健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

小太りがもっとも長生きする――医者が明かすダイエットの不都合な真実

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じつは多くの人が、肥満の何が悪いのかわかっていない

ダイエットは、健康にとっても、美容にとっても、永遠のテーマのようです。

ダイエットの方法はいろいろあります。ダイエット本は、相変わらず新しいものが出ています。しかし、たくさん出ているということは、ダイエットにはいまだに決め手がないということを示しているともいえます。
たとえば、すでに特効薬のある狭心症の場合、狭心症を治す特別な健康法を書いた本は、言うまでもなく出ていません。
つまり、ダイエットの本がたくさん出ているということは、どんな方法でも「結局うまくいかない」ということの証ともいえるのです。

ちなみに、一時期流行った炭水化物ダイエット、私もやって一時的にかなりやせました。ですが、すぐにリバウンドしました。
ダイエットはどんな方法でも一時的にやせることはできますが、長続きしないものなのかもしれません。

では、そもそも肥満とはなんなのでしょうか。医学的に病気を定義するには、基準値を作らないといけません。
肥満にも数値での定義があります。一般的にはBMI(Body Mass Index)が用いられています。これは身長と体重から計算しただけの数値に過ぎないので、あくまでも参考値ということになります。しかし、それにもかかわらず、メタボリックシンドロームという言葉が先行して、BMIが高いとすぐに病気のリスクがあると思われてしまいます。

たとえば、同じBMIの数値であっても、どこに脂肪がついているかで病気へのリスクが変わってきます。
肥満のタイプは「内臓脂肪型肥満(りんご型肥満)」と「皮下脂肪型肥満(洋なし型肥満)」に分けられます。後者の皮膚の上から脂肪をつまめるような肥満のタイプは、実は病気のリスクとはあまり関係がありません。しかし、実際の検診ではメジャーで腹囲を測っているだけなので、肥満のタイプを見ているわけではありません。
このように、BMIだけで肥満と病気のリスクの関係を論じるのは正確な話ではないのです。

美容の問題、見た目の問題だけなら、太っていようがいまいがその人の勝手でしょうが、病気のリスクになるということで肥満は問題にされます。
具体的にどんな病気のリスクにさらされるかというと、肥満は、糖尿病や脂質異常症、高血圧症、心血管疾患などの生活習慣病、さらには認知症やがんなどになる危険性が高まります。
また高齢になってくると関節への影響が大きくなって、歩行にも影響してきます。

BMIという数値について

肥満を定義するための数値であるBMIについて、もう一歩踏みこんで考えてみましょう。

BMIというのは、(体重 kg)÷(身長 m)÷(身長 m)という計算式で出します。
世界保健機関(WHO)の基準では普通体重(理想体重)は18.50から24.99以下になります。感覚的には見た目が少しやせぎみに感じるのがBMIの普通体重の人です。

しかし、BMIにはいくつかの問題点があります。先ほども指摘しましたが、BMIは身長と体重から算出したものに過ぎず、からだの質に関してはまったく無視しています。つまり、骨、筋肉、脂肪の量は考慮されていないのです。
やせて見えても、筋肉質の人は体重が多くなる傾向があります。逆に脂肪が多ければ体重は軽くなります。

そもそもBMIは医学分野から出てきた指標ではありません。アメリカのある保険会社が保険加入者から保険料を上げる根拠としてBMIという数値を見いだしたのです。肥満の人は病気になりやすいから保険料を上げるというようなことに用いられていたという説もあります。BMIの狙いは多くの人を肥満と判定するためにできた指標とも言えるかもしれません。
いずれにしても、その数値だけを使って、健康指導をするのは無理があるというものです。

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プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界で一番受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。推理作家協会会員。

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