真中流マネジメント

監督3年目のビジョンと采配――“目の前の1勝”をもぎとるための起用

2017.04.14 公式 真中流マネジメント 第25回

選手発奮を意図した新スローガン「目を覚ませ!」

自分で自分の限界を決めつけないこと
自分自身に自信を持つことの重要さ

最初の「メッセージ」は、私の意図、ビジョンを端的に伝えるための「スローガン」です。今年のチームスローガンは「目を覚ませ!」に決定しました。これまでは、「つばめ改革!」(2015年)、「燕進化!」(2016年)と、「ツバメ」というフレーズを盛り込んだものでしたが、今年はあえて「ツバメ」を外して、「目を覚ませ!」というちょっと変わったスローガンにしたんです。

昨年は5位という結果に終わってしまったけれど、一昨年にはリーグ制覇を成し遂げたように、ヤクルトの選手一人一人の能力はかなり高いと私は思っています。でも、私自身も経験があるのですが、プロの世界で何年も経験を積んでいくと、自分で勝手にそろばんをはじいて、「今年の成績はこの程度だろう」と、自分で決めつけてしまうことが往々にしてあります。でも、それでは決していい成績を残すことはできません。

そこで私は、「みんなの力はもっともっとある。一昨年の優勝は決してまぐれじゃないんだ」と伝えたくて、「目を覚ませ!」というスローガンを掲げました。「自分自身に自信を持とう!」と、もう一度選手たちを奮い立たせたいと思ってのフレーズです。当初から、「ありきたりなフレーズよりはインパクトがあった方がいい」と考えていたので、私自身はとても気に入っています 。

今年一年を戦う上で、「目を覚ませ!」というのは重要なキーワードですから、チーム全員が一堂に会する2月1日、キャンプイン初日のミーティングで、このスローガンを全員に伝えました。選手たちからは大したリアクションはありませんでしたが、その顔付きからはそれぞれが胸の内に闘志を滾らせてくれているのだと感じましたし、シーズンを通じて、この言葉に込めた意味がより選手たちに浸透してくれるだろうと私は信じています。

「開幕投手・石川雅規」の起用も決意の表れ

小川でなく、石川を開幕に抜擢した理由
起用を通して伝えたかった選手達へのメッセージ

真価が問われる3年目、私は開幕投手にエース・石川雅規を指名しました。「目を覚ませ!」と言葉にして伝えた一方、こういった決断もまた、私から選手たちへの「メッセージ」の一つです 。

リーグ最低の防御率を記録した昨年の反省から、今年のキャンプでは「投手陣の整備」に主眼を置いていました。そのため、キャンプ中は私自身もブルペンで多くの時間を過ごしました。例年に比べて、意図的にブルペンで過ごす時間を長くしたのは、「とにかく投手陣に奮起してほしい」という思いを伝えるためでした。これも、私からの「メッセージ」の一つです。その後、オープン戦を経て、石川雅規、小川泰弘、館山昌平、山中浩史、オーレンドルフ、ブキャナンと6名の開幕ローテーション投手を決めました。

この6名の投手の中で、私は開幕投手に石川を指名しました。開幕戦というのはものすごいプレッシャーがかかるもの。その中で、いかに自分の力を発揮できるかが勝負です。その点、石川はどんなときでも自分の力を発揮することができる。開幕戦だろうと関係なく、平常心で試合に臨むことができる。その点を買いました。さらに、オープン戦でも好調で、状態も良かった。もう、迷うことはありません。

開幕前に本人を呼んで、「開幕は任せた」と告げたところ、彼は「本当に僕でいいんですか?」と言いつつも、「頑張ります、ありがとうございます!」と元気に言いました。やはり、そういう性格の方が大舞台には向いているのでしょう。若いピッチャーからの信頼も絶大で、たとえ打たれたとしても、「石川さんが打たれたのなら仕方がない」と周囲に思わせる存在です。大切な開幕戦を、誰もが認めるエースに任せるというのは当然のことでした。

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プロフィール

真中満
真中満

1971年栃木県大田原市出身、宇都宮学園高等学校を経て日本大学卒業後1992年にドラフト3位で東京ヤクルトスワローズに入団。
2001年は打率3割を超えリーグ優勝、日本一に貢献。2008年現役を引退。
2015年東京ヤクルトスワローズ監督就任1年目にして2年連続最下位だったチームをセ・リーグ優勝に導く。
2017年シーズン最終戦をもって監督を退任。

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