【習近平訪欧の目的はEUとNATOの分断】西側とアジアの自由主義勢力がやっておくべき対抗策とは

2024.05.27 Wedge ONLINE

 2024年5月6日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、「習近平は欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)の分断を模索」と題するギデオン・ラックマン同紙外交コメンテーターによる論説を掲げ、習近平の訪欧の目的と限界について論じている。

中国の習近平国家主席(代表撮影/ロイター/アフロ)

 約5年振りの習近平の訪欧の訪問先は、フランス、セルビア、ハンガリーである。この選択は、戦略的・経済的にNATOとEUの団結を崩したい中国にとっては完璧である。

 欧州は米国から戦略的に独立すべきとのフランスの主張は、中国には魅力的だ。また、マクロン大統領が昨年の訪中の帰路に、欧州は台湾を防衛する利益はないと述べ、その後、NATOの東京事務所開設にマクロンが反対したことにも中国は感謝している。

 NATO諸国をアジアから締め出し、米国がアジアと欧州の同盟国を連携させるのを止めるのは、中国の外交政策の鍵となる目標だ。ただ、中国はマクロンを過大評価している。彼は最近は対露強硬で、フランスがNATOや米国と距離を置くには現実的限界がある。

 セルビア訪問は、コソボ戦争時のNATOによる駐セルビア中国大使館爆撃事件25周年に呼応し、NATOは攻撃的で危険な組織だとの主張を可能にする。習の反NATO発言は、ロシアが国境で戦争を行っている最中、欧州のNATO諸国の反感を買うだろう。

 ハンガリーのオルバンはNATO中、最も親露、親中だ。EUの各種対中非難決議を阻止し、中欧大学を追い出し復旦大学を招請した。

 最近訪中で同国外務大臣は、中国には電気自動車過剰生産能力があると言う考えを酷く批判した。ハンガリーには直接的利益がある。

 ある中国の電気自動車メーカーは、ハンガリーを生産拠点とする計画を持つ。電気自動車問題を巡る妥協で中国企業が欧州での生産を増やすことになればハンガリーは受益者だ。

 しかし、セルビアとハンガリー訪問で習は、他のほとんどの欧州諸国が彼の訪欧は友好訪問だと納得するのを困難にした。セルビアはEUとNATOの部外者で、ハンガリーは両方を内側から貶めており、両国共、親露国だ。習近平帰国直後のプーチン訪中は中国の真の意図への欧州の懸念を一層深める。

*   *   *

地力で勝る西側がすべきこと

 西側(自由民主主義諸国)がやるべきは、意味のある友人を増やすことだ。

 中露両国は、グローバル・サウスの「支持」を自慢するが、結局、一般的で心情的な支持を超えた意味のある協力相手は、中露夫々と北朝鮮、イラン以外には見当たらない。少し広げても新興5カ国(BRICS)メンバーの南アフリカ、ブラジル、インドだが、南アフリカを除けば、インドはクアッド(日米豪印)の一員でもあり、ブラジルもBRICSへの新規加盟国の選択に際し過度に反米にならないように一定のブレーキを掛けたようであり、同床異夢だろう。

 一方、西側には、主要7カ国(G7)に加え、アジアでは韓国、豪州、欧州では、EU/NATO加盟国がいる。NATOは、スウェーデンとフィンランドの加盟で、益々強力・広範になった。

 しょせん、活用できる「地力の総計」が、中露と比べ物にならない程大きい。もちろんその一方で、やるべきことは多い。

 第一に、内部分裂しないことだ。いかにあからさまに見えようが、習近平が既述の3カ国を訪問先に選んだのは、地力で劣り、相手の分断を図ることを優先せざるを得なかったからだろう。

 第二に、西側諸国相互の連携を強めることだ。米・欧・日本他のアジア自由主義勢力の3つの極の間で従来連携が最も弱かったのは、日本他のアジア自由主義勢力と欧州だが、近年大きな改善が見られる。