Z世代は、組織の建前や空疎なスローガンに敏感である。言っていることとやっていることが違えば、すぐに見抜く。だからこそ誠実という価値観は、彼らと信頼関係を築く土台になる。
三つ目は「作品性」。ここがスープストックトーキョーらしい。仕事を単なる作業で終わらせず、自分たちの手から生まれるものを「作品」として捉える。提供するスープも、店づくりも、接客の一言も、どこかに自分たちらしさや美意識が宿るように磨く。
Z世代は、自分の仕事に「自分の色」が乗ることを大切にする傾向がある。言われたことをこなすだけでは充実感を得にくいが、自分の工夫や感性が反映される仕事には強く没入する。作品性とは、仕事に誇りを宿すための言葉でもある。
四つ目は「主体性」。これは、上から言われる前に動くという意味だけではない。理念に照らして自分の頭で考え、判断し、行動することだ。
指示待ちを責めるのではなく、「自分で考えてよい」という余白を渡す。ここがなければ、どれだけ理念を語っても現場は硬直する。
Z世代にとって主体性は重要だが、それは放任を望んでいるという意味ではない。何を大切にすべきかが見え、その上で自分の判断が尊重される環境でこそ、主体性は育つ。
最後が「賞賛」である。これは成果主義の裏返しではない。誰かの工夫、努力、気配り、挑戦をちゃんと見つけて言葉にする文化のことだ。
Z世代は「承認欲求が強い」と雑に言われることがある。だが本当は、「見てもらえていないこと」に敏感なのである。自分の働きぶりが誰にも届いていないと感じる職場では、急速に心が離れる。
反対に、小さな努力や成長を見つけてもらえる場所では、大きな力を発揮する。賞賛とは甘やかしではない。組織が何を価値としているかを伝える、極めて重要な経営行為である。
ここで注目したいのは、同社が理念を「きれいごと」で終わらせていないことである。採用段階では、スキルや経験以上に理念への共感を重視し、パート・アルバイトを「パートナー」と呼ぶ。
育成段階では「世の中の体温をあげる接客とは何か」を自分の言葉で考えさせる。さらに年1回の成果発表会では、社員だけでなくパートナー自身が舞台に立ち、自分たちの実践を語る。
理念への共感を入口に据え、日々の仕事で表現させ、発表の場で誇りへと変えていく。この一連の設計こそ、「ジブンゴト化」の仕組みそのものだろう。
象徴的なのが、接客マニュアルを細かく縛るのではなく、「お客さまの体温をあげるには、どんな一言を添えるか」を各人に考えさせている点である。ここには、単なる標準化では届かない世界がある。
意味を理解し、自分の言葉に置き換え、自分の行動として差し出す。だから理念が神棚に上がらず、現場の温度として生きるのだ。
人手不足の時代に本当に求められるのは、人をただ埋めることではない。一人ひとりの内側から力を引き出す、こうした意味づけの経営なのである。
この五感を並べてみると、スープストックトーキョーが求めている人材像が見えてくる。低コストでも高い感度を持ち、誠実に向き合い、美意識を持って仕事を作品に高め、自分で考えて動き、仲間を賞賛できる人。これは単なる接客技術の話ではない。どんな組織であっても通用する、価値創造のための人材観である。そして、この人材観が評価や制度にまでつながっているところに、同社の強さがある。
スープストックトーキョーで人材開発を担ってきた江澤身和さんは「人事制度は“平均”ではなく“一人”の社員と向き合うものだ」と語っている。会社として求める人物像やスキルを言語化し、それを評価に落とし込むことで、「こう働いてほしい」と「どう評価するか」のずれを小さくしてきた。