環境のせいにする人は自分が見えていない

楠木建氏(左)と高森勇旗氏に、コロナ禍のように自分ではどうにもならない環境下に置かれたとき、どう対応すればいいのか伺いました
仕事やキャリアは誰もが順調にいくわけではない。優勝劣敗はつきもの。世の中はシビアだ。うまくいかないとき、そこにはどんな原因があるのか。環境のせいなのか、自分の能力のせいなのか、運の問題なのか。はたまた別の要因か。
一橋ビジネススクール教授の楠木建氏と、元プロ野球選手の高森勇旗氏が、「不運」と「不才」の受け止め方、「苦境」に陥ったときにどう構えるかについて話し合った。

世の中は「思いどおりにならない」もの

楠木 建(以下、楠木):これを話している時点では、コロナ騒動で依然として不自由な生活を強いられているわけですが、たまにはこういうことがあると、「世の中そんなに思いどおりにはならないものだ」という、当たり前だけど忘れがちな事実に改めて気づかされます。

コロナに限らず、考えてみれば仕事もキャリアも思いどおりにならないものですよね。そういうときにどう構えるか。高森さんは挫折をきっちり経験している。思いどおりにならないときの思考と行動という観点で話をする相手として最適じゃないかなと思いまして。

高森 勇旗(以下、高森):すてきなフリをありがとうございます(笑)。お相手に選んでいただき光栄です。思いどおりにならないことも、挫折も、確かに客観的に見ると、たくさん経験している人に見えるかもしれませんね。

楠木:「思いどおりにならない」を2つのタイプに分けて話をしたいと思います。

まずは「環境」。コロナがその典型ですが、思いどおりにならない環境に置かれたときにどうするか。自分の外にある「思いどおりにならない」ですね。

もう1つは、自分の中にある「能力」。仕事で成果を出すには能力が必要ですが、すぐに何でもできるようにはならない。そうしたときに自分とどう向き合うか。

これを読んでいる方の中には高森さんについて知らない方もいらっしゃるでしょうから、まずは自己紹介を兼ねて、どのように「思いどおりにならなかったか」ということについてお話しいただけますか?

高森:僕は2007年から2012年までの6年間、横浜ベイスターズ(現・DeNA)でプロ野球選手をやっていました。結果という結果はまったく出すことができず、6年でクビになりまして。その後、いろいろあって今は企業のコンサルティングと執筆活動をやっています。

思いどおりにならなかった、という観点で言うと、やはり入団6年で戦力外通告を受けたあたりがポイントでしょうか。

楠木:プロ野球をクビになる。あからさまな「挫折」ですよね。そういう、はっきりとした挫折っていうのを、僕は経験したことがないんですよ。なぜかというと、挑戦しないから。

高森:(爆笑)

楠木:「オレは人に裏切られたことがない。なぜなら人を信用したことがないからだ」みたいな、そういうヤツなんですよ。自慢じゃないですが、本当の意味での挑戦というのをしたことがない。

ところが、高森さんはすごい高い水準で挑戦と挫折を経験していますね。その渦中では、どんなことを思ったり感じたりするのですか?

高森:僕にとって、戦力外通告そのものは挫折でも何でもなかったのです。どちらかというと、前向きに受け入れられたというか。挫折体験そのものは、プロ4年目です。あのときは、人生で初めてと言っていいほど暗い日々でしたね。

あからさまな「挫折」

楠木:それはなぜですか?

高森 勇旗(たかもり ゆうき)/1988年生まれ。富山県高岡市出身。中京高校から2006年横浜ベイスターズに高校生ドラフト4位で入団。田中将大、坂本勇人、梶谷隆幸らと同学年。2012年戦力外通告を受けて引退。ライター、アナリスト、マネジメントコーチなど引退後の仕事は多岐にわたる