日本の存立危機事態に関する高市早苗首相の国会答弁を受けて、中国は SNSで口汚く非難したり、日本への渡航自粛等を要請したりしているが、日本の基本的立場は従来と変わっていない。中国は敢えて危機を演出し、高市首相の力を削ごうとしていると 、2025年11月17日付ウォールストリート・ジャーナルで、同コラムニストのウォルター・ラッセル・ミードが言っている。
中国の戦狼外交に新たな標的ができた。日本の高市首相を「ロバに頭を蹴られたのか」「こんな風にクソをまき散らすなら高市は代償を払わなければならなくなる」と中国国営中央テレビ関連のSNSは言っている。
また中国の在大阪総領事が「その汚い首は即刻斬ってやるしかない、覚悟はいいか」とSNSに投稿した。これはその後削除されたが、中国は観光客やビジネスマンに日本への渡航を避けるよう要請し、さらに日本が領有を主張する海域に沿岸警備隊の船を立て続けに送り込んだ。
高市氏の「罪」は、国会で立憲民主党の岡田克也議員が台湾や台湾周辺での中国の如何なる行動が日本にとって「存立危機事態か」と質問したのに対し、正直かつ率直に答えたことにある。15年に成立した国家安全保障法により「存立危機事態」は日本の武力による対応を引き起こす可能性がある。
高市氏の答弁は明快で、中国が武力で台湾を支配下に置こうとすることは、国の存立危機事態に該当する可能性があり、日本の部隊が米国等の同盟国を支援することは十分あり得るということだ。これまでの日本の総理ははっきり言わなかったが、日本の基本的立場は変わっていない。
中国の台湾攻撃は日本にとって大変な脅威になる。短期的には戦争で貿易は混乱し、日本の存続に不可欠な食料とエネルギーの輸入は途絶し、台湾にいる何万もの日本人は危険にさらされる。
中国の反応は必然だった。北京の観点からすれば、台湾は中国の州であり、中国がそれをどう扱おうと他国には干渉する権利はない。日本が中国本土と台湾間の紛争に介入するかもしれないと言ったら、中国は抗議せざるを得ない。同様に、米国が台湾に武器を売却したら、中国はその都度抗議する。
しかし、反応は必然だったとしても、危機は必然ではなかった。中国は形式的に抗議した後、2週間もしたらまた先に進むこともできた。ところが中国は敢えて大きな対立に変えようとした。
なぜか。2つのことが起きているようだ。第1に、中国共産党には弱い者いじめの伝統がある。中国はまず威嚇し脅し、そして可能な場合は力で強制しようとする。上手く行けば結構だし、駄目ならあまり対立的でないやり方に変えることができる。
第2に、中国は高市氏の力を削ぎたい。彼女はタカ派の安倍晋三元首相の後継者で、公明党が連立から離脱したため、穏健なタカ派の小政党と連立を組んだ。中国は、高市氏は日本の軍事態勢を強化するだろうと懸念している。共同通信は、高市政権は日本が続けてきた領土内への核持ち込み禁止の終了を検討していると示唆した。
中国は世界史上最速で核武装を進め、中国にとっては核を持たない弱い隣国が望ましい。中国は高市氏の発言に対して怒れば、彼女の政敵は活気づくだろうと期待している。
日本の多くの企業は重要部品を中国の工場に依存し、また別の企業は中国市場へのアクセスに依存し、自民党の多くの議員はこうした企業と密接な関係にある。また、多くの議員が日本史上初の女性総理に懐疑的だ。
中国の経済的圧力は、高市氏に対し裏で強いメッセージを送るよう自民党の重鎮たちを説得するかもしれない。高市氏が、鉄の女サッチャー同様、タフで機略に優れていることを期待したい。