NYマムダニ市政の「民主社会主義」と日本型「大きな政府」の危うさとは何か?

2026.09.09 Wedge ONLINE

 ニューヨーク市では、2026年1月に就任したゾーラン・マムダニ市長が「民主社会主義」を掲げ、住宅、保育、交通への政府の関与を広げている。一方、日本では、社会主義を掲げる政権ではないにもかかわらず、物価が上がれば給付金を配り、電気、ガス、ガソリンの価格を補助し、教育や保育の無償化を広げている。

「民主社会主義」の政策を進めるニューヨークのマムダニ市長( REX/アフロ )

 ニューヨークでは、民主社会主義という理念が政策を生んでいる。日本では、個別の応急措置の積み重ねが給付金や補助金への依存を強める「大きな政府」を形づくっている。

 前者では、政府と市場のどちらに何を任せるのかが選挙の争点になる。後者では、大きな政府を目指すとは明言されず、一つひとつの生活支援策として進むため、政府をどこまで大きくするのかが争点になりにくい。ここに、日本の給付金・補助金行政の見えにくい危うさがある。

 本稿でいう「大きな政府」とは、単に政府支出の規模が大きい政府ではない。市場や市民社会が自ら調整すべき領域へ政府が入り込み、価格を抑え、費用を肩代わりし、誰に何を配るかまで決める政府である。

 もちろん、安全保障や警察、司法、基礎的な社会保障など、政府でなければ十分に担えない仕事はある。問題は、政府の役割が市場の不足を補う範囲を超え、日常生活の価格や市民の選択を恒常的に管理することである。

マムダニ市政が実際に始めたこと

 マムダニ市政を、公約だけで評価するのは適切ではない。就任後に実際に何を始めたのかを見る必要がある。

 象徴的なのが家賃凍結である。26年6月25日、ニューヨーク市の家賃ガイドライン委員会は、家賃安定化措置の対象となる約100万戸について、1年契約と2年契約の家賃を凍結した。2年契約まで凍結するのは同委員会の歴史上初めてであり、約240万人に影響する。

 委員会は形式上独立しているが、マムダニ市長は委員9人のうち6人を任命している。選挙時に掲げた家賃凍結は、この委員会の決定によって実現した。

 もっとも、マムダニ市政は価格を抑えるだけではない。今後10年間で、アフォーダブル住宅を20万戸新設し、さらに20万戸を保全する計画を発表し、許認可にかかる期間の短縮も打ち出している。

 市の発表によれば、発足後の26年上半期には、新設と保全を合わせて1万2491戸に市が資金を付けた。ただし、前市政から準備されていた案件も含まれ得るため、すべてをマムダニ氏だけの成果とみなすことはできない。

 保育では、ニューヨーク州と共同で2歳児向け無償保育の初年度事業を立ち上げ、2000人を超える子どもに利用枠を提示した。これに対して5700件を超える応募があった。保育補助を受ける約2万2000世帯についても、26年9月から市が自己負担分を肩代わりする方針である。

 選挙時に掲げたバスの全面無料化は、まだ実現していない。先行しているのは、専用レーンや停留所などを改善し、バスを高速化する計画である。

(Brian Logan/gettyimages)

 したがって、マムダニ市政を単なる「ばらまき社会主義」と片づけるべきではない。住宅供給や交通改善も進めようとしている。問題は、その一方で、政府が価格を直接抑え、生活に必要なサービスを広く公費で負担することが、市政の主要な政策に位置づけられている点である。

「無料」でも費用は消えない

 家賃を凍結すれば、入居者の負担はその場では増えない。保育の自己負担をゼロにすれば、子育て世帯は助かる。仮にバスを全面無料にすれば、利用者の負担も軽くなる。しかし、支払う人が変わるだけで、費用そのものは消えない。

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