っ」
「……落ち着け。あれは、私たち以外には見えていないようだ」

 旦那様に言われ、もう一度周りを見るが、本当に誰もなにも反応していない。

ほむらの神だよ』
『コーリン!』
『ドーン!!』
「「っ!?」」

 妖精の声に、旦那様と顔を見合わせる。

ほむらの神が加護をお与えになるのさ!』
『カゴー!』
『オアタエー!!』

 加護!? イーニアス殿下に神の加護!?

「……そうか。皇帝になる者は、必ず火の攻撃魔法が使える。つまり、神はイーニアス殿下を次期皇帝にとお認めになったということだ」

 えぇ!? それは……確かに、マンガ『氷雪の英雄と聖光の宝玉』でもイーニアス殿下は火の攻撃魔法を使えていたわ。それでも兄弟と帝位を争っていたわよ。一体どういうこと……?
 ほむらの神は、イーニアス殿下の頭に人差し指でちょんっと触れる。すると、イーニアス殿下があっという間に火柱に包まれた。
 大丈夫だとわかっていてもハラハラするわ!

『あ、ほむらの神様がボクらを見ているよ~。手を振っとこうよ』
『バイバーイ!』
『グッバーイ!!』

 ちょっと!? そんな軽い感じでいいの!?
 あ、ほむらの神様、本当に手を振り返してきたわ。旦那様が少し呆れた瞳でほむらの神を見ているのがなんとも……

『すごかったね。火柱』
『ドーン!』
『ゴォォ!!』

 ほむらの神は、イーニアス殿下の火柱が収まると同時に消えてしまった。妖精たちは、いいものを見た、みたいな軽い調子で会話をしている。旦那様は眉根を寄せ、ノアはキラキラとした瞳でイーニアス殿下を見つめていた。そして、皇帝は――何故か、上機嫌に笑っていた。
『氷雪の英雄と聖光の宝玉』で描写されていたのと同じように。


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