叱れない人がうまく部下に注意・喚起できるようになる、具体的なアプローチがあります。
それはズバリ、「叱らなくても済む方法」を身に付けることです。
叱れない人が無理に叱ろうとしても、どうしても心理的な抵抗感が出てしまい、うまく行きません。そこで、「叱らなくても済む方法」=叱る側が「心理的な抵抗」を感じずに済む方法を身に付けることは、大変有効です。
そしてこの方法は、「よくない叱り方」を回避するのにも役立ちます。
具体的に見てみましょう。
【3つのI(アイ)】
① 1つ目のI:Iメッセージで気持ちを伝える
② 2つ目のI:インフルーエンス(影響)を伝える
③ 3つ目のI:インプルーブ(改善行動)を決める
① 1つ目のI:Iメッセージで気持ちを伝える。
Iメッセージとは、(私は)で始まるメッセージのことです。
相手の気持ちではなく、自分の気持ちにフォーカスすると、相手は否定しにくくなります。遅刻をした人に「あなたは責任感がない」と指摘した場合、「いや、私は責任感はあります」と否定できますが、「(私は)遅刻したことを残念に思っている」という自分の気持ちは「いや、あなたは残念には思っていないはずだ」とは否定しにくいでしょう。
遅刻をしたことについて自分の気持ちを述べることは、「叱る」というニュアンスが薄れ、叱れない上司はかなり伝えやすいはずです。相手のよくない行動を指摘するという心理的抵抗を極端に減らすことができます。
また、言われた方も、上司の気持ちを述べられただけなので、反発する要素が大幅に減ります。
さらに、自分の気持ちを話すことによって、相手のマインドを責めることも回避できます。
また、Iメッセージを使うと、怒りをぶつけるだけで終わることも回避できます。「お前、何やっているんだ!」という言い方ではなく、「(私は)正直今回の件では腹が立っている」とIメッセージを使うと、怒りをぶつける表現にならず、かつ自然と怒りも収まり、冷静な議論をすることができます。しかも、言われた相手(部下)は、自分を守るアクションを取らなくて済みます。
② 2つ目のI:インフルーエンス(影響)を伝える
部下の問題行動がどんな影響を与えるのか、部下自身がよく理解していないケースは多いものです。「なぜ遅刻をしてはいけないのか?」という理由を伝える際、「ルールだから」とか「社会人として遅刻をすることはいけないことだから」といった「常識・決まり事」として伝えても、彼らには響きません。
しかし「影響」に焦点を当てれば、とても理由が伝わりやすくなります。
「あなたが遅刻をすることで、参加メンバーの大切な時間を奪ってしまった」「あなたが遅刻をしたことで、あなたは時間を守れない人だと評価が下がる可能性がある」といった影響に目を向けることが有効です。
もっと言うと、「あなたが会議に間に合っていれば、あなたの素晴らしいアイデアがもっと活かせた」というように、遅刻のネガティブな面ではなく、時間に間に合ったときのポジティブな面を伝えられると、さらに伝わりやすくなります。
これも、周囲への影響を述べるだけですから、叱れない人もやりやすい方法です。
しかも、このポジティブな影響に焦点を当てる方法は、部下にはもっと存在価値があるということを暗に伝えられるので、高い改善効果が期待できます。
③ 3つ目のI:インプルーブ(改善行動)を決める
これは、具体的にどういう「行動」を改善すれば問題がなくなるかを話し合うことです。
「遅刻はもうするなよ」で終わるのではなく、「時間に間に合うためには、具体的にどんな改善策があるか決めよう」と話し合い、「予定の10分前に到着するスケジュールで朝の準備時間を10分ずつ早める」といった改善策を決めます。
こういった改善策は、1回決めたら終わりではなく、できるようになるまで繰り返し共有する必要があります。過去の行動を指摘して終わるのではなく、未来に向けて、これからどうしていくのかという「前向きなアクション」を設計することが重要になります。
以上が「叱らなくて済む方法」です。
今回は遅刻を例に紹介しましたが、他のことでも同様に活用できます。
「3つのI(アイ)」の手順を踏めば、部下をなかなか叱れない上司も、部下の行動を改善できるようになります。
重要なことは、部下のマインドや存在価値を否定することなく、「問題行動だけ」を修正する点です。Iメッセージで気持ちを伝え、自分の持つ影響に目を向けさせ、改善アクションを決めるプロセスを繰り返していけば、部下の問題行動も徐々に改善に向かい、成長スピードは飛躍的に上がるはずです。
次回に続く