「他社もやっている」は経営判断か?ビール4社カルテル疑惑から考える業界のしがらみ…企業が本当に見るべきものは

2026.10.14 Wedge ONLINE

 ヤマト運輸とアイリスオーヤマに共通するのは、競合を無視したことではない。判断の起点を「同業他社」ではなく「顧客」に置いたことである。そういえば、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長の言葉にも「業界は過去、顧客は未来」というものがある。

横並びからイノベーションは生まれにくい

 ここで、「他社と違えばよい」と受け取ってはいけない。違うこと自体には価値はない。顧客に支持されない違いは、単なる独りよがりである。

 大切なのは、何を判断基準の最上位に置くかだ。同業他社を見ていると、問いは「他社は何をしているか」になりやすい。顧客を見れば、「何に困っているか」「まだ満たされていないことは何か」に変わる。問いが変われば、答えも変わる。

 イノベーションとは、新技術の発明だけではない。宅急便のように既存の輸送を組み替えて、新しい利便をつくることもそうだ。メーカーベンダーのように流通と情報の流れを組み替え、生活者との距離を縮めることもそうである。

 横並びが常態化すると、企業は「自社の答えをつくる」より、「他社と同じ答えであることを確認する」ことに安心を求めやすくなる。それでは、まだ誰も満たしていない需要にはたどり着きにくい。

 イノベーションに必要なのは、奇をてらうことではない。顧客を起点に、自社なりの仮説を立て、周囲と違っても試してみることである。

経営とは自分の答えを出すこと

 では、業界のしがらみからどう抜け出せばよいのか。

 まず、判断の主語を「業界」から「自社」に戻すことだ。「業界ではこうだ」ではなく、「当社の顧客はどうか」「当社のコストはどうか」「当社は何を価値として提供するのか」と問い直す。

 次に、競合情報より顧客情報を上位に置く。競合を見ることは必要である。しかし、最後の判断を競合に預けてはいけない。「昔から」「普通は」「みんなが」という言葉が出たら、「なぜ?」と問い直す。説明できない慣行には変革の余地がある。

 経営会議での問いも変えたい。「他社はどうしているか?」から始めれば、思考は比較の範囲に閉じ込められる。「お客様は何に困っているか?」「当社だから解ける問題は何か?」「この慣行は誰のためにあるのか?」から始めれば、違う景色が見えてくる。

 そして最後に、一社だけ違う決断をする怖さを経営者が引き受けることである。失敗するかもしれない。周囲から理解されないかもしれない。それでも、自社で考え、自社で決め、その結果に責任を持つ。それが経営者の仕事である。

 今回のビール4社をめぐる調査がどのような結論に至るかは、まだわからない。だから、この事件の結論を先取りして教訓を語るべきではない。しかし、経営の原則として確かなことが一つある。「他社もやっている」は、参考情報にはなっても、経営判断そのものにはならないということだ。

 「他社を見るな」ではない。「他社に答えを求めるな」ということだ。競争とは、それぞれの企業が異なる答えを市場に出し、顧客に選んでもらうことである。その違いから、新しい価値が生まれる。

 経営とは、横を見ることではない。顧客を見て、自分の答えを出すことである。

「他社を見るな」ではない
他社に答えを求めるな
顧客を見て自社で考え
自分の答えを決めよ