瀧本哲史「人生に正解求める人ほど危険な理由」

そのいい例が「バイブル」、つまり聖書です。聖書には「こういうふうに生きていきなさい」という、ある意味「答え」が書いてあるんですね。

ユダヤ教とかイスラム教もバイブル性の高い宗教で、人が行動に迷ったと教典とかコーランを紐解いて答えを探すと、「誰々という偉い人がそういうときはこうしなさいと述べた」って感じで、戒律として指針が示されているので、迷わずに済むんです。

日本の仏教も宗派によってはそういう細かい教えを伝えてるところがありますけど、僕は「神様にこれをお供えすれば明日から幸せになって、年収も10倍アップ!」(会場笑)みたいな教えって、絶対に信じないほうがいいと思うんです。

だから今日の講義に来た人たちが僕の話を聞いて、僕のことをカリスマみたいに思って帰るとしたら、それは僕としてはぜんぜん嬉しいことではありません。

僕の講演とか授業に来る若者たちの中には、いわゆる「意識高い系」の人たちがけっこういます。でもいつも僕は、「そういう意識だけ高い人がたくさん集まって僕の話を聞いたところで、明日からうまくいくようになると思ったら大間違いですよ」と言って、突き放すんです。

僕もやろうと思えばみなさんを騙すことなんてカンタンですよ。でも、どっちかというと僕の真意はその真逆で、チラシとかの煽り文に釣られて来た、ある意味ちょっと勘違いしがちな人たちに、「(講演の登壇者が)僕でよかったね」「他の人に騙されないよう、気をつけようね」と気づいてもらうのが、講演のほんとうの目的だったりします。

「絶対的に正しい答え」なんてない

何度もくり返しますが、「どこかに絶対的に正しい答えがあるんじゃないか」と考えること自体をやめること。バイブルとカリスマの否定というのが、僕の基本的な世界観になります。

でも「この世に真の教えなんてない。僕の話も信用するな」といった話をすると、「ふざけんな、金返せ!」って、まあ今日は無料ですけど思う人もいるかもしれません。今日は、わざわざ福井から交通費かけて来た方もいらっしゃるそうなので。

はっきり言いますが、「真の教え」とか「法則」みたいなことを言う人は全員インチキです。オウム真理教みたいなカルト宗教はよく「真の教えが公開される富士セミナーを5泊6日で開催します。真理を会得できてお値段はたったの50万円!」みたいな告知をして信徒を集めてますが、けっこう喜んで行っちゃう人がいるんですよね。一種の洗脳だと思いますけど。

宗教だと警戒する人も、テレビとかツイッターで有名な人の会合には、ホイホイとついていってしまったりします。

メディアに出るような人は頭も良いので、一見正しいことを言っているように見えますが、なんだかんだお金や影響力目当てで、洗脳的な活動をけっしてそうは見えないようにやっているだけだったりするので、注意が必要でしょう。

そういえば「脱洗脳」のプロとして活躍してたはずなのに、いつの間にか自分もそういうセミナーを開催してる方が最近いますよね。名前はちょっとみなさんで調べていただきたいんですけど(会場笑)。

『2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義』(星海社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

でも、「ごめん!正解は僕にもよくわからないんですよ」って言ったら、「じゃあ私は、いったいどうしたらいいんですか……」って悩む人、ここにはいますか?

(会場、ひとり挙手)

あ、いますね。ありがとうございます。でも、あなたへの答えはすごく簡単です。

「自分の人生は自分で考えて自分で決めてください」。

はい、これに尽きるんですね。

これは、「ブキケツ(武器としての決断思考)」の初版の帯に掲載したコピーでもあり、さっき言った自燈明(じとうみょう)ですよ。

心の弱さに負けちゃいけない

「誰か」や「何か」に頼りたくなる気持ちは、僕も同じ人間なんでわからなくもないです。でもその心の弱さに負けちゃいけないんです。

ただ、自分で考えるためにはやっぱり、考える枠組みが必要なんです。その枠組みが教養であり、リベラルアーツであるということです。

薀蓄や知識をひけらかすために教養があるのではありません。自分自身を拠りどころとするためにも、真に「学ぶ」必要があるんですよ。