大学授業料「無償化」の劇的効果と噴出する不満

(写真:CORA/PIXTA)

「異次元の少子化対策」の一環として、政府は2025年度から、3人以上の子どもがいる世帯の子どもの大学授業料を無償化する方針であることが明らかになりました。

大学学費の支援制度については来年度、授業料減免や給付型奨学金の対象を現在の低所得層から多子世帯や理工農系の学生のいる中間層(世帯年収約600万円程度)まで広げることが決まっていますが、今回の案は所得制限を設けない見通しです。

対象になるのは3人以上の子どもがいる世帯の子どもで、大学のほか短期大学や高等専門学校などの学生も含まれます。授業料に加え、入学金も無償化の対象となる方向です。

高騰してきた大学の授業料

大学の授業料は、子どもの教育費の中で特に家計の負担が大きい費用です。日本政策金融公庫の調査によると、入学金や授業料、通学の交通費や教材費などにかかる費用の総額は国公立大学の場合4年間で平均481万円、私立文系で平均690万円、理系で822万円です。

これは幼稚園から高校までの15年間でかかる教育費(すべて公立に通った場合574万円)に匹敵、または上回る金額です。高校までは月々の家計収支から子どもの学費をまかなえた家庭でも、大学に進学すると途端に赤字に転落してしまうケースも少なくありません。それだけ、大学の学費は家計の負担になりえます(※)。

(※)日本政策金融公庫「令和3年度 教育費負担の実態調査結果」文部科学省「令和3年度子供の学習費調査

また、大学学費の家計負担は近年非常に重くなっています。下のグラフは平成以後の大学の授業料と民間企業の平均給与(月収換算)の推移です。大学の授業料は右肩上がりである反面、給与はほぼ右肩下がりか横ばい続きであることがわかります。国公立大学は2005年以降の授業料が据え置かれているものの、給与下落の動向がほとんど反映されない動きであることに変わりはありません。

親の給与が下がり、奨学金の依存度が高まる

給与が上がらないにもかかわらずこれだけ学費が値上がりすれば、当然ながら家計の負担は増します。次のグラフは1994年以降、大学生の収入に占める家庭からの給付額と奨学金収入の推移を見たものです。

家庭からの給付額(青色棒グラフ)は減少傾向にあります。この動きに反比例するかのように増えているのが奨学金(紫色)です。奨学金の受給率(大学生全体に占める奨学金利用者の割合、赤の折れ線)は1994年時点で21.4%でしたが、2020年には49.6%と2倍以上になっています。

現在の大学生のおよそ2人に1人は奨学金を利用しています。親の家計だけで子どもを大学に通わせることが、かつてに比べていかにハードルが高いことかが如実に表れています。

しかし奨学金を利用してもなお、大学生のいる家庭の経済的負担は小さくありません。平均給与と家庭から大学生への給付額を比べてみると、データが揃っている直近2020年の平均年収約373万円に対して家庭からの給付額は約115万円と、およそ3分の1です。

これらは別々の調査データを組み合わせた数値ですので、一概に「大学には毎年、年収の3分の1のお金がかかる」と解釈することはできません。とはいえ、子ども1人を大学に通わせるにはそれだけ大規模なお金を充てなければならないというイメージの参考にはなるでしょう。

子ども3人以上世帯に限定する是非

こうしてみると、今回の大学授業料無償化案がもし実現すれば、大学生の子どもがいる家庭にはきわめて大きな支援になるのは間違いありません。これまでの支援策と違って所得制限が設けられませんので、多くの家庭が支援を受けられるようにもなります。