1
件
「あなたの小説に救われました」
社会にうまく馴染めず、自分はどこか壊れているのではないか――そんな思いを抱えながら生きてきた青年、葉。
人の痛みには誰よりも敏感なのに、自分自身の痛みにはいつも蓋をする。
そんな葉は、自分と同じように生きづらさを抱える誰かを勇気づけたいという思いから、自らの過去と苦しみをもとに一冊の小説を書く。
その本を手に取ったのは、心を病み、生きる意味さえ見失っていた女性、優衣だった。
葉の言葉に心を動かされた優衣は、彼へ一通の手紙を送る。
顔も知らない。
声も知らない。
住んでいる世界さえ違う二人。
それでも、便箋の上でだけは誰にも言えなかった本当の自分を見せることができた。
苦しい夜には互いを励まし、
何もできなかった日には「それでもいい」と伝え、
生きる意味が分からなくなった日には、もう一日だけ生きる理由を送り合った。
誰かを救おうとして小説を書いた葉。
その小説に救われた優衣。
けれどいつしか葉自身もまた、優衣から届く手紙に救われるようになっていく。
半年間の文通を経て、二人は互いに特別な感情を抱き始める。
そしてついに、初めて会う約束を交わした。
葉はその日を待ち続けた。
けれど――。
約束の場所に、優衣は現れなかった。
数日後、届いたのは一通の手紙。
「ごめんなさい。大事な予定ができてしまいました」
理由は、それだけだった。
なぜ優衣は来なかったのか。
なぜ、その理由を教えてくれないのか。
それでも二人の手紙は続いていく。
そして葉はまだ知らない。
優衣が一通一通の手紙に込めていた、本当の意味を。
これは、
誰かを救いたかった青年と、
その青年を救いたかった女性が、
最後まで互いを想い続けた物語。
会えなくても、人は誰かを愛せるのか。
いなくなっても、その人の言葉は誰かを生かし続けることができるのか。
そして――
人生を諦めかけた一人の青年が、
「生きてみたい」と願えるようになるまでの物語。
文字数 5,187
最終更新日 2026.09.06
登録日 2026.09.06
1
件