「友人を切り捨てろ」が一般人には危険なワケ

コミュニケーションツールが発達した時代にもかかわらず、なぜ「孤独」を感じる人が増えているのだろうか(写真:jessie/PIXTA)

2020年の幕が開けた。いきなり国際情勢がきな臭いことになっているうえに、気候変動問題や相次ぐ災害など、なんだか年始早々、不穏な様相だ。そんな課題山積の地球社会であるが、もう1つ、世界で大騒ぎされている問題がある。それは「孤独」だ。

大規模の調査をもとに自動車会社のフォード社がとりまとめ、2019年12月に発表したトレンド予測レポート「2020トレンド」において、最重要テーマとして挙げられたのが、ほかならぬ「孤独」(loneliness)だった。

孤独はグローバルの疫病

14カ国1万3000人への調査では、世界の成人の45%が、「定期的に(少なくとも週に1回)孤独を感じている」と回答。日本は調査対象国にはなっていないが、国別ではインドで71%と最も高く、中東(56%)、ブラジル(54%)、中国(52%)、カナダ(42%)、スペイン(40%)、メキシコ、イギリス(39%)、アメリカ(36%)と続いた。

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年代別では、とくに4~24歳の若者層(ジェネレーションX)が62%と最も高く、25~39歳(ミレニアルズ)の55%とあわせて高い水準だった。

レポートは、日本での「ひきこもり」の事例などを紹介しながら、健康や精神への影響に言及し、「孤独はグローバルの疫病である」と結論づけた。イギリスで担当大臣が設けられるなど、海外では「孤独」は大きな課題として捉えられており、報道でこの話題を見ない日はない。

レポートから改めて浮かび上がったのは、ソーシャルメディアなどを通じて、コミュニケーションをとりやすくなっているはずの現代社会で、人と人の間の壁が厚く高くなっていることだ。20代、30代の過半数が「友達を作るのはデートするより難しい」と回答しており、多くの人が「仲間」や「友人」を作ることのハードルが上がっていると感じていることが明らかになった。

「コミュニケーションのツールが発達した時代に、人とつながることが難しくなっている」という矛盾が生まれている。

先日、筆者は80代の父と電車に乗ったが、混雑した電車の中で、誰もがスマホに夢中で、席を譲ろうと声をかけてくれる人は誰もいなかった。こんなとき、席を立つのが面倒くさい、という人もいる一方で、席を譲ろうと思っても、「断られたらどうしよう」「年寄りではないとキレられたらどうしよう」「失礼に当たらないか」と思いを巡らせてしまうという人も少なくないだろう。

アメリカなどでは、高齢者や妊婦、子どもなどに対して、ほぼ脊髄反射的に席を譲る行為をよく見かけるが、そこで発生する小さな言葉のやり取りを負担に感じる人はあまりいないように見える。今の日本では、見知らぬ人とのちょっとした会話に苦手意識を覚え、「他人と話すことがストレス」「人と関わるのが面倒くさい」、そんな「人間恐怖症」の人が増殖しているような気がしてならない。

筆者は昨年末、沖縄を旅したが、何より驚いたのは、人々の気さくさと、路地裏のネコの人懐こさだった。集落の人に聞けば、どれも野良猫で、みんな餌をもらえるから、まったく警戒心を持たず、近づいてくるそうだ。

都会では出会うすべての他人が「敵」

最近は都心で、野良猫に出会うことはあまりないが、たいていはおびえて、人から逃げていく。息苦しい満員電車や雑踏でちょっと体が触れ合うだけで虫唾が走り、イライラするように、都会で人は、出会うすべての他人を「敵」と警戒するおびえたネコと化する。

「人の優しさ」に触れることが希少な空間で、恐怖心だけがむくむくと膨らむのだ。人々の孤独化は、「核家族化」「都市化」「過疎化」など、日本同様に進むコミュニティーの崩壊とともに、世界同時的に進行している。