日本でユニコーン企業が「7社だけ」の根本原因

たとえば、中国のベンチャー企業は、まずアプリなどのサービスをつくり、ユーザーを増やしてから収益を上げる方法を考えます。ビジネスは「客数×客単価×利用頻度」ですから、新たなサービスを加えながらすべてを底上げしていくという考え方をします。とにかくさまざまな機能やサービスをリリースし、うまくいったものだけを残していくという考え方。「走りながら考える」と言ってもいいでしょう。

一方、多くの日本のベンチャー企業は、事業計画を綿密に立て、マーケティングを行うなど、準備に多くの時間を使ってから事業を開始します。これは、成功の確率を上げるためですが、スタートの段階で戦略やビジネスモデルががっちりとかたまっているため、新機能や新サービスを矢継ぎ早にリリースしたり、うまくいかなかった場合、ビジネスモデルを転換したりすることが難しくなるというデメリットがあります。

さらに、この軌道修正力の違いは、失敗に対する包容度、および判断基準の違いとも関連しています。

日本では一度の失敗が、ブランドイメージや取引先、顧客との信頼関係に大きなダメージを与えます。「失敗コスト」が非常に高いのです。また、結果にたどり着くためのプロセスを重視する傾向があります。

一方、中国では成果主義の色が濃く、過程において失敗を繰り返しても、結果的に成果を出せれば評価されます。それが、試行錯誤しやすい環境をつくり出しているのです。

何かに挑戦して成功すれば評価されるのは両国とも同じです。これは当然ですね。しかし、挑戦して失敗した場合、そして何もしなかった場合の評価については両国で差があります。日本では何かに挑戦し、失敗した場合、マイナス評価を受けます。一方、中国では挑戦していればたとえ失敗したとしてもある程度評価されます。

逆に中国では何も挑戦しない現状維持は、「失敗」と見なされ、マイナス評価を受けます。翻って日本では、挑戦せず現状を維持すれば一定の評価を受けることができます。

このような、考え方の違いが両国の起業に大きな違いを生んでいると考えられるのです。

「PDCA」ではなく「TECA」も必要

日本では、PDCA が重視されます。慎重に計画を立て、改善を繰り返しながら事業や商品をよりブラッシュアップしていく。このスキルにかけては、日本にかなう国はないでしょう。

このスキルのおかげで、日本製品は世界一の精度を誇っているわけです。
一方、中国では、T(Try)・E(Error)・C(Check)・A(Action)という考え方が一般的と言えます。とにかくスピードとアウトプットの量が重視され、失敗をしながら学んでいく。この考え方でビジネスを進めると、最初のうちは精度が粗かったり、品質が悪かったりという問題が起こりがちです。しかし、そのスピードのおかげで資金調達などの面で優位に立つことができます。変化の激しい現代のビジネス環境で投資を呼び込むにはライバルに先駆けて事業を開始することが何よりも大切だからです。

中国にユニコーン企業が多いのは市場環境や人口が大きく貢献しているわけですが、この失敗を恐れないスピード感も大きな要因なのです。

『中国オンラインビジネスモデル図鑑』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトへジャンプします)

中国でもアメリカでも同じですが、事業が軌道に乗り成功するベンチャー企業はほんの一握りです。多くのベンチャー企業は市場からの撤退を余儀なくされます。

それでも、新たなベンチャーが続々と立ち上がるのは、彼ら、彼女らが失敗の痛みを経験しなければ、成長できないということを知っているからです。

日本でも、ベンチャー企業がスピードとアウトプット量を重視し、失敗しながら成長していくためには、一度失敗しても再就職できるよう、人材の流動性を高め、社会全体で失敗を許容、奨励する空気づくりが求められているのではないでしょうか。