出社を頑なに拒む社員「在宅勤務」は認められるか

健康上のさまざまな理由で出社を拒む社員たち。産業医はどう対応しているのでしょうか。(写真: TY /PIXTA)

ウィズコロナが進む中で、社員に出社を求める会社が増える昨今。

「健康を理由に出社ができない」

産業医の私のもとにはこのような相談が増えています。

そこで今回は、健康上の理由で在宅勤務を継続したいと訴える社員たちの症状、そうした社員に対し会社側や産業医はどのような対応をとっているのか、紹介したいと思います。

社歴15年の40代女性Aさんは、「ワクチン接種をした人と一緒に過ごしていると蕁麻疹が出てくる」と、在宅勤務の継続を訴えました。Aさんにワクチンを接種した人が原因と思うのかと聞いてみると、「親戚の集まりで具合が悪くなったとき、その中にワクチン接種をしたばかりの人がいた」とのこと。

ただし、最近の出社時には同僚たちとランチに行ったことが上司より人事には伝えられており、その同僚はワクチン接種者だということもわかっています。最終的に会社はAさんに在宅勤務を認めませんでした。出社命令を文書で出し、それでも出社しないAさんが退職となるのは時間の問題だと思われます。

「ワクチン接種していない人とは働けない」

Aさんのような人がいる一方で、「ワクチンを接種していない人となんか、一緒に働けない」「そのような職場に1日いることは感染リスクが高い」と言い、在宅勤務の継続を訴える社員もいました。

また、多くの人が以前ほどコロナを怖がらなくなっている一方で、コロナにかかることを恐れて、次第に眠れなくなり、さまざまな症状が出て、休職している社員たちもいます。

Bさんは社歴12年で30代後半の女性社員です。4年前にうつ病による休職から復職。コロナ禍が始まったときは通院中でしたが、通常勤務でした。

もう5年以上産業医面談を行っていましたので、神経質な性格であると知っており、彼女が在宅勤務の継続を主張したときに、それがコロナへの不安や恐怖によるものだということはすぐに理解できました。

人事担当者も私も「会社が出社を求めてもできない状態であれば、それに適した診断書を提出して休職すること」を繰り返し説明しました。しかし、彼女は「家では仕事はできているから診断書を提出するような病気ではない」と訴えました。結局ほかのチームメンバーが出社する中、彼女には在宅対応可能な業務のみが与えられました。

このように「在宅勤務は社員の権利」と主張する社員と、「出社勤務は社員の義務」と主張する会社側で意見がわれるケースがあります。

実際在宅勤務を希望する人に、会社は在宅勤務を許可しなければならないのでしょうか。

オランダ下院では、今年7月に在宅勤務を法的権利として認める法案が可決されました。オランダ議会は二院制のため、法案成立のためにはさらに上院での承認も必要ですが、今後、従業員が在宅勤務を希望した場合、職務上可能な限り検討することが会社側に義務付けられます。法制化されれば、在宅勤務は従業員の権利になると思われます。

しかし日本では、まだ法的に在宅勤務が従業員の権利として認められていません。働く場所を決めることは「会社の権利」なので、会社が出社を求めた場合、社員は原則、出社しなければなりません。

在宅勤務はあくまでもオプション

在宅勤務はあくまでも、通常勤務ができる人、すなわち出社勤務ができる人への会社のオプション(福利厚生の一部)だと私は考えます。

つまり、在宅でも業務ができるか否かの問題ではなく、会社が求める場所で業務ができるか否かという単純な話なのです。そして、産業医は、あくまで会社の求める通常勤務(出社勤務)ができるか否かに対する意見を述べるのみです。実際、産業医として「必ず在宅勤務でなければならない」と言うほどではない場合、会社の最終的な判断も同じことが多いです。

もちろん健康上の理由で会社の求める勤務ができないのであれば、その社員は病気治療のための休職を取得し、治療に専念すべきだと考えます。そのためには医療機関の発行する診断書が必要ですし、休職中は懸念する健康問題の治療に真摯に努めていただきたいと思います。