米軍内部の大きな混乱、いったい何が起きているのか?陸軍長官の辞任、相次ぐ高官の更迭、イラン情勢や中間選挙に影響も…

2026.09.10 Wedge ONLINE

 8月31日『ウォールストリートジャーナル』は、米陸軍の制服組トップであるドリスコル陸軍長官がトランプ大統領に辞表を提出したと報じた。その背景には、ヘグセス国防長官との確執があったとみられている。

ヘグセス国防長官(左)とドリスコル陸軍長官の間には何があったのか(dvids)

 ドリスコルはイラク戦争での軍務経験を経て、早くに退役して法科大学院に進み、投資銀行やベンチャーキャピタルを経て、38歳という歴史上最年少で陸軍長官になった人物である。無人機の導入を進めたり、兵器の調達方法を改革したりするなど、陸軍の改革を進め、世間からは「童顔の改革派」、大統領からは「ドローン男」と呼ばれもした。これからドローンやAIなどを中心とした新しい形の戦争になっていく中で期待されていた人物であった。

 新しい形の戦争への変革に対してはヘグセスも同じ方を向いていたはずである。そのような中、なぜドリスコルは辞表を提出したのだろうか。

自分の考えに逆らうものは許さない

 そもそも国防長官と陸軍長官の関係は微妙である。陸軍長官は陸軍の文官トップとして陸軍の組織や予算、そして人事などを統括する。しかし、国防長官はその上に位置する全軍を統括する文官ポストである。

 第二次世界大戦において、陸軍と海軍の風通しが悪かったという反省から、軍全体をまとめるものとして国防総省が創設され、そのトップとして国防長官というポストがつくられたのである。運用のされ方は、その時の長官次第であり、国防長官が大きく介入する場合、実質的に陸軍長官の必要性は大きく下がることになる。

 ヘグセスのやり方は、すべて自分の考えを押し通し、それに逆らうものはどのような高官でも許さないというものであった。そのため、様々な摩擦が生じたが、ドリスコルに関しても、ヘグセスはその考えや決定を認めないどころか、一旦なされたドリスコルによる決定を覆すこともたびたびであった。

 中でも大きな影響を与えたのが、4月の陸軍制服組トップのジョージ陸軍参謀総長の事実上の解任であったとされる。この解任には様々の要因が指摘されているが、その一つはジョージが多様性を推進していたことにあるとされる。多様性・公平性・包摂性(DEI)を唾棄するヘグセスには許せなかったのであろう。

 ジョージとドリスコルとは関係が近く、2人は強固な信頼関係で結ばれていたため、ジョージの解任は、ドリスコルが辞任に傾くのに大きな役割を果たしたと考えられている。ジョージの解任当初はドリスコルも、結局のところ大統領とヘグセスが、自分たちの望む人材を選ぶのでありそれが文民統制だ、と下院歳出委員会国防小委員会で証言して、政権の立場を擁護したが、そのころからいずれ衝突は避けられなくなることは見えていた。

陸軍だけではない、高官が次々と更迭

 今回のドリスコルの辞任で、米軍の中でも最大規模の陸軍において、就任時に議会上院の承認を得た、文官と制服組の両方のトップが同時に不在となる異常事態が生じている。

 ヘグセスによる解任の嵐に巻き込まれているのは陸軍だけではない。陸軍参謀総長が解任された4月に、フィラン海軍長官も退任に追い込まれている。そもそもヘグセスは、実際の長官の職務に就く前から、「新しい国防長官の下では、まず統合参謀本部議長を解任し、DEIや過激なリベラルに関与した将軍たちは全員排除しなければならない」と豪語していた。

トランプ政権に退任に追い込まれたフィラン海軍長官(dvidshub)

 ヘグセスは自分の言葉を実行に移し、まずアフリカ系の統合参謀本部議長を解任し、女性の海軍作戦部長や沿岸警備隊司令官も解任させた。また、より自由で攻撃的な交戦規定を実現するために、国際法などを厳格に適用しようとする軍の法務官も次々と解任していった。第二次トランプ政権下において、将官レベルだけでも、20人を超す人数が、解任されたり退役に追い込まれたりている。

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