だがEUは24年の時点では、これらの追加関税を中国製PHEVには課さなかった。このため中国企業は、昨年以来、欧州に輸出するPHEVの数を大幅に増やしている。
例えば24年にBYDがドイツで販売した車の数は2891台にすぎなかったが、25年には2万3306台と8.1倍に増えた。その理由は、BYDがEUによる追加関税がかけられていないPHEVのドイツへの輸出量を増やしたからだ。
さらにBYDは、ドイツでのディーラーの数を増やし、マーケティングに力を入れている。最近筆者が住んでいるミュンヘンでも、BYDの車を見ることが増えて来た。
BYDの車の外観は、欧州車に似ている。その理由はBYDがアウディ、ランボルギーニ、アルファロメオのチーフデザイナーだったヴォルフガング・エッガー(ドイツ人)を16年にスカウトし、グローバル・デザイン・ディレクターに任命したからだ。中国はドイツとの間で領土問題などの政治的トラブルを抱えていないので、ドイツ人の中国アレルギーは日本人に比べると少ない。
ちなみに中国のリープモーターも25年のドイツでの販売台数を前年比で41倍、シャオペンも25年のドイツでの販売台数を前年比で7.6倍に増やした。欧州での中国車の販売台数の絶対数はまだ少ない。しかしこれだけ急激にEU域内での販売台数を増やしている国は、中国以外にない。さらに中国メーカーはEUの追加関税を免れるために、ハンガリーやポーランド、スペインなどEU域内に次々と工場を建設している。
25年9月にミュンヘンで開かれた自動車見本市IAAモビリティでは、中国のOEMと部品メーカー116社が出展した。出展企業の数では、中国が最も多かった。
日本からは部品メーカーが数社出展したが、日本のOEMの姿はなかった。BYDは目立つ場所に大きなスタンドを設置して多数の車を展示し、欧州市場への関心の強さを見せつけた。
EUが強硬措置を検討する背景には、欧州の自動車産業の苦境がある。EU域内で最大の自動車メーカーVWグループの25年の営業利益は、前年比で53.5%減って89億ユーロ(1兆6020億円)となった。営業利益は前年の5.9%から2.8%に激減した。
このためVWグループは9月3日、「30年までの従業員の削減数を、これまで決定していた5万人に加えて、さらに5万人減らす」と発表した。つまりVWグループは世界に約66万人いる従業員を合計10万人削減する。その半分はドイツの社員だ。
これまでVWグループが国内工場を閉鎖したことは一度もない、だが同社の経営陣は、ハノーバー、エムデン、ツヴィッカウ(以上VW自動車部門)、ネッカースウルム(アウディ)の4工場については、「31年以降、採算を取れる用途がない」として、閉鎖することを視野に入れている。
やはり採算が悪化しているオズナブリュック工場については、イスラエルの投資会社に売却して、将来イスラエルの兵器メーカー・ラファエルがドイツなど欧州諸国向けの対空ミサイルシステムを生産することが決まった。
業績が悪化しているのはVWグループだけではない。BMWの25年の営業利益は前年比で11.5%、メルセデスベンツの25年の営業利益も前年比で57.2%減少した。BMWは管理部門を中心とした約8000人の人員削減、メルセデスベンツも給料据え置きで労働時間を延長することなどを検討している。
さらに自動車部品大手ボッシュは従業員2万2000人、ZFも1万4000人を削減する方針を明らかにしている。