こんな仕事絶対イヤだ!

快適なカツラライフをお約束――シラミ取り

2017.05.10 公式 こんな仕事絶対イヤだ! 第22回

巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……

快適なカツラライフをお約束

学校の音楽室にある作曲家の髪形は、ほぼ一様にもっさりしている。それはカツラをかぶっているからであるが、もちろん、全員の自毛が寂しかったわけではない。彼らが活躍した時代は、カツラが上流階級の定番ファッションだったのである。当時のカツラも現代のそれと大して構造は変わらず、頭部に合わせた形のメッシュ素材に髪をくっつけて作られていた。人毛が移植されていたため質感は最高だったが、問題もあった。人毛を好むシラミが住み着いてしまうのである。これを取り除く仕事が『シラミ取り』だった。

カツラに付いたシラミを取るには、毛を丁寧に櫛(くし)ですいていくしかなかった。白っぽいシラミとその卵が櫛にべっちょり付くのは気持ち悪いが、これも仕事のうちである。ちゃんと取り除かないとのちのちクレームが来かねないため、文字通りシラミ潰しにやっていくしかない。現在市販されているカツラも、外している時は櫛を通して整える必要があるが、シラミの心配はほとんどない。現行ユーザーは化学繊維に合掌して感謝せねばなるまい。

このようなオシャレカツラ文化(略してオカ文)が続く限り、シラミ取りの仕事がなくなることはなかった。シラミを放置すれば、首から上が血を吸われまくったからである。我慢したところで、感染症のリスクが増すだけで何の得もなかった。だったらカツラなんかやめればいいのに、と考えがちだが、そうすると自毛にシラミが寄生するだけのことであった。当時のヨーロッパは総じて清潔な水が不足しており、そうそう毎日風呂には入れなかったからである。だったら全員剃毛すればいいのに、と考えがちだが、そうすると音楽室の壁がカオス状態になるだけのことであった。

(illustration:斉藤剛史)


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プロフィール

清水謙太郎
清水謙太郎

1981年3月、東京都生まれ。成蹊大学卒業後にパソコン雑誌の編集を手がける。また、フリーライターとして文房具、自転車などの書籍のライティングや秋葉原のショップ取材等もこなし、多岐に渡る分野でマルチな才能を発揮している。

著書

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