【水原一平氏禁固30年か?】「大谷有罪説」は陰謀だが、これから大谷選手がアメリカ社会でやるべき2つの大切なこと

2024.04.17 Wedge ONLINE

 ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手の銀行口座から、多額の金額をギャンブルの負債返済に流用した水原一平容疑者の事件では、12日に同容疑者が地裁に出頭した。またその直前に、連邦検事が会見に応じるとともに、内国歳入庁(IRS、日本の国税庁に相当)も捜査の経過を説明している。

 その結果、当初考えられていたよりも迅速に事件の概要が明らかとなった。連邦政府当局の掴んだ具体的な証拠からは、大谷選手自身は違法行為に関与していないこと、一方で水原容疑者の手口は極めて悪質であることが浮かび上がっている。また、水原容疑者が違法なものを含めたギャンブルで負けた総額は、当初報道されていたよりも巨額であることも明らかとなった。

大谷選手(右)が日本や米国のためにすべきこととは?(AP/アフロ)

 残る問題は、水原容疑者への量刑であるが、盗んだ金額の大きさから考えると最大限と言われる禁錮30年に近い内容になるという説がある。その一方で、違法ギャンブルや資金洗浄に関する捜査に有益な情報提供をしたことから、むしろギャンブル中毒の根治を目指す治療刑が主となり、厳密な意味での収監は免れるという説もある。

 こちらは、司法当局のさじ加減というよりも、水原サイドが罪状認否において有罪を認めて司法取引に応じたとして、その取引の推移による。現時点では、司法当局と弁護士が詳細な点に至るネゴシエーションを行っているようだ。報道によれば、水原容疑者は罪状をほぼ認めており、弁護士もこれを前提に交渉を進めているようである。

 一連の報道を総合するのであれば、事件の真相はほぼ解明されたと言っていいだろう。米国の一部にあった、「違法ギャンブルに参加していたのは大谷選手本人だ」という一種の陰謀論だとか、日本で囁かれている「究極の善人である大谷選手は水原の負債を補填してやろうとしたが、違法性が分かったのでストーリーを変えた」という説のどちらも、ほぼ100%否定された。連邦捜査当局は動かぬ証拠を根拠にしており、この流れが変わることはなさそうだ。

 では、この事件は一見落着かというと、そうではない。大谷選手の今後については、全く何もしないで良いということはないからだ。2つ提言をしておきたい。

「肉声」で米国へ説明できなかった責任

 1つ目は、何と言っても英語でのコミュニケーションだ。そもそもは、野球に専念するあまりに、英語による意思疎通を通訳に全面的に頼ったことが問題の発端となった。この事実は重い。

 過去、多くの日本人選手がMLBに移籍したが、多くの場合に球団が通訳を用意して、その通訳が常にコミュニケーションの軸となってきた。例えば、日本人メジャーリーガーが、インタビューなどを通訳抜きで英語で受け応えするというシーンは極めて限られている。

 考えてみれば、野球選手というのは20代から30代の頭の柔らかい年齢で渡米することになる。例えば、キューバからの亡命選手、メキシコやパナマからの移籍組などの場合、米国に来て数年で通訳は外され、英語でチームメイトと語り、インタビューに応じて野球界の一員になっていく。日本でもモンゴルやブルガリア出身の力士は、24時間日本語漬けとなる中で、短期間に驚くほど流暢な日本語を習得する。

 そう考えてみると、日本人のメジャー選手だけがいつまでも通訳に頼るというのは異例だ。日本の側、特に広告業界などには「流暢な英語を話す姿が流れると、日本人からは心理的な距離が出てしまう」という懸念があるのかもしれないが、この点に関してはカージナルスのヌートバー選手の例などを考えれば、余計な心配と思える。

 とにかく、今回の事件にしても、大谷有罪論などという悪質な陰謀論が飛び交った背景には、大谷翔平というスーパースターの「肉声」が米国のファンに届いていなかったという問題があるのは明らかだ。特に大谷選手の場合は、エンゼルスで6年プレーし、そしてドジャースでは10年の大型契約を結んでいるということもあり、これはもう完全にメジャーの顔であり、アメリカという社会の要人である。