水害の原因はテレビ画面の外にある!千葉・印旛沼の決壊が与えた〝教訓〟災害対策は「点」でなく「流域」を

2026.10.01 Wedge ONLINE

 豪雨災害が起きると、テレビには冠水した道路、浸水した住宅、壊れた堤防が映し出される。カメラが捉えるのは、被害が現れた場所だ。水がどこから集まり、どの道筋を通って、そこへ到達したのかまで映ることは少ない。

台風25号による大雨で堤防が決壊し、冠水した印旛沼周辺(時事通信)

 千葉県を襲った豪雨からの復旧が進まない中、台風25号が再び大量の雨をもたらした。9月22日には、北印旛沼、農業排水路の角川、長門川の3地区4カ所で堤防の決壊が確認され、農地や道路などの冠水が長期化した。

 印旛沼を満たしたのは、沼の上に降った雨だけではない。広い流域に降った雨が、大小の川や水路を通って集まってきた。決壊地点の復旧と強化を進めると同時に、水がそこへ至った道筋を調べる必要がある。被害が起きた場所と、最も効果的な対策を行う場所は、同じとは限らない。

湖の外から水が来る

 印旛沼の湖面積は約11.55平方キロメートル。これに対し、雨水が印旛沼へ集まる流域の面積は約541平方キロメートルに及ぶ。流域に降った雨の一部は地中にしみ込み、森林や農地などにとどまる。そこにとどまらなかった水は、大小の川や水路を通って印旛沼へ向かう。

 印旛沼は、湖面に降った雨だけを受ける「水たまり」ではない。広い範囲に降った雨が集まる場所なのである。

 水資源機構は、台風が近づく前の9月17日から予備排水を行った。それでも印旛沼の平均水位は、22日午前4時にY.P.4.93メートルに達した。計画最高水位のY.P.4.25メートルを68センチ上回った。Y.P.は東京湾の平均海面を基準とする高さで、水深ではない。

 印旛沼の水は、利根川側と東京湾側へ排出される。しかし、流れ込む水の量が、外へ出せる水の量を上回れば、その差が沼にたまり、水位は上がる。

 洪水を考える時は、水の総量だけでなく、時間にも目を向ける必要がある。いつ、どれだけの水が流れ込んだのか。いつ、どれだけ外へ出せたのか。流入と排水のピークがいつまで続き、どのように重なったのかを考えなければならない。

 もちろん個々の堤防が決壊した原因は、今後の調査で明らかにする必要がある。ただ、カメラに映るのは、決壊した堤防だ。画面の外には、そこへ水を運んだ流域が広がっている。

「集まる」と「出ていかない」

 流域は、利根川や荒川のような大きな川にだけあるのではない。校庭に雨が降れば、最初は小さな水たまりができる。雨が続くと、水たまり同士がつながり、低い方向へ流れ始める。住宅地でも、道路のわずかな高低差によって、水の流れる方向と集まる場所が決まる。

 こうした小さな「水の集まる範囲」が集まり、支流の流域になる。さらに支流が集まって、大きな川や湖沼の流域になる。大小の流域が、入れ子のようにつながっているのである。

 小さな川や谷では、雨が降ってから水が集まるまでの時間が短い。局地的な豪雨が降れば、短時間で水位が上がる。

 低い土地を流れる川や水路では、もう一つの問題が起きる。水の流れ込む先にある大きな川や湖沼の水位が高くなると、水を自然に排出できなくなるのだ。

 逆流を防ぐために水門を閉じれば、その地域に降った雨はポンプで外へ出さなければならない。流れ込む水の量がポンプの能力を上回れば、行き場を失った水が住宅地や道路にあふれる。

 「短時間で水が集まる」。そこに「集まった水が出ていかない」が重なると、被害は急速に広がる。これは印旛沼だけの問題ではない。都市の中小河川や低地でも起きる。

対策の前に、流域を調べる

 慶應義塾大学の岸由二名誉教授は、行政区域ではなく、水が集まる地形を単位に地域を見る「流域思考」を提唱してきた。水害対策に当てはめれば、被害が起きた場所から、水が来た道を上流へたどる考え方である。