フランスが「学校のいじめ」厳罰化に動いた事情

フランスでは学校のいじめを厳罰化する法案を可決した。日本とフランスの相違点とは(写真:pictus photography/iStock)

フランスに住む日本人女性のくみと、日本に住んだ経験を持つフランス人男性のエマニュエルが日本とフランスの相違点について語り合う本連載。

今回はフランスで学校のいじめを厳罰化する法案を可決したことについてです。日本同様、学校でのいじめが社会問題となっているフランスでは、被害者が自殺した場合は加害者に最大禁固10年を課すなど厳しい措置に動いたことが日本でも話題となっていますが、フランスがいじめの犯罪化に動いた背景には何があるのでしょうか。

長年待ち望まれていた法案

くみ:フランスも年末年始のバカンスが終わり、日常に戻ったね。前回の記事(フランス「年末の過ごし方」2年でこんな変わった)で予想していたとおり、昨年末もやっぱり車が燃やされていたね……。

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さて、今日エマニュエルと話したいのは、いじめについて。先日フランスで加害者に厳罰を科すことが可決された学校のいじめについては日本でもかなりニュースや話題になっている。ひと口にいじめと言っても内容はさまざまだけど、被害者が被害を受けて心身苦しむことに変わりない。やはり法的に犯罪と認定して被害者と加害者に適切な対応をすべきだという今回の措置には、日本のニュース・サイトでも賛成するコメントが多く見られる。

当然フランスでもニュースになっているけど、身近なところでも反響はやはり大きかった?

エマニュエル:そうだね、いじめを受けている子どもたちが、年齢を問わずさまざまな形の暴力を受けているというのは多くのニュースでも扱われてきたわけで、今回のこの法の可決は長年待ち望まれてきたものだ。

例えば、昨年の春に14歳の少女の打撲の痕跡のある遺体がセーヌ川で見つかり、同級生2人が逮捕される事件があった。少女の母親はスナップチャット上に下着姿の彼女の写真が拡散されて以来、脅迫などの被害にあっていたと話している。

最近行われた調査によると、20%の児童がサイバーハラスメントの被害に遭った経験があるとされている。このうちの51%が平均13歳の少女であるということだ。

このほかにも、「ミラ事件」とよばれるもので、16歳の少女がネット上での発言をもとに反イスラム教としてみなされ、SNS上で多くの脅迫を受けたことで13人の被告人のうち11人が有罪になるという事件もフランス国内で多くの議論を呼ぶことになった。11人の被告人はみな18歳以上であり、執行猶予付きの禁固4~6カ月の有罪判決が下された。

こういった数々の事件に対する人々の反応をうけて、今回の法案には「学校でのいじめ(スクールハラスメント)」を厳罰化する提案がされることになった。この法案ではいじめの加害者であるとみなされた生徒に罰則を与えることとなり、その基準としては、8日以下の(医師の判断による)登校不可となるようないじめがあった場合は、その加害者に禁固3年以下と45000ユーロの罰金、8日以上と判断された場合においては、禁固5年以下75000ユーロの罰金となっている。そして自殺未遂や自殺の被害があった場合においては、禁固10年以下、150000ユーロの罰金となっている。

学校での暴力といじめは区別されている

ここでいういじめ(ハラスメント)という言葉のフランスにおける定義には、身体的・心理的・性的な暴力が含まれている。一般的には、個人、または複数の生徒が抵抗しない別の生徒にこういった暴力をはたらくことがいじめとして捉えられているが、どの形の暴力であっても精神的な暴力は受けることになる。