酔いどれジジイと少年

「どうせ俺なんて、一つもいいことねぇ」

18歳の健吾は、人生に絶望していた。駅のホームの隅でアコースティックギターを掻き鳴らし、自作の陰鬱な曲『死にたい』を吐き出す。

Dm(ディーマイナー)が夜の空気に虚しく響く、そんな夜。

そこに現れたのは、終電間際のホームには不似合いな、いや、あまりにも「終わりすぎている」ジジイだった。

額にはネクタイのハチマキ、ワイシャツのボタンは掛け違い、ズボンのチャックは全開。片手に芋焼酎の一升瓶を抱え、千鳥足で健吾に絡んでくる。

「かぁ〜!お前の歌は暗ぇ〜!聴いてるこっちが死にたくなるわ!」

最悪だ。渾身の曲を、こんなクソジジイの奇行のBGMにされた。

だが、健吾がガン無視を決め込むと、そのジジイは焦点の合わない目で、妙にギラついた光を放った。

「お前さん、そんなに死にてぇのか」

「……『死にたい』はな、結局『誰か俺を構ってくれ』って甘えなんだよ」

「俺はな、ここいらの誰よりも金を持ってる。そこのデカいビルも、あそこの土地も、全部俺のだ」

酔っ払いの戯言か。

だが、その手にした一升瓶は『森伊蔵』。腕には見たこともない複雑な腕時計が光っている。

そしてジジイは、靴が片方無いまま、高らかに笑った。

「新曲作れよ!タイトルは『生きたい』だ!ガハハハ!」
――あんた、一体、何者なんだよ。

謎の『どん底』(に見える)ジジイとの出会いが、Dm(マイナー)に沈みきっていた健吾の旋律に、強引なD(メジャー)の光を差し込ませる。

これは、絶望の淵から這い上がる、一人の少年の『生』の歌 
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