「仕事に集中できる人」「先送りする人」の決定的差

これに加えて、日常の作業におけるチャレンジ・スキル・バランスが破綻しないことが大切ですが、これを最も脅かすのが、仕事の作業が別の誘惑による脱線や、心理的な不安が高まることによって生まれる先送りのせいで時間の余裕が失われた状態です。

そこで、集中力によって超人のように作業がはかどる状態を目指すのではなく、能率の高い状態が長く持続していて、作業にともなう不安やストレスを可能な限り避けられている状態が目標となります。

陸上競技に例えるならば、全速力で走るのを目指すのではなく、なるべく長い時間スピードを保つことを目指します。そして転倒や怪我の不安を生み出す小石や障害物をトラックから取り除き、フローの状態で走れる環境を作ることが集中力のライフハックなのです。

原則:ピークスピードを無理して上げるのではなく、平均的なペースが向上している状態が長く持続するための仕組みを導入する
原則:不安や焦燥感を生み出す要素を減らすことで、ペースが遅くならない仕組みを考える

なぜ自分は作業に集中できないのか? なぜ自分は怠けてしまうのか? このような言葉で自分を責めることに慣れている人は、集中力を実験対象のように客観的に眺め、条件を変えることでどのように反応したのかを記録するところから始めるとよいでしょう。

睡眠時間、作業の難易度、タスクの明快さや長い目でみた目的との整合性、そして何より自分の心がどれだけモチベーションを感じていたか。これらを主観的な言葉でよいので記録にし、日々の状態をみてみます。

今日うまくいった理由はなんだったのか。条件は同じだったのに、昨日ほど集中できなかったのはなぜか。過去の経験からみて、明日はどのような準備をすると成功率が高まるのか。どのようにすれば安定して生み出せるかわからない「やる気」に頼らずに、心の状態をモニターしつつ、作業の環境や手段をあの手この手と変えるのです。

仕事の中身はそのままで手法だけを変える工夫

ここで特に注目したいのが、仕事の中身は変わっていないのに、その手法だけが変わっているような工夫です。

例えば5000字の原稿を真っ白な画面に向かっていきなり書き出すのは難しいですが、それを140字のツイートの集合体だと捉えると、全体は30~35ツイート程度となります。このように仕事の捉え方を変えたうえで最初の数ツイート分だけを書き出してみると、作業の負担感が急に減ってきます。作業の捉え方や、取り組むときの仕組みがチャレンジ・スキル・バランスに影響するのです。

作業の捉え方は環境によっても変わります。画面をダークモードに変えてみる、スタンディングデスクを使って違った姿勢で作業をしてみる、音楽をかけてみる、食事のあとに重要な仕事をしないといったように、私たちの集中力を変化させるパラメーターは無数にあります。

あなた自身の集中力を支えているパラメーターの勘所がどこにあるのかを、観察と実験を通して見つけていきましょう。

原則:やる気が出ることに頼らない。やる気が結果的に生まれる環境や条件を追求する

こうした条件を追求してゆくと、必然的に自分自身の心の状態をモニターすることにつながります。

新型コロナウイルスのパンデミックが始まった直後の、まだまだ先行きが不透明だったころに、世界中の人がネット上の情報に釘付けになり、いつまでもスマートフォンの画面をスクロールしている時期がありました。

情報を追うことで不安がさらに高まるにもかかわらず、目を離せないこの状態は“Doom Scrolling”「絶望のスクロール」と呼ばれるようになりました。矛盾しているようにみえますが、これは逃れることのできない不安を紛らわせるための行動で、放っておくと際限なく大きくなるストレスを緩和するための自然な反応であることが知られています。