〈トランプ・麻生会談〉「もしトラ」備える外交は重要だが、過激な言動にモノ言う関係は築けるのか

2024.05.07 Wedge ONLINE

 自民党の麻生太郎副総裁がトランプ米前大統領と会談した。秋の大統領選まで半年、現職バイデン大統領と、カムバックめざすトランプ氏が接戦を展開しているだけに、現政権に対して非礼になるなどと一部で批判がなされている。しかし、国際関係の現実を考えれば、選挙の展開をにらみながら、両陣営に接触するのは、むしろ重要なことだろう。

トランプ氏(左)と麻生氏の会談は世界にどのようなイメージを与えているのか(AP/アフロ)

 問題は、安全保障、貿易摩擦など個別案件の調整ではなく、トランプ氏の独自、“特異”な価値観と、同盟国、友人としてどのようにかかわっていくかだ。過激な言動に対して臆せずモノを言い、率直な忠告によって胸襟を開いた関係を構築し、普遍的な価値観にトランプ氏を引き戻すことができるか。

 それができずに、うわべだけの関係を続ければ、各国に対し、日本の政府、国民はトランプ氏と同じ主義主張を共有しているのかとの印象も与えかねない。国の品格すら問われるだろう。 

トランプからホワイトハウスの鍵贈る

 麻生氏―トランプ会談は4月23日(日本時間4月24日早朝)、ニューヨーク5番街、トランプタワーにある氏の自宅で1時間にわたって行われた。通訳を通さず英語でのやり取りだったという。

 トランプ氏が不倫口止め料をめぐって起訴された事件で裁判所に出廷した日だったにもかかわらず、記者団に対し「日本のことは好きだ。今日は裁判所でいい日を過ごしたよ」などと上機嫌だった。

 各メディアによると、「日米関係の重要さはゆるがない」ことで一致し、 麻生氏は岸田政権による防衛費の大幅増額などを説明、トランプ氏はこれを評価した。トランプ氏は麻生氏に、ホワイトハウスの図柄をあしらった木箱に入れた金色のカギをプレゼント、「岸田首相によろしく」と伝えた。

 麻生氏がトランプ氏と会談したのは、11月の選挙で氏が返り咲く可能性を考慮、関係を強化し、人脈拡大につなげたいとの思惑からだろう。

珍しくはない“選挙前”の外交

 日本政府は、「一議員の立場で行われたと承知している。関与しない活動にコメントするのは控える」(4月24日、林芳正官房長官の記者会見)とそっけない、冷ややかともいえる反応ぶりだった。

 しかし、元首相、自民党副総裁と大統領選有力候補者の会談に政府が関わりを持たないはずがない。官房長官発言はバイデン現政権に対する配慮からとみるべきだ。

 首相が4月に国賓待遇で訪米し、バイデン大統領との会談、議会演説を通じて同盟の強化をうたいあげた直後だけに、先方が苦々しく受け止める向きもないわけではないだろう。しかしこうしたことは外交関係では必ずしも珍しいことではない。

 1993(平成5)年、政治改革をめぐって宮沢喜一内閣(当時)に対する不信任決議案が可決、衆院解散・総選挙が行われた際、主要7カ国(G7)首脳会議出席のために来日したクリントン米大統領は米大使館で開いたパーティーに新進党の羽田孜党首(当時)、日本新党の細川護熙代表(同)らを招待した。

 大統領は、「日本の政治システムも変わらなければならない」などと、自民党敗北を見越したような内政干渉発言をして日本側の反発を買った。この時の選挙では自民党が敗れ、細川氏を首相とする非自民連連立政権が登場しているから、クリントン大統領の判断の正しさが証明された格好となった。

 投票前と後という違いはあるにせよ、2016年の大統領選で、トランプ氏がヒラリー・クリントン元国務長官を破った直後、安倍晋三首相(当時)は、各国首脳のトップを切ってニューヨークにトランプ氏を訪問、意見交換した。超大国とはいえ、就任前の次期大統領を現職首相がわざわざ訪ねるのは異例だった。