さらに大会では、アメリカンフットボールのプロリーグNFL用の最新鋭ドームスタジアムと屋外スタジアムとの環境差も問題となる。酷暑や山火事による煙の影響を受ける会場がある一方、屋内会場では常に快適な環境でプレーできたため、競技条件に明確な差が生まれたことも公平性の観点から議論された。もっとも、前半と後半それぞれの中間に設けられた3分間のハイドレーションブレイクについては保守的な批判も多々ある一方で、競技面でのメリットも残している。
アメリカやメキシコの暑さの中で、この3分間は単なる給水時間ではなかった。医療スタッフが筋肉の状態や熱中症の兆候をその場で確認できる「定時メディカルチェック」として機能し、スポーツ医学の観点から大きな意味を持った。さらに監督にとっては、試合中盤でシステムや守備の立ち位置を修正できる貴重な時間となった。
近年のサッカーではハイインテンシティーと呼ばれる、スピーディーで激しいプレーが標準となっているが、今大会の過酷な環境で、欧州主要リーグのレギュラーシーズンのように90分間同じ強度を維持することは難しい。短時間でも身体をリセットできることで、試合終盤まで高い運動量を維持できたチームも少なくない。
またハイドレーションブレイクには従来の飲水タイムのような監督スタッフによる戦術的な指示の制限が無く、戦い方を修正したり、悪い流れを切ってリスタートできる効果もあった。90分を4つに区切るクオーター制のようになることで、競技としてのサッカーが変容したと言っても過言ではない。
今大会最大の改革だった48カ国制(従来は32カ国)も、大きな議論を呼んだ。これにより試合数は64試合から104試合へ増加し、グループステージの期間は1日4試合が行われるなど慌ただしい進行の中で、実力差の大きなカードも目立った。いわゆるワンサイドゲームも起こりやすく、3位の上位8カ国もラウンド32に進めることから、グループステージの緊張感が薄まってしまったという批判は多い。
一方で、この拡大がなければ見ることのできなかった物語も数多く生まれた。その象徴がアフリカ勢の躍進だった。
人口55万人に満たないカーボベルデは組織的な守備と鋭いカウンターでグループリーグを突破し、ラウンド32ではアルゼンチンを相手に壮絶な3-2の激闘を演じた。敗れはしたものの、小国が世界王者を本気で追い詰める姿は、多くのサポーターの心を動かした。
半世紀ぶりの出場(当時はザイール)となったコンゴ共和国も、ラウンド32ではイングランドをあと一歩まで追い詰めるなど、アフリカ勢10カ国中9カ国が決勝トーナメント進出という歴史的な成果を残した。ドイツ公共放送のドイチェ・ヴェレは「アフリカと世界トップとの差はほぼ消えた」と評価している。
48カ国制は確かに競技レベルのばらつきを生んだ。しかし、それ以上に世界中へ夢を広げる舞台となったことも否定できない。これまで世界大会へ出場することさえ難しかった国々が、世界最高峰の舞台で存在感を示したことは、W杯という大会の本質を改めて思い出させた。
今大会ではもう一つ、印象的なテーマがあった。ベテラン選手たちの存在感である。41歳で6度目のW杯となるポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウド、クロアチアの司令塔ルカ・モドリッチら、サッカー界を牽引してきたベテランが大会を彩った。その象徴がアルゼンチンのリオネル・メッシだった。
6大会連続のW杯出場を果たしたメッシは、アルジェリア戦でハットトリックを記録。準決勝イングランド戦では見事な2アシストでアルゼンチンを決勝へ導いた。