阪急阪神百貨店が「劇場型」ECを標榜する狙い

2つ目は、心の豊かさに対する意識の高まりだ。テレワークが促進され、(移動など)無駄な時間が減って今までより時間に余裕が持てた分、消費者はいろんなことに考えを巡らせただろう。

家族とは何か、何のために働くのか、社会の役に立つというのはどういうことか、そういうことを考えたのではないか。働き方改革やSDGs(持続可能な開発目標)などに対する意識が一段と高まったように思う。

3つ目は、本格的なオンライン社会への移行だ。いずれそうなると見られていたが、移行スピードが3~4年ほど一気に早まったと、強く感じている。

デジタル化をスピードアップさせる

――エイチ・ツー・オーはこれまで「超本店構想」を打ち出し、阪急と阪神百貨店の両本店を軸にしたリアル店舗を重視する戦略でした。今後はデジタルシフトを進めるのですか?

オンライン社会への移行が一気に進むとなれば、当社も明らかにそこへシフトチェンジしていかなければならないと、強く思っている。

リアル店舗の魅力があってこそのオンライン展開だと考えており、店頭のほうは少し手を抜くということではない。阪急うめだ本店も阪神梅田本店も店頭でないと体験できない魅力の開発、コンテンツの開発には引き続き注力していく必要がある。

一方で、デジタル分野は比較的弱かったので、これからはアクセルを踏んでいく。われわれは「OMO(Online Merges with Offline)」構想を掲げ、オンラインとオフラインの融合を(さらなる成長への)社内の合言葉にしてきた。

エイチ・ツー・オーの社長就任前、3月中旬ぐらいに社内会議でこれを打ち出した。費用もかかるので段階的に進めるつもりだったが、コロナで状況が変わり、スピードアップして進めていかなあかん、となった。

「発見する喜び」を提供する

――とはいえ、デジタル化に成功している小売企業は多くはありません。

ECサイト大手のアマゾンと同じことを展開していては、勝ち目はないと思っている。

アマゾンはどこにでもある工業製品を揃え、膨大なデータを活用して提供するスタイルだ。確かに、自分の欲しいものがはっきりしてる場合、これほど利便性の高いショッピングのスタイルはないだろう。

第1期棟が2018年6月に開業した阪神梅田本店。今年秋の全館オープンを目指して、工事が進められている。写真は2020年6月(記者撮影)

ただ、われわれは欲しいものを提供するだけではなくて、あの手この手で、お客さんの中にある潜在的なニーズを掘り起こすことを重視してきた。そういった「発見する喜び」を提供するのが、百貨店の仕事だと思っている。

単に工業製品を売るのではなく、意外な提案や催し物を展開し、楽しさを演出して接客する。阪急うめだ本店は「劇場型百貨店」と称して、エキサイティングな演出を手掛けてきたが、この道筋をオンラインでもつくっていく。

オンラインとオフラインを融合した複合型の営業の構造をつくっていくのが、百貨店のこれからの生き方であろう。

「週刊東洋経済プラス」のインタビュー拡大版では、「コロナ禍でも得られたオンラインイベントの成果」「デジタル化の具体的な方策」「百貨店の再編に対する考え方」などについて詳しく語っている。