社員成長の決め手は、人事が9割

採用の失敗はなぜ起こるのか、誰が悪いのか――

2024.02.14 公式 社員成長の決め手は、人事が9割 第18回

いろいろな経験・知識を持つ人材か、専門性を持った人材か

前述の「4つのタイプ」と関連して、ゼネラリスト(いろんな分野の知識や経験を持つ人材)の育成を重視するか、エキスパート(専門的な人材)の育成を重視するかも検証したほうがいいでしょう。それ次第で人事施策も変わってきます。

ゼネラリストの場合は、ジョブローテーション(様々な業務経験を積ませるために定期的な配置転換をすること)が必要になります。汎用的なビジネススキルとなる「マネジメント」の教育も不可欠。組織目標を達成するタスクマネジメント(目標設定・計画立案・進捗管理等)と、人を育てるヒューマンマネジメント(コミュニケーション能力、傾聴力、人材育成力等)の獲得がゼネラリスト育成の肝となります。

エキスパートの場合は、ジョブ型(仕事の価値や責任の重さなど職務=ジョブに対して給与を払う制度)の人事制度が馴染みます。専門職制度を用意してもいいでしょう。エキスパート育成においては、専門性の研鑽を重ねさせるため人事異動は限られます。

自社がどのような人材を育てていくのか、そのための人事制度や配置をどのように考えるのかは、大いに議論いただきたい人事制度の根幹です。人はすぐには育ちません。人材採用は、経営戦略に基づいて長期的観点から考える必要があります。

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求める人材とメッセージがズレると採用は失敗する

リーダーシップとマネジメント、コア・スペシャリスト・オペレーションマネージャー・オペレーター、ゼネラリストとエキスパート…。どのような人材を求めるかは、企業ごとに異なる「企業の、働く人に対する考え方」によります。「長く働いてほしい」という企業もあれば、「新陳代謝」を望む企業もあるでしょう。

各企業の個性ともいえる、これら“軸”となる考え方を「人事ポリシー」といいます。人事ポリシーを定めるべき項目は、「何に対して給与を払うか」「人を資本と考えるか資源と考えるか」「新卒と中途、どちらを採用するか」「個人プレイとチームプレイ、どちらを求めるか」「どんなモチベーションで働くか」など、多岐にわたります。
(詳細は、拙著『人事で一番大切なこと』をご参照ください)

これらの軸となる考え方=「人事ポリシー」をしっかりしないまま、人材採用に取り組むと、多くの場合、失敗します。また、人事ポリシーを定めていても、発信の仕方が「求める人材像」とズレてしまうと、希望する人材は応募してきません。

一例を挙げると、コア人材の募集なのに、ワークライフバランスや福利厚生ばかりPRしている求人をよく見かけます。これは採用のミスマッチの典型といえるでしょう。

コア人材は、新たな価値を出し続けることが求められ、プライベートでも仕事のことを考えているような「ワークライフブレンド」型のライフスタイルが必要となります。常に情報を収集し、分析し、新たなことを企画し、人を巻き込みながら実現するためには、仕事中心の生き方でなければ生き残れません。

ところが、「オンオフのメリハリをつけて働けます」「福利厚生でスポーツジムが利用できます」「年間休日〇〇日」という情報ばかり発信している求人が少なくありません。オペレーションマネージャーやオペレーターの募集であれば、こうした発信も有効に機能しますが、コア人材の募集にはミスマッチ。求める人材によって、アピールする情報も変えなくはいけないのです。

人事ポリシーを考えるのは、社長の役割。採用担当者は、社長と会社のスタンスをすり合わせ、求める人材像を具体化し、それに適したメッセージを発信しなくてはいけません。まずは社長とよく話し合い、自社の“軸”となる考え方を明確にすることから始めましょう。人事ポリシー=「企業の働く人に対する考え方」次第で、採用できる人材も、社員の働き方もモチベーションも、あなたの会社の未来も大きく変わります。

次回につづく

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プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

著書

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