「年齢への焦り」で転職した37歳の彼が迎えた結末

そんな中、加藤さんはこれまでの広報仲間とのつながりをいかして、PR業界では名前の知られた会社への転職を果たすことになる。

「自分が扱える情報の種類や量を増やしたり、情報が届いた先の反応をさらによくしたり……そういうふうに、PRの分野でもっと成長していきたいと思ったんです。

転職先のオフィスには、さまざまな新聞や情報誌、たくさんの業界専門書籍がありました。今までは自ら図書館や本屋に行かなければ手に入らなかったものが自分の机から手の届く範囲にあるのがとても嬉しくて、『こんな環境で仕事ができるのか!』と、期待に満ち溢れていました。上司となった人も心から尊敬できるPRパーソンで、最高の環境だと思いました」

エピソードを語る加藤さんの表情から、当時の彼の転職に対する興奮が伝わってくるようだ。だが、転職後の話を聞くと、その表情が曇った。

「”一緒に働くと相手が短期間で辞めてしまう”と言われている人が、同じ部署にいたんです」

転職前にはなかなか知りえない、しかし、たまに耳にする事故に巻き込まれたようだ。

さて、そんな加藤さんがジオコードに出戻った経緯は、少し特殊だった。きっかけは、退職後に元同僚から来た仕事の連絡だった。

「新しい会社に入社して3カ月くらい経過した頃、『転職先の会社のサービスとジオコードのサービスを機能連携できないかな?』という相談がきたんです。正直戸惑いました。というのも、辞めてからは元同僚たちとは連絡をとっていなかったんですよ。なんというか、未練があると思われたくなくて。別れた彼女のことをずっと思っている、みたいで嫌じゃないですか(笑)。

でも相談が来たので、担当者を紹介するために久しぶりにオフィスに顔を出したら、元上司や役員たちがぞろぞろとやってきて『え、もしかして復帰するの!?(笑)』なんて冗談を言われて盛り上がって」

広報という仕事や転職時のエピソードを聞く限りでは、人と積極的に関わっていく人なのかと思いきや、意外な台詞である。

この時は出戻りすることは一切想像していなかったという加藤さんだが、再会を機に、元同僚たちとも連絡をとる回数が増えた。

「元上司ともよくランチに行くようになって、会話の中で『副業ってOKだったりするの? 業務委託で仕事頼めたりするかな』『もし加藤が戻ってきたら……』なんて話が出たんです。『もしかして戻ってきてほしいのかな?』と思いました。今振り返ると、実は当時は会社の状況が大きく変化し、以前よりも広報の重要性が増している状況だったようです」

自分なりのけじめもあって、あえて疎遠にしていた加藤さんだったが、会社が必要としてくれていることを知り、心のつっかかりが消えたようだ。

後ろめたさから緊張した社長とのランチ

その後、再入社に向けて、社長とランチに行くことになった。

「社長とのランチがとにかく緊張しました。面接の代わりにランチをすることになったんです。社長とは入社前から知り合いだったし、心を許せる関係だったので、それまで緊張したことってなかったんですけど。裏切ったわけではないけど、後ろめたさというか、どこか会社や社長に対して、申し訳ない気持ちがあったんだと思います。辞めるタイミングは会社になるべく迷惑がかからない時期を選びましたし、残っていた有給休暇は使わずに辞めたので、自分なりには筋を通したつもりだったんですけど……」

そして、ジオコードに出戻り入社することになるのだが、限られた人にしか知らされなかったこともあり、こんな出来事が起きたという。

「経営陣とマネージャーは知っていたみたいなんですけど、他の社員には『新しい社員が入る』ことしか伝えていなかったそうで。『新しい社員を紹介します!』と言って出てきたのが僕だったので、みんな『なんだ社長の冗談か~』という反応で、最初の1日はまったく信じてもらえなくて(笑)。3日くらい続けて出社していたら『あれ、ほんとに戻ってきたんですね!』って言われるようになりました。12年も働いていて辞めたので、まさか戻ってくるとは思われていなかったみたいです」