上記の3つの制度に関する改革の内、健康保険制度の改革法案は7月10日に連邦議会で可決されており、公的年金保険制度、介護費用保険制度については現在連邦議会で審議が行われている。特に年金改革の一部の内容については、国民および連立政権のパートナーであるSPDの反対が強い。
たとえばドイツでは、45年間働いて年金保険料を納めれば、正規の年金支給開始年齢(現在は67歳)に達する前に、年金を満額受け取れる制度がある。メルツ氏はこの制度を廃止する方針だが、特に旧西ドイツに比べて手取り所得が少ない旧東ドイツでは、この制度の廃止に対する抵抗が根強い。このためメルツ氏はこの秋の地方選挙でダブル敗戦を喫しても、首相の職務を途中で投げ出すわけにはいかないのだ。
現在ドイツの政界で、メルツ氏の後継者として最重視されているのは、ノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州のヘンドリック・ヴュスト首相だ。同州はドイツで最も人口が多い重要な州であり、同氏のCDU内部での影響力は大きい。ヴュスト氏は51歳で、メルツ氏(70歳)よりも19歳若く、CDUの再出発・刷新のイメージを与えることができる。
ただし27年4月25日にはNRW州で州議会選挙がある。CDUでは、「我々はまず、ヴュスト氏の指揮の下、NRW州議会選挙で勝つことを目指すべきだ。メルツ首相交代問題は、この選挙が終わるまで表立って議論するべきではない」という意見が有力だ。いずれにしても、求心力を失ったメルツ首相が29年までの任期を全うする可能性は低い。
したがってドイツは当分の間、レームダック(足の悪いアヒル=市民からの支持を失った、影響力のない政治家の意味)となった首相によって、率いられることになる。ドイツの経済界では、「これまでわが国は欧州の中でも政治的安定性が高い国と見られてきたが、旧東ドイツ2州の選挙以降、不安定性が増した」という声が聞かれる。この国が政治的、経済的な安定性を回復できるのはいつになるだろうか。