こんな仕事絶対イヤだ!

ペスト大流行が産んだ辛すぎるお仕事――犬猫殺し

2017.05.31 公式 こんな仕事絶対イヤだ! 第28回

巷では相も変わらず企業の労働環境に関するニュースが絶えませんが、歴史を紐解いてみれば、ブラックな職業は大昔から存在していました。そこで本連載では、古代・中世ヨーロッパや日本の江戸時代にまで遡り、洋の東西を問わず実在した超ブラックな驚くべき職業の数々を紹介していきます。あなた達は、本当のブラック職業を知らない……

ノラ動物は片っ端から皆殺しだ~!(泣)

“ペスト関連職業”はまだまだ続く。戦争特需とはチト違うが、大量に人が死ぬとそれが波及して意外なビジネスを生むものである。『犬猫殺し』がまさにそれだ。主にスチュアート朝時代のロンドンで散見された職業で、ペストを広める元凶とされた野良犬や野良猫をとっ捕まえて殺すお仕事なのである。公衆衛生の維持に努める、いわば保健所のような業務であった。

犬猫殺しの皆さんはもともと“犬追い”と呼ばれており、彼らの雇い主は教会の牧師だった。教会の敷地に入ってくる野良犬を追い出すという、任天堂がゲーム&ウォッチで商品化していそうなホンワカしたお仕事であった。しかし、野良犬がペストを運んでくるとあったら追い出すだけでは済まない。ロンドンの参事会が犬や猫、ウサギに鳩、そしてもちろんネズミなど、ペストの媒介と疑わしき動物を1匹殺すたびに報奨金を出したことから、事態はますますヒートアップしたのである。犬猫殺しはムチと手袋、それと動物を押さえつけるためのトングを持って街に繰り出した。結果として4万匹の犬と8万匹の猫が天に召されたという。

ボコボコに殴られて不条理な死を遂げた大量の犬猫には哀悼の念を禁じ得ないが、それによって人間たちは相応の報いを受けることになった。犬猫を殺したことが、結果として真のペストの媒介であったネズミを利することになったのだ。今でこそ不毛としか思えない仕事だが、当時は良かれと思って行なわれていただろうし、楽しそうに犬猫を殴り殺していた者も恐らくはおるまい。彼らとてつらかったはずだ。

(illustration:斉藤剛史)


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プロフィール

清水謙太郎
清水謙太郎

1981年3月、東京都生まれ。成蹊大学卒業後にパソコン雑誌の編集を手がける。また、フリーライターとして文房具、自転車などの書籍のライティングや秋葉原のショップ取材等もこなし、多岐に渡る分野でマルチな才能を発揮している。

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金持ちの道楽として庭で飼われた「隠遁者」、貴族の吐いたゲロを素早く回収する...
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