アニメをうまく描く人になる、たった1つのコツ

では「第二原画」や「動画」を担当することになるアニメーターたちは、原画マンが描いたハイクオリティな絵を見て、その線をなぞって、綺麗に清書する作業をこなせばどうなるのか。小学生の頃に漢字や英語の書き取りドリルを使って反復練習をしていたのと同じだ。なぞればなぞるほど、うまい絵を自らの手で、早く再現できるようになっていく。うまい線の描き方を覚えると言っても良いかもしれない。

さらに動画マンの作業としては、対象が動いているように見せるため、原画と原画の間を描く「中割り」という作業もある。たとえば誰かが誰かに手を振るシーンを描く場合。「右手が頭より高い位置にあるAの原画」と「右手が肩と同じ高さにあるBの原画」の2枚があるとする。手がBの位置からAの位置に来る、その間の手の動きを描くのが「中割り」の仕事だ。これは原画をなぞる作業と、原画の絵柄を保ったまま手や肩の動きを考えて描く作業が同時に行える。新人アニメーターにとっては何よりも勉強になる仕事だ。

付け加えると、アニメーターの収入は「出来高制」になっていることが多く、その場合は絵を描いた枚数が報酬に直結する。しかし1枚1枚に設定されている金額はそれほど多くない。ある程度の収入を得るためには一定以上のクオリティを保ちながら、とにかく早く、多くの枚数を描く必要があるのが現状だ。

そうしてさまざまな作品でうまい絵に触れ、何度もなぞっていくことで必然的に、うまい絵を早く描く技術を身につけていく。その繰り返しが新人アニメーターたちの質を向上させ、凄腕と呼ばれる原画マン、さらにはその上のポジションも務められるほどに成長する。同時にアニメそのもののクオリティも高まっていくというわけだ。

「うまい人から技術を盗み、糧とする」

また、「正解を教えてくれる人から答えをもらう」のではなく、「うまい人が描いた絵から技術を盗み、糧とする」ことが爆発的な成長力を生んでいる側面もある。

『なぞるだけで絵がうまくなる! アニメ私塾式 キャラ作画上達ドリル 』(宝島社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

現在アニメ業界は、アニメ戦国時代真っただ中にあると言えるような状況。3カ月ごとに放送・配信されるテレビアニメは毎クール50本前後。昔から続く子ども向けアニメや教育アニメ、番組内アニメなども多々あり、ヒットしてシリーズが続いていくアニメはごく僅か。全てのアニメを見られる視聴者はほぼ全くおらず、視聴時間も限られ、取捨選択をする必要がある。

そんな時代だからこそ、真っ先に注目されるのはやはり冒頭でタイトルを挙げたような「作画が綺麗」なアニメであることが多くなった。だからこそ、早く、上手く、どんな絵でも描ける腕利きのアニメーターはどれだけいても困らない。「トレス」で技術を培い、数年後には超一流のプロアニメーターとしてそのヒット作に名を連ねる凄腕のアニメーターは増え続けるはずだ。

まずは一流の人の技術を盗んでみることが、アマチュアがプロに近づく一歩なのは、どの分野でも本質は同じだ(イラスト:『なぞるだけで絵がうまくなる! アニメ私塾式 キャラ作画上達ドリル 』(宝島社))