法科大学院在学中に教授に北京在住の息子を紹介されたこと、結婚することになり、卒業するとすぐに北京へ向かわないといけなかったこと、北京では法律関係の仕事をしたことなど弁明を続けた。また、米国帰国後司法試験を受けなかった理由を聞かれると、帰国後すぐに子供が生まれ、その後、計4人の子供が生まれて子育てに追われたことなどを語った。
司会もコメンテーターもザカリアに優しく、インタビューは常に温かい雰囲気に包まれていた。この番組だけ見ていると、4人も子供を育てつつ頑張って仕事をしている女性として見えた。
ところが、その後出演したFOX系の番組ではそうはいかなかった。その日の夜にはトランプ政権に好意的なFOXニュースの番組ハニティ・ショーに出演した。
ホストのショーン・ハニティは、トランプと極めて近い関係で、政治的顧問と言われるほどである。ザカリアはリアル・アメリカズ・ボイスと同じ扱いを期待していただろう。ところがハニティは、「司法試験に受かってないのは本当か」と切り出し、その後もしつこく司法試験について「2回目も受けたのか」と彼女が答えるまで厳しく追及した。
彼女は、北京に行ったことなど自分の人生についてリアル・アメリカズ・ボイスの時と同様に語った。しかし、反応は全く異なっていた。同情的な雰囲気はまったくなく、弁護士と法律家の違いについて長々と説明するつもりか、などとハニティから厳しい質問が浴びせかけられた。
なぜ初めての記者会見で3人からしか質問を受け付けなかったのかなどとハニティが質問する中、終わりの音楽が流れだし、ザカリアがまごまごしているうちに、「新しい職での幸運を祈ります。本日は出演ありがとう」と言って、ハニティは番組を打ち切ってしまった。最後の部分ではイライラするハニティがペンをカチカチする音をマイクが拾っていた。
翌朝の番組FOX & FRIENDSにもザカリアには出演の機会が与えられた。彼女は一生懸命「アメリカは大統領を愛していて大統領は情熱に満ちている」と大統領を称賛したが、コメンテーターは「司法試験に受かっていなかったことを大統領に話しておくべきだった」など冷たい対応に終始した。
この二つのFOXの番組がザカリアを冷たく扱っていたことに、他のメディアでは、FOXで共和党関係者が酷評されるのを見たのは久しぶりとコメントするほどであった。CNNのコメンテーターは、興奮気味に「FOXが彼女を葬った」と語った。いつもは政権寄りのFOXの対応に、インフルエンサーの中には、トランプとハニティが事前に話を合わせて、トランプがザカリアを切りやすくした、という陰謀論まで飛び出した。
翌16日に大統領はヘリに乗る直前に記者団の質問に答えて、ザカリアは、「メディアからひどい扱いを受けた」と同情しつつ、報道官という仕事について自分の適性について考えるように告げた、と明かした。事実上の更迭であった。
自分自身を最強の広報担当者と考えるトランプは、広報官の更迭やその後のポストの空席をものともせず、全米を飛び回って選挙活動を行っている。中間選挙直前の重要なこの時期、広報官のポストが空席のままでも気にならないようである。
トランプは、敵対者の発言をフェイクと批判して、フェイクとリアルの境界線を曖昧にしてきた。空席ポストの後任を選ぶ時、トランプは人物の中身でなく、テレビなどを見て決めている、と言う関係者もある。そのため登用されるのは、トランプ好みの外見の人ばかりで、十分にその中身は精査されないことになる。
また、選考過程で経歴よりも何よりも重視されるのは、過去においてトランプの悪口を言っていないかであるとされる。適任の候補者を見つけ出すのが難しくなるのは仕方ないだろう。
そのような中、ついに経歴すらフェイクな人物が登場したということなのだろうか。ここまで手駒がないと見ることもでき、末期症状であると言えるかもしれない。
第2期トランプ政権の初代広報官として20歳代のキャロライン・レビットが登場した時、記者たちは、若すぎて経験不足であるとか、記者に対して敵対的であるとか言って容赦なく批判した。ところがザカリアの登場によって、今やそのレビットを懐かしむ声がリベラル系のメディアも含めて急速に強まっている。
想像を超えて進んで行くトランプ政権は、これからも人々の想像を超えた展開を繰り出すだろう。いくらでも状況は今よりも悪く成り得るのである。
しかも、これから2期目の後半へと向かっていっている。現実の斜め上を行く次なる展開を注視したい。