【揺れる欧州での核抑止】活発化する「米国抜き」でのロシア対抗、ドイツ、英国、フランス、それぞれが抱える課題

2024.03.19 Wedge ONLINE

 英国の核弾頭は総数225、配備数120とみられているが、核戦力の中身は、戦略原潜に搭載する弾道ミサイル(トライデント)である。これは、NATOの核戦力に組み込まれており、英国政府が「究極的な国益」が危険にさらされていると判断する場合には独自の判断で運用できることとされている。一方、英国の核戦力は、初期の段階から米国の支援と協力を得て成り立っており、米国抜きでどれだけ機能するかには大きな疑問符がつく。

 フランスの核弾頭は総数290、配備数280とみられているが、核戦力の中身は、戦略原潜に搭載する弾道ミサイルと、航空機に搭載する空対地巡航ミサイルである。フランスの核の目的は、フランスの自立と偉大さにこだわったドゴールの考えを色濃く反映し、「フランスの死活的な利益を守る」こと、「フランスの自立と行動を守る」こととされている。フランスは、そうした立場から、自国の核を決して同盟の枠組みに委ねてこなかった。

米国抜きでのロシア対抗は前途多難

 フランスは、独自性確保のため、1966年にNATOの軍事機構から脱退したが、2009年に復帰した。が、核戦力は独自の管理下におくことを条件の一つとし、NATOの核計画グループ(NPG)にも参加していない。

 一方、17年以来フランスの大統領に就いているマクロンは、欧州統合へのコミットメントが強く、フランスの核戦力が欧州的性格を持つことを強調してきた。「フランスの核戦力はその存在そのものによって欧州の安全を強化する」との発言もあり、マクロンは、フランスの核戦力を欧州の安全に結び付けて考える。

 しかし、そもそも自国防衛のための核戦力と、ロシアと対抗して欧州全体を守る核戦力では、発想も規模も異なったものとなる。更に、この記事でも触れられている通り、米国への不安から欧州独自の核抑止力を追求しようとすれば、それが更に米国が欧州から手を引く動きを加速させることに繋がりかねないとのジレンマもある。欧州にとって、米国抜きでロシアに対抗しうるような核抑止を構築することは極めて難事であろう。