プロ野球「無観客開催」で迫られる次なる一手

そんな厳しい状況で、国や自治体は緊急事態宣言の発出とともにNPBに今年も「無観客試合」を行うように要請している。

筆者は昨年8月からこの4月までプロ野球の公式戦、オープン戦を30試合ほど観戦した。また、宮崎県、沖縄県の8球団の春季キャンプを取材した。

実感としてNPB各球団は本気で「感染症対策」を行っている。観客を球場に入れ始めた昨年から今年に至るまで、球場での感染症対策は緩むことなく維持されている。

広島東洋カープの春季キャンプも「無観客」で実施(写真:筆者撮影)

マスクを外している観客には警備員がその都度注意をしている。まん延防止等重点措置が発出されてからは「鼻出しマスク」も注意するようになっている。ビールの売り子は18時開始の試合では18時45分で撤収している。

また観客も、手拍子やはりせんで音を出すだけで、大声をあげる人はほとんどいない。ファン心理として球団や選手に迷惑をかけられないと思う人が多いのだろう。

各球場では「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)」を入れるように奨励している。政府が開発したこのアプリはほとんど役に立っていないと言われているが、少なくとも来場者からクラスターが発生したという事実は今のところ確認されていない。

「無観客試合」では興行的には損失

「無観客試合」では、入場料収入、物販収入が完全に消滅する。しかし試合運営の経費などは発生する。さらに阪神甲子園球場、京セラドーム大阪のように、球団のグループ企業が本拠地球場を所有している場合はいいが、ヤクルトなどは明治神宮野球場に球場使用料を支払わなければならない。「無観客試合」は興行的には損失なのだ。

結局、政府・自治体の要請を受けて、NPBは、4月26日から5月11日までの期間に行われる巨人、ヤクルト、阪神、オリックスの主催試合を無観客とした。このうち巨人は2試合を他の日程に振り替え、オリックスも1試合を振り替えるとしたが、他の球団は該当する試合を無観客で消化する。

しかし、緊急事態宣言の期間について政府分科会の尾身茂会長は「ステージ3が最低条件」と発言しており、5月11日になれば無条件に解除されるわけではない。

また発令地域も大阪府、京都府、兵庫県、東京都だけでなく、NPB球団の本拠地がある千葉県、埼玉県、神奈川県、愛知県、福岡県などに広がる可能性もある。これによって「無観客試合」がこれ以上増加すれば、経営危機に陥る球団も出てきかねない。

斉藤コミッショナーは「プロ野球やJリーグが、監視されない中で集まったり飲食したりするグループなどと一律に同じ条件にされてしまうのは、どうしても納得がいかない」と言ったが、首肯できる話だ。

NPBが迫られる次の「一手」

それを考えれば、NPBは別の決断をすることも求められる。

今季のNPBのペナントレースは、7月15日から8月12日まで約1カ月中断することになっている。この期間に行われる東京オリンピックに配慮してのことだ。DeNAの本拠地である横浜スタジアムは野球競技の会場になる。

また神宮球場はオリンピック関連の車両、機材置き場になる。他球団は東京オリンピックに国民の耳目を集めるために、試合をしないことになっている。昨年はこの間に約150試合を消化した。

日本のプロアマ球界は一致協力して、東京オリンピックに野球競技を復活させるべく日本オリンピック委員会(JOC)に強力に働きかけた。その甲斐あってIOCは、野球、ソフトボールを競技として復活させた。

そうした経緯もあって、NPBは東京オリンピックに全面的に協力しているわけだが、すでに東京オリンピックを予定通りの形式で開催するのはかなり厳しくなっている。「無観客試合」で国に出血覚悟で協力しても、東京オリンピックが開催されなければ、1カ月弱のブランクは、何の意味もなくなってしまう。

今後、緊急事態宣言の期間や地域が拡大されるようなら、NPB、各球団は「無観客試合」ではなく、スケジュール変更をする手もある。状況によっては、ブランクを想定していた期間に試合を振り替えたり、感染対策を徹底したうえで地方球場で試合を行うことも考えてよいと思う。

NPBは「払い戻しの手数料だけでも補填してほしい」と言っているが、政府は「無観客試合」を要請するだけで、入場料の損失補填をするとは発表していない。「公共財」であるプロ野球の維持のためにも、NPBは厳しい決断が求められそうだ。