池上彰、親が思う"いい会社"が要注意である理由

どの時代も、そのときに業績が好調で名の知れている会社が人気にはなるものの、そうした会社の人気は永遠に続くわけではない。だからこそ、大人になったときに働きたい会社について子どもと話すような機会には、「人気があるかどうか」という視点に親自身が偏りすぎないようにしなければなりません。

大事なのは、これから大人になっていく子ども自身が、憧れる仕事を「かっこいい」「面白そう」と思えるかどうか。「高給取りのお金持ちなる」という夢ももちろん悪くはないのですが、「何になるか」よりも「何をするか」をちゃんと考えさせること、それこそが子どもの将来にとって必ず重要になる。これまで働いてきた大人なら、それが本当に大事なことだというのはわかっているはずです。

「ワーク・ライフ・バランス」を本当に理解しているか?

ここ最近で、だいぶ世に広まった感のある「ワーク・ライフ・バランス」の考え方。仕事と生活のバランスをとる生き方を指すのはご存じのとおりです。たしかに、生活を支え、生きがいややりがいも感じられる仕事に就いたのはいいものの、仕事に打ち込むあまり心身の健康を損なって人生を楽しめなかったりしたらもったいないことですし、「働くだけが人生じゃない」という観点からも大事な考え方でしょう。

アメリカなどほかの先進国に比べ、日本は労働生産性がだいぶ低いといわれています。労働生産性とは、1人ひとりがどれだけ効率よく働いて富や成果を生み出しているかを示す指標ですが、多くの時間を使い、身を粉にして働いても、それが仕事の結果に結びついていないとしたら悲惨なことです。

ワーク・ライフ・バランスは「仕事をほどほどに」というものではありません。やりがいや充足感を感じながら働いて仕事の責任を果たし、そのうえで健康的で豊かな生活を送るための時間も確保するという考え方です。大人に近づいていく子どもに、働くうえで見失ってはいけない新しい考え方を、親自身が意識しているか。これからの親の役目としてそれを教えることも大事だろうと思います。

最近では、仕事と生活の境界線をなくす「ワーク・ライフ・インテグレーション」という考え方にも注目が集まっています。仕事も生活も同じ人生の一部、そうとらえて柔軟に働くことで人生をより豊かにしようという考え方です。

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テレワークが一般化してきている今、このワーク・ライフ・インテグレーションも前述のワーク・ライフ・バランスも、まさに時代に即した考え方かもしれませんが、「働くだけが人生ではない」という観点がまだ一般的ではない時代に大人になった親世代は、今の子どもたちはそうした新しい考え方を常識とする世の中を生きていくのだということを、今一度、柔軟に意識しておく必要があるでしょう。

以上この記事では、これから大人になる子どもたちが「今の世の中を生きていくために知っておくべきこと」のうち、「仕事」に関するトピックスをざっと解説しました。

私たち大人にとってはいわば「当然のこと」かもしれませんが、振り返ってみれば、定年まで1つの職場で働き続けることを理想とする時代はすでに過ぎ去り、すっかり一般化した「転職」はもちろん、「副業」を認める会社もどんどん増えてきています。「仕事」の周辺は、新しい常識にとって代わられてきているのです。

大人として、そして親としてあらためて把握しておくべき「仕事」の常識。私たちより2年も早く大人になる子どもたちに、働くことの意味と常識を“早めに”伝えていく。それこそが、今どきの親としての“ニューノーマル”なのではないでしょうか。