金正恩は「戦争を望んではいない」可能性危険なのは過剰反応、中国やロシアとの関係には注意を

2024.02.29 Wedge ONLINE

 元CIA北朝鮮専門家のスー・ミー・テリーが、最近の金正恩の演説に関し、北朝鮮の挑発への過剰反応は危険だ、金正恩は戦争を望んでいない可能性が高い、抑止の強化と偶発戦争の防止が重要だと、2024年1月30日付のForeign Affairsで述べている。

(TASS/アフロ)

 金正恩は、韓国に戦争の脅威を突き付け、両国の親和性を否定し、韓国を敵国と非難した。1月、元国務省情報調査局東北アジア部長のカーリンと元ロスアラモス国立研究所長のヘッカーは、金正恩は「戦争に進む戦略的決断を下した」と警告した。

 カーリンとヘッカーの懸念は正当だが、金正恩が戦争を望んでいるという証拠は示していない。金正恩は、韓国との大規模な戦争は必ず米国を巻き込み、自らの政権の終焉を意味することを知っている。それ故北朝鮮が意図的に戦争を始めることはなく、リスクは寧ろ北朝鮮の軍事的な威嚇や低レベルの攻撃が報復を引き起こし戦争が始まることである。  

 1月15日の最高人民会議での演説で、金正恩は、韓国を「世界で最も敵対的な」国だとし、戦争は避けられないと宣言した。そして金正日が建設した祖国統一記念塔など南北協力の象徴を破壊するよう呼びかけた。

 金正恩の政策変化には、3つの可能性がある。第一は、将来の核使用を正当化するために行われているというものだ。韓国を敵と位置づけることで、攻撃のための論理的、道義的、イデオロギー上の根拠を確立した。

 第二は、韓国を外国として扱い、関係正常化の手段にしようとしたというものだ。しかし、韓国と断絶するとの決定は、この説明を不可能にする。最も信頼性のある説明は、大戦争には至らない程度の韓国への侵略を正当化するために変更したというものだ。

 北朝鮮は、地政学的状況を利用している。米中対立やロシアのウクライナ侵攻により、中国、ロシアとの協力が増大した。今や北朝鮮は挑発行動をとっても制裁を受ける度合いは少なくなり、自由にミサイルの数や質を上げている。

 1月6日、北朝鮮は延坪島に近い韓国の海域に200発以上の砲弾を発射した。もし延坪島で住民や軍人が死亡していたなら、尹錫悦大統領は報復砲撃や空爆を命じていたかもしれない。

 金正恩は合理的なアクターであり、米国との核戦争には勝てないことを理解している。金正恩は恐らく戦争は望んでいないだろうが、彼が誤算する可能性もある。偶発紛争防止のため、北朝鮮との意思疎通チャンネル確立が重要だ。

 日米韓の協力促進が重要である。情報共有やミサイル防衛、共同演習の増加等である。戦争は不可避ではなく、北朝鮮を抑止できる。北朝鮮に決意と強さを見せる時だ。

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変わらない朝鮮半島で戦争が起きるリスク

 昨年12月、金正恩は中央委員会で演説し、米国等に「強硬政策を実施する」と強調し、韓国との関係を統一の対象ではなく敵対的かつ戦争中にある国家間の関係へと転換すると述べた。今年1月15日には、最高人民会議で演説し、?「大韓民国を第1の敵対国、不変の主敵」とみなし、戦争の時には韓国を完全に占領し、北朝鮮の領域に編入するよう憲法の改正を指示し、?祖国平和統一委員会(韓国との窓口機関)や民族経済協力局、金剛山国際観光局を廃止すると決定した。

 これらを如何に理解するか。1月11日、二人の専門家、カーリンとヘッカーは、金正恩は戦争に踏み切る戦略的決断をしたとの見方を示した。それは世界の専門家の議論を触発した。

 今のところ、大勢はカーリンとヘッカーの見解に同意してはいない。テリーのこの論文も、彼らの見解には批判的である。

 「証拠を提示していない」、「金正恩は合理的なアクター」などと言う。表題からして過剰反応は危険だと言う。しかし双方の意見には、共通する要素も多い。