小林聡美さん「心穏やかに暮らすささやかなコツ」

小林聡美さんに、大人が人生を豊かに生きる術を聞きました(撮影:梅谷秀司)

俳優・小林聡美さんといえば、自然体で生きる女性を演じつつ個性的な芝居をする、というイメージを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。映画『かもめ食堂』や『めがね』、「ペンションメッツァ」(WOWOW)などで、観ていて心が豊かになる作品に多数出演してきたからかもしれない。

4月29日に公開される主演映画『ツユクサ』でも、丁寧に生きる大切さと、大人が人生を豊かに生きる術を表現している。小林さんに、仕事に対する考え方や過去に経験しておけばよかったことなどを聞くと、作品の印象と同じく、自然体という言葉が似合う答えが返ってきた。

自主性を持って自分で気づき、取り入れていく

――14歳で俳優デビューしてから、今年で43年目を迎えます。先輩からアドバイスされて、仕事に活かしている言葉などはありますか。

このお仕事って年齢やキャリアはあまり関係ない世界だと思うんです。私自身、先輩からアドバイスをいただいたことはほぼありません。お芝居や芸の世界は何が正解かわからないし、自主性を持って自分で気づき、気づいたことを自分の中に取り入れていくしか術がないんです。私は自分が素敵だなと思える先輩がいたら、その先輩の作品をたくさん観たりして、自分もできそうなことは試してみるという試行錯誤でした。

先輩、後輩という垣根があまりなく、俳優同士は同じ土壌にいるという意識だからでしょうか。私もこの年(今年5月で57歳)になって、若手俳優さんに「こうしたほうがいいよ」とはおこがましくて言えません。

私は就職した経験がないので、ビジネスパーソンの方々が具体的にどのようなお仕事をしていらっしゃるのかわからないんですけど、人間力を試されるときはありますか?

――文部科学省の発表によると、人間力とは「知的能力的要素」と「社会・対人関係力的要素」と「自己制御的要素」の3つとの記載が。あると思います。

では、俳優のお仕事と似ている部分があるかもしれませんね。私の意見がビジネスパーソンの方々のお役に立ちますでしょうか……?

――「自主性を持って自分で気づく」という言葉が刺さった読者もいるかもしれませんね。小林さんが30代、40代で経験しておけばよかったと思うこともおうかがいしたいです。

過去を振り返って、「あれをしておけばよかった」と、後悔したことがないんですよね。後悔はしないことに決めている、と言いますか。また私の意見が参考にならずすみません(笑)。若い頃から「いつかは」と思っていたピアノを最近、習い始めて自宅で練習するという楽しみが増えましたし。軽い気持ちで始めた俳句の会も、10年続いています。

45歳で4年制大学に入学したきっかけ

――2010年、45歳で4年制大学へ入学。2015年春に卒業されました。入学しようと思ったきっかけは?

(撮影:梅谷秀司)

40歳の時に初めてちゃんと落語を聴いて、それがとても新鮮で面白くて、そこから自分が生まれ育った日本に深く興味を持つようになったんです。

日本には落語など世界に誇れる文化がたくさんあるし、日本でしか見られない絶景がたくさんある。そんなことに気づかないまま大人になってしまったことに愕然として、だったら今まで知らなかった日本の文化について、いっそのこと大学で学んでみるのも面白いかなと。

私は40代であらためて日本に目を向けることができましたけど、若い頃は異文化に興味を持つのは自然なことなのかもしれないですね。

実際に私も若い頃は、自国の文化よりも、海外への興味のほうが大きかったです。「自分の人生はこんなはずじゃない」「自分にはもっと向いている場所があるはずだ」と悩み、足元よりずっと遠くの世界に憧れていた気がします。