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たった5分間しか現れない扉——。社会の仮面を脱ぎ捨て、大人たちは狂おしい欲望に溺れていく。
失恋の痛手を抱え、虚無感に苛まれていた29歳の真中悠太(まなか ゆうた)。
ある夜、会社の屋上で息を潜めていた彼は、シゴデキ美人上司・篠田課長(37)と、同期の美月(29)の密談を盗み聞いてしまう。
「必ず夜20時ぴったりに行ってください。じゃないと、入り口すら見つけられなくなりますから」
美月が言葉巧みに誘うのは、非日常と刺激を味わえる秘密の場所。
半信半疑のまま好奇心に駆られた悠太が辿り着いたのは、歓楽街の片隅——自販機の裏で、花壇の葉をかき分けるように密かに姿を現す謎の看板『しのび』だった。
出現時間は、わずか五分間。
狐の目隠しをした妖艶な案内人、ねっとりと肌にまとわりつく湿気と甘い香り。
名前も、スマホも、身につけた衣服すらも奪われる「禊(みそぎ)」の儀式を抜けた先には、理性をどろどろに溶かす生々しい非日常が広がっていた——。
「ここでは外の世の位も名誉も関係ございません。皆様、ただの『欲深き獣』でございます」
日常の抑圧に傷つき、もやもやを抱えた大人たちへ贈る、濃密で官能的なエロティシズム・ミステリー。
文字数 13,870
最終更新日 2026.10.30
登録日 2026.10.22
「どうせ俺なんて、一つもいいことねぇ」
18歳の健吾は、人生に絶望していた。駅のホームの隅でアコースティックギターを掻き鳴らし、自作の陰鬱な曲『死にたい』を吐き出す。
Dm(ディーマイナー)が夜の空気に虚しく響く、そんな夜。
そこに現れたのは、終電間際のホームには不似合いな、いや、あまりにも「終わりすぎている」ジジイだった。
額にはネクタイのハチマキ、ワイシャツのボタンは掛け違い、ズボンのチャックは全開。片手に芋焼酎の一升瓶を抱え、千鳥足で健吾に絡んでくる。
「かぁ〜!お前の歌は暗ぇ〜!聴いてるこっちが死にたくなるわ!」
最悪だ。渾身の曲を、こんなクソジジイの奇行のBGMにされた。
だが、健吾がガン無視を決め込むと、そのジジイは焦点の合わない目で、妙にギラついた光を放った。
「お前さん、そんなに死にてぇのか」
「……『死にたい』はな、結局『誰か俺を構ってくれ』って甘えなんだよ」
「俺はな、ここいらの誰よりも金を持ってる。そこのデカいビルも、あそこの土地も、全部俺のだ」
酔っ払いの戯言か。
だが、その手にした一升瓶は『森伊蔵』。腕には見たこともない複雑な腕時計が光っている。
そしてジジイは、靴が片方無いまま、高らかに笑った。
「新曲作れよ!タイトルは『生きたい』だ!ガハハハ!」
――あんた、一体、何者なんだよ。
謎の『どん底』(に見える)ジジイとの出会いが、Dm(マイナー)に沈みきっていた健吾の旋律に、強引なD(メジャー)の光を差し込ませる。
これは、絶望の淵から這い上がる、一人の少年の『生』の歌
文字数 2,939
最終更新日 2025.10.20
登録日 2025.10.20
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