【北欧バランスの消滅】スウェーデンNATO加盟が起こすウクライナ戦争への影響、プーチンの誤算か?

2024.02.06 Wedge ONLINE

 2024年1月24日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙トルコ特派員Adam Samson等が、「トルコ議会はスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟を支持すると表決。決定は西側軍事同盟に参加するスウェーデンの試みでの意義深い一歩を印す」との解説記事を書いている。

(Roland Magnusson/gettyimages)

 トルコ議会は、スウェーデンがNATOに加盟することに賛成した。スウェーデンの西側軍事同盟参加への長期の試みでの意義深い一歩である。1月23日の表決は、エルドアンがロシアのウクライナ侵攻の後、非同盟政策をやめたスウェーデンのNATO加盟に賛成する道を開いた。スウェーデンのクリスターソン首相は、それを歓迎した。

 北欧とバルト諸国は、この批准が地域の安全保障の強化になると歓迎している。リトアニアのナウセーダ大統領は「スウェーデンのNATO加盟は、より安全なバルト海とより強化された同盟への重要な一歩である」と述べた。

 ストルテンベルグNATO事務総長は、「この表決を歓迎し、ハンガリーが可及的速やかに批准を完了することを期待する」と述べた。

 エルドアンは昨年7月に加盟に賛成すると誓約したが、プロセスが遅れ、トルコと西側同盟国との溝を広げた。ハンガリーはスウェーデンの加盟の批准について、大体トルコと同じ対応をすると期待されている。

 1952年以来NATO加盟国であるトルコは西側のパートナーが忌避するロシアと強い結びつきを持ってきた。例えばウクライナ戦争開始後、トルコはロシアとの貿易額を増やし、かつ西側の制裁に参加していない。

 トルコの議会はエルドアンの政治的連立が支配しており、23日の表決はエルドアンの賛同なしに行われたとは考えられない。ただエルドアンはまだ批准議定書に署名しなければならない。

 トルコの大統領は米国がスウェーデンの試みへの賛成の見返りとして何10億ドルのF-16戦闘機を買いたいとの要請に応ずることを期待していると述べた。バイデン政権はこの武器取引を支持しているが、米上院の有力議員がトルコのギリシャとの関係の問題で懸念を表明している。

 また、トルコは、クルド武装組織の取り締り強化をスウェーデンに要求している。昨年施行された反テロ法を含むスウェーデンの措置がトルコの懸念を鎮めたとされる。

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 このフィナンシャル・タイムズ紙の記事が出た後、ハンガリーのオルバン首相は、1月24日、Xに「ハンガリー政府はスウェーデンのNATO加盟を支持する」と投稿し、議会に速やかに批准手続きを終えるように要請したと述べた。まだ若干の手続きは残っているが、スウェーデンのNATO加盟が実現することは確実になった。

 ロシアのプーチン大統領は、NATOの東方拡大、具体的にはウクライナのNATO加盟の恐れをウクライナ戦争の一因としていたが、ウクライナ戦争の結果、NATOの北方拡大を引き起こした結果となった。いわゆる北欧バランス(ノルウェーはNATO加盟国、スウェーデンは中立国、フィンランドはロシアに配慮する国)は消滅し、スウェーデンもフィンランドもNATO加盟国になる。これは、相当に意義深い情勢の変化である。

 第一に、バルト海はNATO加盟国で取り囲まれることになった。バルト海はロシアにとっても重要なシーレーン(海洋航路)であるが、有事の際には、その利用が制約されることになろう。特に、スウェーデンは強力な潜水艦部隊を有している。ロシアの飛び地カリーニングラードはロシアにとり防衛が困難な地域にさえなりかねない。

 第二に、バルト3国の対ロシア安全保障は格段に強化されることになろう。リトアニアの大統領の発言がこの記事でも引用されているが、バルト諸国はスウェーデンのNATO加盟を強く歓迎している。

 第三に、NATOの北方拡大は温暖化の中で期待されている北極航路についての西側の関与の道を開くことにつながりうる。

ごね得とはならないトルコ

 プーチンのウクライナ戦争が引き起こしたこの状況変化だけでも、ロシアの国益を害することになったと思われる。

 エルドアンはスウェーデン加盟問題でごね得をしたように思われるが、NATO加盟国にはトルコへの不信感が生まれ、長期的には、トルコには今後それがマイナスの影響を与えかねないと思われる。

 いずれにせよ、フィンランド、スウェーデンのNATO加盟は、日本としても歓迎すべきであると思われる。