職場で仕事をするとはどういうことなのか、あらためて働く人一人ひとりがしっかり自覚するよう迫る本である。
筆者は昭和生まれで平成の初めに社会人になった者であり、職場はある意味「絶対服従の場」であった。上司から「〇〇をやっておいて」と言われた仕事は、内心気の進まないものであっても「はい、わかりました」と二つ返事で受けて必死にやり、体調が悪いなどよほどのことが無い限り「できません」などとは決して言えなかった。実際、自分の周囲にもそんな同僚はいなかったように記憶する。
その後、時が経つ中で少しずつ状況が変わってきたような印象があった。自分が指示を出す側になって何となくわかってきたのだが、何か仕事を依頼しても「えー……」とやりがたらない反応を示す人が増えてきたように感じたのだ。だがその時は「仕事だからやって!」とまだ自然に押し切ることができた。
そして今、指示を出すやいなや「できません」と言われる上司が多くなっているという。仕事の分野がまったく違っていたり、類似していてもほとんど知見がなさそうだったりする人には、そもそも最初から仕事を頼まない。そうでなく、できると判断した人間に頼んでいるにもかかわらず、指示するそばから「できません」などと言われたら、頼んだ側の上司が困惑することは想像に難くない。本書ではそうした例が多く紹介されている。
「職場の心理学者」として活動する著者は信じられない例を以下のように記す。
別の例ではこうした場面もある。
筆者の目からしてもいずれも信じられないが、実際に起こっている状況だという。上司の指示は業務上の指示であり、それに従えないというのであれば、業務命令違反にあたる可能性もあるだろう。こうしたケースは、組織のガバナンス的にも大きな問題であるが、逆に考えると若い人が簡単に「できません」と言ってしまえる時代になってきたということでもある。
さらに、「自分にはできませんという権利がある」と考えているかのような一部の若い人の風潮についても驚きである。権利には相応の義務、例えば別の仕事でそれなりの結果を出すことが求められるはずだが、「あなたにそれは可能なのですか?」という突っ込みを入れてみたくなるような感覚になる。
「やりたい仕事しかしない」というのも近年のゆゆしき問題である。著者によると、「そんなことをしたくて、この会社に来たんじゃありません」というのが典型的なセリフだそうだが、これもいかにもありそうなシチュエーションである。採用面接で何をやりたいかを聞かれて入社してきている社員がいることについて著者はこう記す。
本書は、こうした発言が出てくる背景には、学校でのキャリア教育の中で「好きなこと探し」が盛んに行われていることの弊害ではないかと指摘する。著者の視点は鋭く、例えば企業の入社面接に向けた願書(エントリーシート)などを書くにあたっても「好きなこと探し」の意識が刷り込まれ過ぎているのかもしれない。一方で著者は、「やりたいことがわからない」と苦悩する学生がいることについても記す。