日本人はドコモの高い携帯料金に甘んじている

菅首相は首相になる前から携帯料金について強い関心を寄せてきた。だが筆者は「首相が批判すべき問題なのか」と疑問を呈する(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

アメリカ大統領選挙戦は、9月29日に注目の第1回大統領候補者討論会が行われ、子供に見せられないような「子供の喧嘩以下の痴態」が世界中に放映された。

この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています)。記事の一覧はこちら

これから大統領選挙までかんべえ氏(双日総研チーフストラテジスト吉崎達彦氏)が毎週書いて、私は2021年にバブルが崩壊してから毎週書く方がよい、などと思ったりもする。

それはさておき、今回は大統領選挙に比べたらまったく重要でないのに、日本の国民と菅義偉首相が重大な関心を持っている、携帯電話料金の引き下げ問題の話をしよう。

携帯キャリア大手3社に問題はあるのか?

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菅首相や武田良太総務相などが携帯電話料金の引き下げについて各社に圧力をかけるのは、憲法違反ではないか。

「自主的に料金を下げるよう努力を促しているに過ぎない」といった異論があるかもしれないが、私に言わせれば財産権の侵害であり、民間企業のビジネスの自由を奪う行為である。携帯キャリア大手3社は訴訟を起こし、最高裁判所まで争ったらよい。

そもそも、日本の携帯電話料金の何が問題なのか?結局のところ

1)価格が高すぎる 2)事実上、3社の寡占で独占的な立場を利用して価格を高く釣り上げている3)その結果、3社の利益水準が異常に膨らんでいる

ということらしい。しかし、間違いだ。すべて問題はない。

3から逆順に見ていこう。儲け過ぎることで、社会的に制裁を受ける必要があるのであれば、資本主義は成り立たない。利益の最大化を使命として成立している企業が存在することは不可能になる。共産主義になるしかない。

しかし、実は、これが日本企業の利益率が低い理由の1つである。
投資家からも、メディアからも「日本企業は欧米企業に比べて利益率が低すぎる。儲ける力が弱すぎる」と攻撃されてきた。

あたかも、日本企業がサボっているような攻撃のされ方だったが、本当の理由は、儲けると叩かれるから、目立たない程度に利益を抑える癖がついてしまっていたのだ。出る杭は打たれる。儲ける企業も打たれる。みんなで儲けが少なければ、みんなで少しだけ批判を受ければ済む。それなら、後者に甘んじる。合理的だ。

そもそも、日本の携帯キャリアが儲け過ぎなら、アメリカのアップルはどうなるんだ?フェイスブックもグーグル(アルファベット)も、だ。それならば、彼らに対してこそ、菅首相は攻撃すべきではないか。しかも、彼らは、本国アメリカでは一定の法人税を納めるが、自国以外ではとことん租税回避行動をとり、法人税をほとんど払っていない、という批判が日本以外の世界中でなされている。そちらが先ではないか?

独禁法違反と言えるのか?

2の「独占的な地位を利用して価格を高く釣り上げている」は、問題の本質だ。これが事実なら、こうした事態は放置できない。

しかし、これはまさに法律違反の問題である。首相が批判するのではなく、公約にするのではなく、有罪であることを立証すればよいのであり、それをしないのは、行政府の怠慢であり、政権の不作為である。政権が自慢することでなく、むしろ政権を攻撃する材料となるはずだ。

担当は、独立した組織としての公正取引委員会であり、独占禁止法違反で排除措置命令などの強い措置を取ればいいだけのことだ。違反状態でそれをしないのならば、それは公正取引委員会の大失策であり、政権の大失策である。