バーゼル大学ベンジャミン・シェンケ教授(東ヨーロッパ史)は第二次世界大戦後、西ドイツは欧米側からマーシャル・プランの形で大規模な民主化支援を受けた。しかしロシアではソ連崩壊後欧米側の支援は無かった。両国の置かれた事情は違うが、このことがロシアで民主化が進まなかった原因だと論じている。
さらに同教授はロシアは民主化できる。その為に何をどうしたら良いかをロシアの市民社会は既に十分知っている。外国からの指導を必要としていないほどよく知っている、とも論じている('Will Russia ever experience democracy?' Igor Petrov)。
兎に角、今度こそ失敗してはならない。 追加的にいえば、今度は第二次世界大戦後の国際社会には存在しなかった新しい要素、中国というグローバルな覇権を目指す勢力が存在していることに留意して進む必要がある。その観点からも、西側社会はロシアを欧米民主主義の広範な領域の中に引き込み、共存して繁栄して行くという新次元の国際関係を目指すべきだ。
しかもこれは実は今日の欧米指導層には既に広く横溢している議論だ。現に、西側社会の有力な政治指導者、言論人、多くの政策研究機関、フォーリン・アフェアーズ誌などの有力な言論機関が、「ポスト・プーチンのロシア」に対して歴史的な支援をするべきだという議論を過去数年にわたって強力に展開して来ている。
私見ではロシアは民主主義を実行する必要はない。別に制度的に欧米型の民主制度である必要はない。ただ、新生ロシアが好戦的、侵略的でなければ問題ない。この一点が重要な点だ。
ここが確保されていれば、日本や米欧社会との友好協力は俄然前に進む。西側はその辺りまでを見通した上で、賢明な戦略を立ててロシア指導層、市民、市民社会、各レベルの指導層と綿密な対話と協力を進めるべきだ。
特に重要な要素はロシア青年層との対話だ。 彼らに欧米や日本での高等教育学術機関での留学の機会を提供することは永続的な関係を開き、大きなポテンシャルを生むはずだ。
もう一つ重要な点がある。それは世界最大面積を有するロシアという国が国家として地理的にも一体性を確保できるかどうかという問題である。
万一ロシアがバラバラになれば深刻な事態になる。外部勢力が利益を手にする。この点は既にロシア人自身が先刻危惧しているところだ。
欧州からユーラシア大陸にかけて民主主義的な帯が生まれるとアジア太平洋にも影響が生まれるかもしれない。この帯はもとより好戦的な帯ではない。もちろん、拡張主義的でもない。
新生ロシアは当然中国と友好的な関係を模索するだろう。トランプ氏の再登場は、新しい国際秩序を生むに違いない、トランプ氏の偏狭に挑戦して全く新しいダイナミズムが生まれることを期待したい。国際社会が一人の男性に振り回されていいはずは無いのだから。