デジタル化で幹部のキャリアパスに大異変!

企業の上位概念やマネジメントスタイルをどのように社内のデジタル人材に対して打ち出していくかが、魅力的な報酬水準と同様に人材マネジメント上重要な課題となるのです。このような課題をどう方向付けしていくかは人事部門の役割というより経営課題として取り組む必要があるといえるでしょう。

DXを実現する組織・人材戦略

デジタルを活用して新しいビジネスを創出したり、既存の業務プロセスを抜本的に変革する、いわゆるデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を実現するためには、デジタル人材を獲得するだけでは成果につながらないということを多くの企業が実感しています。

その実現に向けては、デジタルの専門知識・専門スキルを持つデジタル人材が、自社のビジネスや顧客に対して専門知識や経験を有するビジネス人材が「共創」した状態を作ることが不可欠です。

私たちはこの「共創」を生むためにはデジタル人材とビジネス人材双方を率いるミドルリーダーが必要だと考えています。そして、DXを進める過程で生ずるさまざまな軋轢やコンフリクトを経営者自らが既存の価値観や秩序にとらわれることなく乗り越える先頭に立つ必要があるのです。

ではそうした人材(デジタル人材、ミドルリーダー)をどのように獲得・育成、あるいは処遇していけばよいのでしょうか。

以下、デザインシンキングによるコニカミノルタの変革ミドル獲得、役員フラット化による既存秩序の破壊を行うトヨタ自動車、そして有期雇用形態を活用してデジタル人材を獲得する大日本印刷の例をご紹介したいと思います。

DXには、顧客・ユーザーを真に捉えた事業創造や業務改革を推進できる「変革ミドルリーダー」が必要となります。

コニカミノルタは売上の7割を占める情報機器事業がペーパーレス化やデジタル化の波を受け、顧客へ提供する価値の転換が求められています。これまでのような「モノ」売りから、人間を中心に見据えた「コト」売りへのシフトが必要になっており、そのような状況下で同社は「メーカー視点」でなく「顧客中心視点」に立ったデザインシンキングの社内浸透を進めることでDXに不可欠なミドルリーダーの獲得を図っています。

具体的にはデザインシンキングの浸透にあたり、目指す姿を「各事業のプロジェクト全体にわたって実践行動が当たり前に行われている姿」と設定し、創造的実践行動の指導者・推進者のリーダーを「デザインシンカー」とし、そのような人材が組織のそこかしこに散らばる状態を作り出し、高い価値をつねに生み出し続ける企業となることを掲げています。

このゴールに向けて、座学としての概論から始まり、実践版としてのトライアルプログラムまで用意しています。さらに、学ぶ対象者を組織におけるポジションにより層別し、立場に即した内容に組んでいるのです。

トヨタはフラットな「幹部職」を新設

また、トヨタ自動車は2019年、常務役員、常務理事に加え、従来基幹職と呼ばれていた管理職層の部長級、室長級、技範級の社員ランクを統合したフラットな「幹部職」を新設しました。

この幹部職の新設により、柔軟な抜擢人事が可能となりました。トヨタは自動車産業全体でCASE(Connected,Autonomous,Shared,Electric)と称される技術革新が進む中で、適所適材を実行するために、まずは経営層の階層をフラット化し、事業活動において求められる過去にないスピード感を実現するとともに、柔軟な人材配置を実現可能にする素地の構築を図っています。

フラット化は、まさに100年に一度の大変革の時代を生き抜くために、若手やベテランにかかわらず柔軟に抜擢することが狙いといえます。